創世の章
初めに闇があった。
それは何もかもが曖昧で、広いのか狭いのかすら分からずただひたすらに漂うだけのものであった。
変化は唐突に。
悠久の果てに、或いは夢から覚めたかのようにいつしか闇の中に光が生まれ、膨らんだ。
闇に浮かぶ光の中にはドロドロに渦巻く溶岩と荒れ狂う大嵐があった。
空は厚く雲で覆われ、豪雨は永遠と思われるほど途切れる事なく続いた。
やがて溶岩は冷え固まり、大嵐は静まった。
後には広大な大地とその上を静かに優しく吹き抜ける風、大地の奥深くで眠る原初の火と澄み渡る大海原。
地平の彼方より出でて、天を燃やして沈む太陽。
同じく天へと昇り金色に、或いは白く、或いは紅くそっと仄かに大地を照らす月。
そして大地の中心にて雄大に屹立する大樹があった。
『世界』の誕生である。
『世界』は5大陸と6大海に分かたれた。
風は世界に変化をもたらし続け、やがては大地を緑で覆い尽くした。
若く活力ある息吹に満ちた『世界』はあるがままに小さな朽ちと誕生を繰り返す。
それは太陽が沈み、風が吹き荒れるある夜のこと。
『世界』の海からヒトの形をした女性が生まれ、砂浜へと降り立った。
女性は水に滴る流れるような長い髪を引きずりながら、そっと膝を折った。
そのまま女性は大地へと口づけをし、大きく両腕を広げて夜空を仰ぐ。
そして小さな唇が開かれ、喉が震える。
初めて産み落とされた音は『世界』の静寂を破り、波紋となって揺れ動かした。
その時、世界に色が溢れ、音色が響き渡り、濃密な生の匂いが『世界』を駆け巡った。
突如月が光り輝き始め、世界を太陽の如く照らす。
夜闇が地平の彼方へと払われ、七色に輝く女性の髪があらわになった。
これが第一の神。始まりの女神である。