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エピローグ

 翌日、梓はいつものように俺を迎えに来た。

 髪は見慣れたツインテール。「えへへ」と笑って俺の腕にしがみつく。窮屈な登校風景が甦った。

「もう暑いから離れろって」

「えへへ、ご迷惑おかけします」

 あー、余計なこと言うんじゃなかったかな。

 昨日、既成事実を作ることはなかったものの、手錠で拘束されたままいろんなところを舐めまわされたり、無理矢理生着替えを見せられたりと散々だった。俺は必死で抵抗していて何を言っていたのかも覚えていない。とにかく必死だったんだ。夕食の時間が近づいて来て、父親に気付かれる前に帰らないと、ということで、帰りも斎藤さんに送ってもらった。「梓は大丈夫そうです」そう言うと「ありがとうございました」とお礼を言われたことが少しくすぐったかった。

 梓が隣を歩くっていうのも久しぶりだ。今日はこのままでいい。それに、少しだけ嬉しく思うのも嘘じゃない。

「あれ~? 先輩もにやにやしちゃって。もしかして嬉しいんですかぁ?」

「ち、違うわいっ!」

「別に照れなくてもいいのに~」

「照れてないし! 照れることなんてないしっ!」

 うう~、むかつくこいつ! にやにやすんなっ!

 さ、学校行こう、学校!

「なんか騒がしいと思ったら」

 背中から声がかかった。今回の件ではお世話になった幼馴染、その人の声。相好を崩してこちらを見ていた千佳は「やっ」と片手を上げて朝の挨拶を敢行した。

「千佳先輩!」

 梓は千佳の姿を見ると、何年も会ってなかった親友に会うように、喜々として駆け寄って行った。そして、ドーンと二人の体がぶつかる。梓の奴、一週間でブレーキのかけ方すら忘れてしまったらしい。

「うわっ。もう、梓ちゃんったら、朝から元気だなぁ」

 千佳は落としてしまった鞄を拾いながらやれやれと口にした。

「千佳先輩! 千佳先輩! 千佳せんぱーいっ!」

「あっ、ちょっと! もうっ、あははっ!」

 じゃれつく二人。なんだろうね、梓の奴、こんなに千佳のこと好きだったのか? 仲睦まじい姉妹同然だ。

「千佳先輩聞いて下さい! 梓、真先輩に告白されちゃったんですよぅ!」

 そして何を言う。お前の中でどういう脳内変換が行われたか知らないが、そういった事実は一切ない。どう譲っても寂しいって言ったことくらいしかないっての。

「へ、へええぇ。そ、そそそそうなんだ。よ、よかったね梓ちゃん」

 千佳もどうしてそう本気に梓の言葉を真に受けるかな。

 まったく、少し間が空いただけじゃ何にも変わらないんだな。

 うん、喜ばしいことだ。

「はいっ! ありがとうございます!」

「う……うふふふ、うふふ……」

「いや千佳、違うからな」なんか邪悪な笑みだぞお前。

 突然、千佳が俺にキッ、と鋭い睨みをくれた。

「じゃあね真。先行くから。末長くお幸せに! ふんっ!」

「お、おい千佳! どうし……!」

 行ってしまった。なんなんだ。

「ふふんっ」と梓はふんぞり返って千佳の背中を眺める。

「ふふんて、お前は何を千佳相手に勝ち誇ってるんだよ」

「遅くなりましたが、いつかのお返しです」

 お返しって、相変わらずわけわかんねぇな。

「先輩が天然っていうところが梓の救いですね」

「は? 俺のどこが?」

「教えません。梓だけの問題じゃないですからねー」てへっと舌を出して小悪魔ばりに笑う。「行きましょう、先輩っ!」あげくには一人で駆け出して行った。

 ったく、我が儘お嬢様は健在だな。

 あー憎たらしい憎たらしい。



 学校に着くと、今までとは周りの視線が違っていた。変な目で見られていたのが、何となく、温かく迎えられているような気がした。いや、むしろ祝福?

 ははは、待て待て。何だこの歓迎ムードは。ハネムーンから帰ってきたカップルじゃねえんだぞ。「仲直りしたみたいだな」「よかった、戻って来て」「喧嘩もするものなのね」「おっ、西校名物復活」「結婚式挙げて来たのかなー」誰もかれも好き放題言いやがって。喧嘩じゃねえっつーの。ほんとに、見世物だこりゃ。

 だけど、それも今に始まったことじゃない。懐かしい空気じゃないか。悪くない。

 生徒の群れに祝福?されつつ昇降口を抜けて階段を上がると、倉敷さんに会った。まるで出迎えるように、階段を上がった先の壁にもたれかかっていつもの柔和な笑みを向けていた。

