アークマスターの章
ナインヘルツ暦は2000年代に入り、獄冥戒竜はますますその活動を盛んにしていた。
南の大陸に幾万の竜と共に鎮座する絶対たる暴君に滅ぼされた地は既に百を越えていた。
その爪は荘厳華麗を誇るアスリア国のハロルド城を打ち砕き、
その牙は海に浮かぶ船団を一口で噛み砕き、
その翼は大空全ての雲を吹き飛ばし、
その吐息は輝く純白の炎となり都一面を融解する。
獄冥戒竜が気まぐれに舞い降りた地は唯一つの例外もなく滅びを強いられた。
如何なる騎士団も、如何なる魔導団も、如何なる国家も、
全てが彼の神話の前には無力。
一方、人は南の大陸へとその勢力を伸ばしてはいたが、
地上の生物として最強を誇る種族たる竜、その楽園へ踏み込んだ者には
次々と炎の吐息が浴びせられ幾多もの無残な屍を晒した。
それでも山岳の多い南の大陸に眠る鉱物の魅力に取り付かれ、
人は僅かながらもその版図を勝ち取っていた。
当時小国であったタロウル王国も南の大陸のわずかな人間の国家の一つであった。
タロウル王国は西と南の山に巣くう数体の魔竜に頭を悩ませていた。
ふらりと現れては人を食い殺し、その都度騎士団が迎撃にでているが
少なくない犠牲を払っても追い払うのがせいぜいだった。
魔竜に傷を与えては巣に引きこもり、傷が癒えれば再び飛来する。
そんな中、一人の少年が王城の前に現れて王への面会を求めた。
少年は手土産として王国を悩ませていた魔竜5体全ての首を持参し、
自らを『XXXX・XXXX』と名乗った。
後日に改めて城へと参上を命じられたXXXXは国王への謁見を果たす。
XXXXは言った。
我が望みは唯一つ、世界の救世として今なお世界を脅かす獄冥戒竜を滅ぼす事であると。
その場にいた国王、文官、武官の全員が少年の無知無謀な蛮勇を嘲笑した。
騎士団長は大言どころか妄言ともいえる言葉を述べる少年を優しく諌める。
少年よ、最後の神話の具現たる獄冥戒竜をその手の稚魚と同列に並べてはいけないと。
それでもなお、XXXXは続けて言葉を重ねた。
不肖の身ながらこれより東へと赴き、神龍の龍玉を賜って参りましょう。
もし成し遂げた暁には、騎士団を一つ頂きたく存じ上げます。
それからXXXXは魔竜討伐の褒賞として金を与えられ、城から追い出された。
獄冥戒竜と双璧を為す最後の神話たる神龍は未だかつてその姿を見た者はいなかった。
存在すら疑問視される神龍を訪ねるばかりか、高位の竜種にとって自らの分身、自らの命、
自らの力の象徴とされる秘宝の竜玉(龍珠)を人間が受け取って来るなど夢物語だと
一笑に附された。
それから3年の時が過ぎる。
再びタロウル王国の王城へ仲間と共に姿を現したXXXXは正体不明の竜玉を身体に埋め、
神龍から授かったという秘術を携えて国王に面会を求めた。
国王はXXXXの持つ竜玉が神龍のものであると認め、それを世界へ知らしめる。
更にXXXXは王国に恐るべき竜の秘術を授けた。
一つ。竜玉から力を引き出し、己と一つにする秘術。
一つ。竜の魂を呼び寄せ、憑依させる秘術。
これらは人の身に竜の属性を与え、半人半竜の身と化す事で飛躍的な力をもたらした。
XXXXは改めて一個騎士団を求め、国王は神龍という前代未聞の功績に応える形で
彼に新しい騎士団長の座を与えた。
彼の騎士団はタロウル竜騎士団と名づけられ、すぐに国境へと向かい城を出た。
川を越えては竜を打ち破り、
湿原を越えてはヒドラを沈め、
高原を越えては竜の群れを滅ぼした。
剣を振るう度に竜の屍が重ねられ、いつしかその数は二千をゆうに越えていた。
日々常勝の騎士団長は常に前線に留まり、数々の激戦を潜り抜けてなお傷一つ無く、
前代未聞の快進撃は大いに周辺諸国を沸かせ、やがて世界へ轟く。
XXXXの名声は止まる所を知らず、人々は惜しみなく喝采を贈った。
今まで竜達によって阻まれていた新天地に夢と希望を求めて大勢の人が流れ込み、
タロウル王国は急速に領土を拡大して空前の大発展を遂げる。
城の国王はある日酒の場で言った。
XXXX騎士団長が一日励むと、城の文官達は一ヶ月休みなく励まねばならなくなる。
城の倉はもはや解体した竜で満杯よ。こうなっては竜鱗を通貨として使ってみようか。
(※竜鱗 非常に優れた貴重な素材。竜によっては値段がつけられない程の価値を誇る)
そうして竜との戦いに明け暮れるXXXXの元に刺客や謀殺が向けられる事が
たびたび起こったが、これら全てはその身体に届く事なく叩き折られた。
騎士団長となり数年後。
タロウル竜騎士団は竜玉を抱くに至った15名を中心に王国一の騎士団としてあった。
