ド天然
ぐぎゅるるるる…
「はうぅ…」
盛大な腹の音が、森の中に響く。
小刻みに鳴る腹の音に、その腹の持ち主はお腹を押さえながらとぼとぼと歩く。
「…お腹空きましたぁ……」
お腹を押さえながら嘆く声の発信源は少女。
白銀の髪を頭の後ろで一つに纏めた、真剣さがうかがえる青い瞳を持った少女である。
そして、その腰には少々不釣り合いな長剣が吊るされており、ガシャガシャと音を立てていた。
そんな少女が、羞恥に顔を赤く染めながら森の中を彷徨い歩く。
「…うぅー…ここはどこなんですかー…」
さらには、完全な迷子になってしまっているようである。
決して暗くはないが、人里離れた雰囲気の森の中に少女が一人。
かなり危ない状況である。
だが、この少女はそんなことが微塵も頭の中に無いのか、ただ悲壮感漂う歩き方で森の中を歩いていた。
「…ん? これは……クン、クンクン……」
しかし、この少女は運だけは持っているようだった。
突如として香ってきたおいしそうな肉の匂いに、鼻をヒクつかせながらその出所を探す。
そして、その匂いが出ている所に向かって、だらしなく開けた口から涎を垂らしながら向かって行った。
「いやー、ちゃんと燃やせる枝が見つかって良かったねー」
「…それはあたしに対する当てつけと取っていいのかしら?」
パチパチパチパチ…
炎がそんな音を出しながら燃えていく。
その炎を囲むように、シオンとユフィーは少しばかり大きな切り株の上に座っていた。
シオンは手に持った木の棒で、炎の調節のために燃えている枝を突いている。
その間に、ユフィーはクローウルフを解体して調理できる大きさに小分けしていた。
「そういえばさ、このままこういう役割がつきそうだよね。僕が火とかの雑用管理で、ユフィーが調理役みたいな」
「…あたしは最初から何となくこんな感じがしてたけどね。王子様が料理なんかできる訳ないもの」
「確かにそうなんだよねー。結構僕は何でもやらせて貰えたんだけど、料理場だけは入れてくれなかったからね」
「面目がたたなくなるからじゃないの?」
そんな話をしながら、ユフィーは作っておいた台座に肉の塊を乗せ始める。
串のようにした、肉がついた棒も一緒に炎の周りに突き刺していく。
後はこれを焦げないように放っておくだけだ。
「あ、いい匂いしてきたねー」
「そうですよ! あー、早く食べたいです!」
「うん。僕ってこう言うお肉の形って食べたこと無いから、楽しみだよ」
「私もですよー!」
「ん?」
そこまでいって、シオンは初めて首を傾げる。
自分はいったい、誰と喋っているのだろうかと。
「…あんた…誰?」
そして、ユフィーのかなり不機嫌な声が響く。
その不機嫌な声を聞いたシオンと、もう一人の声の主はお互いを見つめあった。
「うわぁ!」
「キャァ!」
叫び声を上げ、二人共その場から飛び去ってしまう。
どうでもいいがこの二人。かなり身体能力が高い。
飛び去ったシオンは尻餅をつきながら、その侵入者に向かって指を指した。
「だ、誰!?」
「すいませんすいません! いい匂いがしたものでして決してやましい思いがあったからではなくお腹も空いていて迷子にもなっていて人がいるという事に感動を覚えてしまっただけなんです! あ、私はリィナ・ハーキュリーって言います。以後お見知りおきをお願いします」
凄まじい勢いと、ほとんど一息で言っているような言葉に、二人は気圧されてしまう。
後退りしながら地面に減り込む勢いで土下座する、リィナと名乗った少女の姿に苦笑いしか出てこなかった。
「え、えーっと…とりあえず頭を上げてくれると…」
「何でそんなに申し訳なさそうなのよ、あんたは」
「なんとなくだよ、なんとなく」
「…まあいいけど」
シオンはそんな下手に出た対応で、土下座し続けるリィナに話しかける。
「すいません…。私、色々と混乱して……」
ぐぎゅるるるる…
「…はぅー…///」
自分では制御する事のできない腹の虫の叫び声に、リィナは顔を真っ赤にさせてしまう。
そんなリィナを哀れに思ったのか、シオンはタイミング良く焼けていた肉をリィナに差し出した。
「…食べる?」
「…いただきます」
顔が真っ赤な事をごまかすかのように、リィナは一気に肉にかじりついた。