「やあ、あずあず。ペットをほったらかしにするのは感心できないな」

 言葉とは裏腹に、優しそうに笑う。

「みっちーせんぱーーーーいっ!」

 梓は倉敷さんの姿を見るなり猛ダッシュ。おいおい、また人身衝突やらかすつもりか。

 と思いきや、やはり倉敷さんは一枚上手だった。飛び掛かろうとした梓の頭を片手で押さえ、梓は必死にその場で空回り。

「朝は苦手でさ。激しい挨拶は遠慮願いたいね」

「あ、あれ? みっちー先輩にたどり着かない?」

 朝から即興コントとは、ほんとに意思疎通ばっちりだね。

「ジョンも、おはよう。よかったね、ご主人様が戻って来て」

 むーんむんむん、梓は腕まで振り始めた。その風で倉敷さんの長い黒髪が揺れる。

「ああ、まぁね。この前は迷惑かけたよ」

 むんむんむんむん。

「いいよ。私もあずあずと会えてうれしいからね」

 むんむんむんむんむんむんむんむん。

「そう言ってもらえると、助かる気がするな」

「むー……梓の頭の上で話してる」

 やっと落ち着いたかお嬢様。

「これでひと安心だね。また時間がある時にショッピングでも行こうか、あずあず。変態もさっき見かけたから、行ってあげるといい」

 裕也には、俺から礼を言わないとな。あいつもなんだかんだで俺に気を遣ってくれたから。

「何回断ったの?」

「二十一回。まだまだだね」

 数えてる倉敷さんも律儀だねえ。案外脈あり、かな?

 裕也には廊下で会った。

 機嫌良く、ふんふん鼻歌を歌いながら女子のスカート丈チェックに励んでいた。

「おっ。久しぶり、神宮寺さん」

「お久しぶりです。変態さん」

 変態と呼ぶ相手と親しくしてるのも変な話しだよな。それとも同類だと思ってるのかな。

「裕也、迷惑かけたな」

「いいってこと。神宮寺さんから女の子の一人や二人紹介してもらえれば万々歳だ」

「変態に紹介する友人はいませんよ」

 ばっさり切って捨てられた。

 裕也は大きく肩を落とし、教室に戻って行った。寂しい背中だな。頑張れよ、裕也。これからは俺が応援してやる。

 なにはともあれ、また騒がしい日常が戻ってきた。

 今回の件で、俺は自分のことが少しわからなくなった。

 俺は一体どうしたいのか。

 迷惑極まりない、梓の猛アプローチ。結局、梓の父親との関係は変わっていない。相変わらず、俺は梓の我が儘に付き合ってご機嫌取りに精を出すしかないのだ。

 梓との関係を完全に断ち切ることもできたはずだ。

 だけど、俺はそうしなかった。

 梓のいなかった一週間、寂しかった。つまらなかった。逆に言えば、俺は梓と一緒にいることを楽しいと感じていることになる。それはあながち間違っちゃいないし、否定できない自分がいる。

 それなら梓のことが好きなのか、と問われれば、それにはクエスチョンマークで返すしかない。

 中途半端。

 近過ぎず、遠過ぎず、着かず、離れず、そんな距離が俺と梓の距離だ。

 一番の我が儘は俺なのかもしれない。今はそんな位置に立っているのが心地良いと思えるのだ。梓がいて、千佳と裕也がいて、倉敷さんがいる。何も失わず、そして何も得ようとしない。

 まだしばらくはこのままでいいんじゃないか。

 焦らなくても、いいよな。

 教室に入ると、クラスメイトが一斉にざわついた。

 もちろん、俺と梓の姿を見て。

 お嬢様のご帰還だ。みんな覚悟しとけよ?

「あ、あの、神宮寺さん」

 隣の席の坂本さん。俺に目配せをして、軽く微笑んだ。

 覚えてくれているのか。

 言ってやってくれ。

「みんなね、すごく心配してたんだよ」

 梓はきょとんとして、すぐに満面の笑みを浮かべた。

「みなさんっ! 心配しなくても、梓と先輩の愛は永遠ですからーっ!」

「どあほっ! 俺とお前の仲を心配してたんじゃねぇっ!」

 こんな奴だけど、一緒にいるのは、悪くない。


                                    (終わり)

 しゃーむです。

 この度は読んで頂きありがとうございました。速効完結で物足りなかった人がいたら、すみません。

 実はこの作品は別にパソコンのワードに書き留めていたもので、手直ししながら写したも同然の作品なんですね。一応、私が書くものはこのサイズがほとんどです。この続きは、シリーズものとして続編という形になります。

 ですが、はっきり言ってこの先の展開はほとんど考えておりません。更新は早かったつもりなんですが、それは出来上がっていたものを写していたから。新たに加えたエピソードはありますが。

 もし続編を書くならば、更新速度はぐっと落ちます。それでも、続きが気になる、読みたいと言ってくれる方がいらっしゃるなら、書いていくつもりです。

 そういう方がいらっしゃったら、レビューとか、感想のところに一言書いていただければ励みになります。よしやろうという気になります。本当は感想が欲しいだけです。でも少しは次の内容も考えています。

 いろいろ言っていますが、えっちらおっちら書いていきます。

 ということで、次回作もよろしくお願いします。

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