中心の15名は炎と鮮血の十五戦衣と呼ばれ、朱き衣を纏て羨望と畏怖を以って君臨す。
獄冥戒竜の勢力は押され続け、大陸の南へと次々に追いやられていく。
遂に2327年。
XXXXは全軍総騎士団長を拝命し、
タロウル竜騎士団団長率いる王国全軍が獄冥戒竜に戦いを挑んだ。
獄冥戒竜もまた残った眷属を集結させてこれと衝突。
少年が始めて王城を訪れてから9年を経ての決戦だった。
決戦が始まる前から城内では確実に敗退するとの見方がほぼ全体を占めていた。
人間にどうにかできる相手ではないというのが共通した認識。無謀に過ぎると。
しかしそれでもなおXXXX騎士団長を止められずに開戦したこの戦は、
一日で収束するも壮絶凄惨極まりないものとなる。
このたった一日の一戦で討ち取られた竜の数は三千とも五千とも言われている。
半人半竜と化した騎士と魔導士達は竜の炎と鮮血を盛大に浴びながら
総騎士団長の道を切り拓く。
特に先頭に立ち竜玉の加護を得ている十五戦衣の面々は闘神もかくやという勢い。
竜の魂を憑依させた者でさえ明らかに霞む、別格の存在感を示していた。
彼らは獄冥戒竜へと突き進む。
一歩進んで炎を切り裂き、
一太刀振るって鋼鉄の硬さを誇る竜鱗ごと斬り裂き、
一声吼えて傷ついた躯を、心を奮い立たせる。
そして――XXXXの前に最後の神話が舞い降りた。
伝説がここに始まる。
XXXXと獄冥戒竜の戦いを直接見届けた者は共に戦った炎と鮮血の十五戦衣のみ。
その時、如何なる死闘が繰り広げられたのか。
どれほどの想像を絶する光景が開かれたのか。
生き残った十五戦衣は最後まで黙して語らなかった。
ただ、分かることは、
XXXXが放った四十三技が最高峰の一つ、ブレイクダウン・ミーティアの一閃は
遥か彼方の海を越えて更に奥の中央大陸をも割ったという。
そして、夜明けに獄冥戒竜の断末魔が世界全土に轟いた。
人類史上において過去、そして未来永劫に渡り最強たる3A+を冠せられた獄冥戒竜。
その最期であった。
有史以来今まで二千年に渡り世界に無情の破壊を繰り返してきた荒ぶる神を討ち取り、
見事生還を果たしたXXXX及び全軍は城で国を挙げての宴が催される。
宴のさなかに突然神の僕たる天使が降臨し、伝えた。
XXXXのその勲を以って今代唯一絶対最強たる証『聖紋』並び
称号『アークマスター』を贈る、と。
以後、『聖紋』はその時代において最強の力を持つ者の体に現れ、
その者は『アークマスター』と名乗ることを許された。
更にXXXXはその功績と力を称えられ『アークマスター』でも極めて特別な
『太聖』を受ける事となった。
――その後、XXXXは姿を消した。
その余りにも強い力を恐れられて暗殺されたとも噂されるが、真相は不明である。
また同年。炎と鮮血の十五戦衣も自ら望み、封印という形をとり大陸の何処かで
眠りについたとされる。
タロウル国王は自らを皇帝と世界に宣言し、国名をタロウル帝国と改めた後、
かつての小国は強盛大国として南の大陸に根を下ろした。
獄冥戒竜が滅んだとしても竜は未だ数多くが大陸の南半分に生息しており、
その勢力は未だ衰えたとは言えず脅威のままであった。
しかし帝国もまた短期間の変化と規模拡大に対応しきれておらず、
これ以上国内を疎かにできないとされ、帝国の大侵攻はここで終止符を打った。
獄冥戒竜との決戦が終わり、1年後。
帝は次第に奇行に走り始める。
落ち着き無く爪を齧り、その目は一所に落ち着かず絶え間なく移ろい続ける。
何よりも、帝はしきりに体を震わせ、何かに怯えていた。
間もなく帝は帝位を譲り、部屋へと閉じこもった。
そしてある夜、奇声を上げた後に自ら火を被り窓から身を投げた。
帝が奇行を現す前、彼は皇子に独り言のように言った。
我々は獄冥戒竜を滅ぼすべきではなかった。
しかし今となっては全てが手遅れだ、と。
帝が遺したこの発言の真意については未だ不明なままである。
追記。
初代アークマスターの名は後から何者かによって塗りつぶされていた。
これは彼が出てくる書物や石碑といった全てに共通する事であり、未だ謎となっている。
顔のない大英雄。何処から現れ、何処へと去ったのか。
何故彼は獄冥戒竜を打ち滅ぼそうと思い至ったのか。
彼の影を踏むには余りにも遠い。
輝竜戦鬼ナーガスはもうちょっと評価されてもいいと思うんだ。
あと竜玉は刻の大地の聖石みたいな感じ。
竜玉は高位の竜だけが一体に一つだけ生成できる力の塊。竜が認めてくれたら人に譲ってくれるので、それを腕や首や胸といった体のどこかに埋め込んで自分の力とするのがタロウル帝国竜騎士団の特徴です。
けど竜玉もらえるのは本当に一握りなので、一般団員は憑依術の方を使います。