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アクレニア戦記 ~二つの決意~  作者: 冬永 柳那
二章 遥かなる旅
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反撃開始


ガラガラガラ…


「いっつ…」


グリムワイバーンが壊した瓦礫と共に落ちたシオンは、あちこちぶつけた体を擦りながら這い上がった。


見た所汚れてはいるが、体の主な所に怪我は無い。


その事を確認したシオンは、未だに軽い土煙の残る周囲をざっと見渡した。


「…被害はあまり無いな…。町の人たちも、やっぱり逃げてくれたんだろうか…」


周囲の異常とも言うべき静かさに、シオンは何か嫌な予感を覚えていた。


だが、今は共に落ちたリィナの発見が先だ。


「リィナ! 無事かい!?」


「…シオンさーん…ここでーすー」


微妙に力の無い声が声を張り上げたシオンの耳に届く。


その声を聞き、シオンはその声の下へと駆け出した。


「リィナ! 大丈夫!?」


「…大丈夫なんですけど、また厄介なことになってまして…」


「え? それはどういう…」


ことなのと続ける前に、シオンは気づいた。


自分たちを地上に落とした張本人である、グリムワイバーンがまたもや空に上がっていることに。


「くそっ。僕等じゃどうしようもない。魔法もないし、爪と剣じゃ何もできないよ」


「なんかこう…自分でふわふわっと浮ければいいんですけど…」


「そりゃ無理でしょ。いくらなんでもさ」


体を目一杯使いながら自分の意見を伝えるリィナ。


だが、伝わったことの大きさにシオンは無理だと一蹴してしまう。


それは当然だ。人には翼がついていないのだから。


「…はぁ…はぁ…はぁ…ようやく見つけた…」


「ご無事ですか?」


そんな二人の元に、息を切らせて大きく肩で息をしているユフィーと、それとは正反対の涼しい顔をしたメアが合流する。


その態度の違いに、シオンは一抹の不安を覚えながらも二人に聞いてみた。


「…あの、さ。二人共、屋敷から出てきただけだよね…。どうしたらそんなに変わるのさ」


「あ、あたしは、体力、無いのよ。…それに、壊れた屋敷の階段なんて、走りにくいったらありゃしないわ」


「私は飛び降りてきましたので、最短距離ですね」


「「「はぁ!?」」」


しれっととんでもない発言をするメア。


その爆弾発言に、シオンたち三人の驚きの声が完全に被った。


「…姫を守るためならこの程度造作もありません。ささ、早く無遠慮な来客にはご退場願いましょう」


「そう…なのかな…?」


「…そう言うことにしておきましょう…」


「…それが一番だと思います…」


自身に満ち溢れた物言いのメアを見ながら、シオンたち三人は呆れながらも納得するしか無かった。


だが、その事に納得した所で戦況は変わらない。


地上にいる四人に対し、敵は上空にいるのだ。


上手くいけば撒けるかもしれないが、そんな事をした所で意味は無いと四人は分かっていた。


しかしその中で、シオンだけが唯一気づいた。


勝利のためには力を合わせることが不可欠だと言うことに。


「…メア。もう一度さっきの奴、できる?」


「できますが…当たりませんよ?」


「いいんだ。できるだけ弾幕になるように、バラバラにたくさん撃って」


「分かりました」


シオンに急かされる形ではあるが、メアが風燐華を構え直して力を蓄え始める。


その行動を見届けたシオンは、次にユフィーに話を振った。


「ユフィーはメアの技の後に魔法を。氷の槍みたいなのが出せればいいんだけど…」


「槍? そんな大きな物を作るの?」


「違う違う。小さくて無数の…そうだね…『針』、かな」


「分かったわ、針ね」


了承したユフィーは、その作戦に答えるために魔力を練り上げていく。


そして最後に、シオンは自らとリィナの作戦を口にした。


「僕等は正直言って待ちだ。空を飛ばれてちゃ、何も届かないからね」


「そうですね。でも、待ちっていつまでですか?」


「その辺はユフィーとメア次第なんだけど…。ま、僕等は落ちてきたらまず翼を切る。面倒だからね、もう一度上がられると」


「はい、分かりました」


大きく頷き、シオンの作戦に同意するリィナ。


そしてシオンは、状況を把握するために空を見上げた。


シオンの目に映るのは、未だにゆっくりと旋回しているグリムワイバーンの姿。


その優雅に旋回を行っている様を見ていると、唐突にシオンが声を張り上げた。


「メア! 真正面、今だ、撃って!」


「はぁっ!!」


シオンの指差した方角に向けて、大きく風燐華を薙ぐメア。


指示通り、一つ一つは小さいが、大量の竜巻が生まれ、グリムワイバーンに向かって進んでいく。


広範囲を覆う竜巻は、お互いがお互いに干渉しあいながら徐々に大きくなる。


それを満足そうに眺めたシオンは、次の指示を飛ばした。


「ユフィー! あの竜巻に向かって魔法を! 狙いは竜巻の根元!」


「分かったわ! 無数の揺らめき、不確かな力。氷よ。その力を束ね、鋭利な矛と化せ! 『氷決指針(ディサイド・スピア)』!」


指示に従い、魔法を発動させるユフィー。


発動した魔法は、自らに流れる魔力を外に流し、それを細かく凍らせると言う物。


単純だが、シオンの指示の『針』にはなっている。


指向性を持った無数の氷の針は、シオンの指示通り竜巻の根元部分に向かって飛んでいく。


「よし。これならいけるはずなんだ…」


「シオン? あんた一体何をしようとしているの?」


「まあ見てて。僕の予想が正しければ、直ぐにでも…」


「ギャァァァ!!!」


「な、なに!?」


ユフィーがシオンの行動を問いただそうとすると、突然グリムワイバーンの悲鳴の咆哮が響く。


その音を聞いたシオンは、真っ先に駆けた。


「リィナ! 行くよ!」


「はい!!」


途中でリィナを呼ぶのを忘れず、落下していくグリムワイバーンの元へと駆けていく。


その動きを呆然と見ることしか出来なかったユフィーの隣で、やたら汗をかいたメアがやってくる。


「…あれは風燐華の風にあなたの氷の合わせたんですね…」


「…合わせた? どういう意味……っ! あ、あんた、ものすごい汗の量よ!? 大丈夫なの!?」


メアの体から滴り落ちる、尋常では無い汗の量に、ユフィーはひどく慌てる。


だが、メアは軽く腕を上げてそれを制した。


「…風燐華は魔剣。ビルスティアの私が扱うべき物じゃないんです。魔力の代わりに、尋常では無い体力を消耗するんです。だから…」


ドサッ


そこまで言った後、力尽きるように地面へと倒れこむメア。


その突然の出来事に驚きながらも、ユフィーはメアの体を抱え上げた。


「ちょ、ちょっと! 本当に大丈夫なの!?」


「…少し、眠らせてください…そうしたら、回復はしているので……」


消え入りそうな声でそう言うと、直ぐに規則正しい寝息を立て始めるメア。


その異常なまでの素早さに、ユフィーは少し呆れてしまう。


「…ビルスティアは、眠ることで体力を一番回復させる術って聞いたことあるけど、本当だったとわね…。まあ、こうされちゃ動けないし…シオン、リィナ、頼むわよ…」





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