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一章 ACT-2 仮面の騎士

書きあがったので、連投します。

 皇暦三百七十六年。神聖エンデュミオン帝国首都、ペンドラゴン。


 ここは三方を海に囲まれた完璧な要塞都市だ。魔法技術という概念自体が存在しない神聖エンデュミオン帝国はペンドラゴンを強力な砲台で固めることで守っていた。

 王都の様に守護結界ガーディアンを張るのが一番楽といえば楽なのだが、帝国にはその手の魔導師のエキスパートは存在しない。

 王都が童話風の町並みなのに対し、ここペンドラゴンは中世から近世のヨーロッパをイメージさせる町並みがあった。王都には既に存在しない工場というものもペンドラゴンには存在していた。王都と比べると不潔、というイメージが強いが、近代的な下水道や給水塔が存在していて、王都よりも優れているのは事実だった。

 市街の大通りには乗用車が走行していて、馬に乗った警備員が町を巡回している光景は見慣れた朝のものだ。


 ペンドラゴンには王都の宮殿の二倍はあろうかという要塞型の城が存在していた。

 岬に聳え立つその城、アテナ城は皇帝の居城として世界随一の防御力を誇っていた。魔法に頼らずにここまでの防御力を誇るのは至難の業だ。

 王都の城壁を超える高さの城壁には無数の亜粒子パーティクルカノン砲が構えており、射程範囲はペンドラゴン市街を含む、半径六キロという驚きの広さを誇っていた。


 この日の天気は曇り。

 アテナ城の中心部に存在している謁見の間では第三十八代目皇帝ヘルメス・エンデュミオンが玉座に座り、一人の人物を待っていた。

 現在、謁見の間に在席しているのは皇帝の主席顧問を務めるグレゴール・ダーミッシュと数名の貴族だけだ。

 グレゴールは先週から皇帝の主席顧問という重役に就いたばかりで、未だ初々しさが残る金髪の青年だった。皇帝は何も言わず、玉座からも動かない。周りの貴族はこれからやって来るであろう客人について噂をしていた。グレゴールはその噂話には加わらず、ただ客人を待っていた。


 予定の時間である午前十時を柱時計が指したと同時に、謁見の間の扉が開かれた。

 開かれた扉から入ってきた人物に、グレゴールだけではなく、謁見の間で談笑をしていた貴族全員が息を呑んだ。まるで蛇に睨まれた蛙の如く、微動だにしなかった。いや、出来なかったという表現の方が正しいだろう。

 その人物は仮面を被っていた。黒く、全てを吸い込んでしまうような仮面を。それを象徴するように黒いマントを羽織っているのだから、威圧感は口では表現できないほどのものだった。

 何よりも驚きなのは、謁見の間にも関わらず、その人物は腰に剣を差していた。謁見の間は武器の持ち込みが認められていないはずだ。


「これこれ、武器の持ち込みは規則上、禁止ですよ。こちらでお預かりします」


 グレゴールは前に進み出て、その人物に注意を促した。その人物はこちらを向くと、素知らぬ振りをして、皇帝の下へと向かっていった。


「これは規則です!」


 グレゴールが後を追おうとすると、今度は皇帝がそれを抑止した。


「へ、陛下?」


「よいのだ。彼は特例だからな」


 グレゴールはその場に立ち尽くして、その人物を見つめた。ある記憶が蘇ってくる。この国の伝説とも言われる人物のことを。


「ま、まさか……その者が仮面の騎士、”フィア”(恐怖)なのですか?」


 皇帝が頷いた。周りの貴族が騒ぎ始める。

 仮面の騎士フィア。

 それは数多の戦場を駆け回り、帝国を王国の手から救った英雄である。彼が指揮を執り、勝てぬ戦は早々ない。

 彼の名は敵から恐怖の対象として恐れられ、彼が出陣したという知らせだけで敵が撤退したこともある。子供からは御伽噺の主人公のように崇められ、貴族や兵は彼を恐れた。

 しかし彼は仮面を人前ではあまり取らない。常に仮面を装着し、人々を実態の無い視線で見つめる。仮面を外さない理由としては、幼少時の事故で顔が半分吹き飛んでしまったからという噂や、とんでもない美青年らしい、という噂も存在していた。

 グレゴールは後者の方を信じていた。何故なら、以前に皇帝から噂の真偽を語られたことがあるからだ。

 

 仮面の騎士は王国と帝国の間に生まれた皇子。それが皇帝から教えられた真実だ。

 そして今、その人物が目の前にいる。

 フィアは皇帝の前に立ち、片膝をついた。皇帝がその仮面に覆われた頭に手を触れる。


「仮面の騎士よ。我は再びお前を必要としている。また、帝国のために戦ってくれ」


「では、再び王国との戦が始まるのですね。五十年振りでは無いですか?」


 フィアが初めて口を開いた。その声は澄んだ笛の音色のようにグレゴールの耳を癒した。

 皇帝は真面目な顔で頷いた。


「その通りだ。魔法という愚かな存在に縛られた王国の輩に目にものを見せてやるいい機会だ。戦ってくれるな?」


「はい。我が願いのためにも、必ずや軍を勝利に導いて見せましょう」


 謁見の間に歓声が響いた。

 仮面の騎士が出陣となれば勝てぬ戦はない。貴族達はそう思っていたからだ。

 グレゴールも静かな表情で拍手を送った。同時にフィアという人物の素顔を見たい、と思ったのも事実だ。


「では私はこれで」


 フィアは短く皇帝に挨拶をし、出口へと向かって歩いて行った。グレゴールも好奇心に駆られ、後をつけた。

 

 フィアはアテナ城のガーデンスペースに停めてある小型の飛行機の手前で後ろを振り向いた。後をつけてきたグレゴールを見つめる。


「そこまで私の素顔が見たいのか?」


「は、はい。是非、宜しければ……」


 フィアは何も言わずに仮面に手を掛けた。空気が排出される音が響き、仮面の下から素顔が見える。

 黒髪が美しい美青年の顔がそこにはあった。男であるグレゴールまで見惚れてしまうような凛々しさを持った青年はグレゴールに改めて向き直った。


「俺がルシフェルだ。拍子抜けしたか?」


 グレゴールは呆然としていた。意識はあるが、思考が回らない。


「い、いえ……仮面をお付けにならない方が素敵に見えるのではないかと……」


 漸く絞り出した言葉がそれだった。ルシフェルはフッと笑い、飛行機に乗り込んだ。


「よく言われるよ。でもな、俺は仮面を付けて生きていくんだ。願いが叶うその日まで……」


「願いですか?」


「そうだ。俺はお前が気に入った。また何処かで会おう」


 ルシフェルの乗った小型飛行機は荒いエンジン音を立てて、飛びだって行った。

 ルシフェルは去り際に一枚の紙をグレゴールに投げた。その紙には「アドニス村」と書かれていた。


 仮面の騎士であり、フレーナの実の兄でもあるルシフェルの願いとは何なのだろうか?

 グレゴールの頭の中ではその言葉が渦を巻いていた。

次回からストーリーが進行します。

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