神国の章
中央大陸の約7割を支配した覇王ミヅキが最後の不可侵の聖域、神獣の森への侵攻の準備のさなかに没してから長い年月が流れた。
絶世のカリスマが倒れた大陸は大小無数の国に分裂し、今や戦火をまきちらす群雄割拠の戦乱の時代に入っていく。
民は永遠に続くかと思われた戦に喘ぎ、苦しんでいた。
やがていつしか戦乱から逃げ出した流浪の民が集まり、神獣の森へと移動を始めた。
神獣の森とその付近一帯は決して人が立ち入る事のできぬ不可侵の聖域である。
寄らば火炎が迸り、空をゆけば雷が咲き乱れ、竜巻が吹き荒れた。
聖域を侵す者はすべからく裁きが下され、霞と消えた。
しかしそれでもなお、人が神獣の森を諦められなかったのはひとえに森を周辺一帯が非常に肥沃な土地であったからである。
膨大な数へと膨れ上がった流浪の民は一歩先に広がる争いのない静かな大地を臨み、涙した。
そこへ六天使に導かれた六人が現れた。
詩人が説いた。世界に愛を。
魔導士が説いた。世界に調和を。
赤の騎士が説いた。我らに愛を。
青の騎士が説いた。我らに調和を。
白の騎士が説いた。汝に愛を。
金の騎士が説いた。汝に調和を。
六人が言った。
ああ、どうか嘆き悲しむことなかれ。
その涙が真実であるのなら。
争う心を真に望まぬとあるのなら。
生きとし生けるもの全てと手を取り合えるというのなら。
ここに宣言せよ。
誓いを。
これより我らは神と精霊の下に調和の使徒とならん。
愛を以って和を尊び、皆兄弟とならん。
契りを交わし給へよ。
おお。我らが主はここにあり。
主よ。いと優しき豊饒の大地よ。どうか我らが糧を得る事を許し給え。
我ら主に伏して奉る。
いざ、我らが道を開かん。
子らよ、我らが足跡を辿れよ。
彼ら六人は神獣の森へ入り、姿を消した。
それから七度目の太陽が昇った日に六人は再び神獣の森から姿を現した。
ここに神獣の森を除いた周辺一帯の不可侵域が解かれることとなる。
六人は流浪の民をまとめ上げ、神獣の森を聖域としてそれを囲むように国を建てた。
名をダーンドール神国という。
周辺各国は不可侵のはずの聖域に突如興った国に目の色を変えた。
各国の王はその豊かな土地を欲し、すぐさま軍を向けた。
ダーンドール神国はこれら全てに相対し、神国の地を侵す者に敢然と立ち向かった。
神国が建国され二千年。
彼の地を踏み荒らそうとした者らは幾百もの戦を経てもなお、未だ一度たりとて為しえていない。