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一章 ACT-1 悲運な妹

では本編に突入です。

尚、この作品に出てくる人名などは実際の神話とは一切、関係ありません。

 王暦二千十七年、王都アンドロス。


 遥か昔から栄える王都は毎日のように活気に満ちていた。この国は魔法によって統治されている魔法国家であるからにして、何処か童話のような町並みが目に付く。

 王都には守護結界ガーディアンが張り巡らされて、様々な魔法攻撃や物理攻撃から王都を守っている。王都自体も水堀や簡易な魔法結界マジックシールド、高い城壁が存在していて、帝国から王都を守っていた。

 ここオルフェウス王国では義務教育として、魔法教育が義務付けられている。

 魔法教育とは、実際に呪文スペルを唱え、それを実際に生かして経験を積ませて、優秀な魔導師や技師、魔法使いを育成するのを目的とした教育だ。

 この王国では魔法を使用出来ることが基本で、それが出来ないものには食い扶ちが無い。魔法の才能が無いものは自然に隣の神聖エンデュミオン帝国に住むしかなくなる訳だ。そういった意味ではある意味、格差社会なのかも知れない。

 そんな王都の中心部に存在する一際大きな施設、それが王立魔法学院ロイヤル・マジック・アカデミーだ。

 大きさが綺麗に揃った塔が六方星を描くようにして存在しており、その中心に大理石で建てられた学院の校舎がある。八階建ての校舎は真ん中に大きな玄関があり、生徒はそこから校内に入ることになっている。校舎は左右対称になっていて、とても均一のとれた設計をしている。何れも優秀な魔導師が設計を手がけたものだ。

 そんな校舎に入ろうとしている一人の少女がいた。

 彼女こそがフレーナ。

 彼女はこの魔法学院でもトップの成績を収めている優等生だ。スタイル抜群、整った顔立ちにふんわりとした亜麻色の髪。あまりバストには恵まれていないが、それがまた何とも言えない色香を出していた。

 日差しがフレーナの真っ白な肌に反射している。きめ細やかな白い肌は明らかに紫外線に対して無力そうに見える。


「フレーナ! 待ってよ!」


 校舎に入ろうとしたフレーナを呼び止める声がした。フレーナが後ろを振り向くと丁度、飛行箒エアーブルームに乗った少女がフレーナの真後ろに降り立った。服の埃を払い、フレーナに微笑みかける。


「おはよう御座います。テテュスさん。今日もお早いんですね」


 テテュスと呼ばれた少女が元気良く頷き、右手でフレーナの肩を叩いた。


「相変わらずお堅いね。そんな堅苦しくしなくてもいいのにさ~」


「いえ、親しき仲にも礼儀あり、ですから」


「そうね。私ももう慣れたわ」


 二人は並んで歩き、玄関の前までたどり着いた。テテュスは閉まっている玄関を確認すると、ポケットから出した二十センチほどの杖を取り出し、軽く振った。口からは澄んだ音色の呪文スペルが漏れる。

 この杖は魔法学院生徒だけではなく、一般の市民も全員が持っている標準的な杖だ。

 杖にも性能というものが存在し、値が張るものほど性能はいい。杖の性能は魔法マジックの成功率や呪文スペルの正確さを指しており、幾ら腕のいい魔導師でも杖の性能が低いと本当の力を発揮出来ない場合も多い。

 今、テテュスが唱えたのは簡単な単色魔法コモンマジックで、念動力サイコパワーで手を触れずにドアを開くという魔法だ。


「さ、教室行こう!」


「はい。一時限目は技術魔法テクニカルスペルの応用でしたね。段々と授業のレベルも上がってきていますし、大変です」


「何言ってんのよ。フレーナは頭いいし、可愛いし、魔法の才能も天才クラスなんだから余裕じゃない。それに比べ、私は……」


 テテュスは俯いた。

 テテュスの成績は悪くは無いのだが、正直良くもない。可もなく不可もなくと言うのが妥当だ。特にテテュスは技術魔法テクニカルスペルの詠唱と操作コントロールが苦手で、むしろ戦闘魔法バトルスペルの方が得意だった。

 しかし戦闘魔法バトルスペルは戦場で役に立つ系統だ。テテュスの将来の進路は士官などではなく、補助魔法サポートスペルでの医療介護だった。

 もちろんフレーナはどちらも天才クラスなので苦を感じなかった。むしろ楽だ、と感じてしまうほどだ。

 フレーナはテテュスを励ますべく、その頭に手を置き、優しく撫でた。


「大丈夫ですよ。テテュスさんも十分可愛いです。魔法は出来なくても、元気が一番です」


「それって、遠まわしにバカにしてない? フレーナにまで魔法の才能がないって言われたら私は……」


「はうっ! すみません……」


 フレーナは肩を震わせ、頭を可愛らしく下げた。その仕草に思わずテテュスはフレーナを抱き締めた。


「可愛い~!! 食べちゃいたい! いいかな?」


「だ、ダメです! た、食べないで下さい!」


 フレーナは顔を赤らめた。

 食べちゃいたいくらい可愛いよ、この言葉は昔にフレーナの兄がフレーナによく言った言葉だ。

 あの頃、兄はまだ直ぐ傍にいた。時間あれば一緒に遊び、昼食を一緒に摂った。二人は王都の東の広場にある噴水の袂でサンドウィッチを食べるのが日課だった。

 自分が作ったサンドウィッチを何時も美味しそうに食べてくれた兄はもういない。でも何時か探し出してみせる。昔にそう決意したのだから。


「フレーナ?」


 テテュスがフレーナの名前を不安げに呼んだ。フレーナは気付かぬ間に涙を流していた。

 フレーナは涙を手の甲でごしごしと拭い、笑顔を見せた。


「大丈夫です。少しお兄様のことを思い出していただけですから……ご心配なさらずに」


「ルシフェルさんのこと? 私は見たことないんだけど、きっとかっこいい皇子様なんだろうね」


「ええ、とても素敵なお兄様でした……優しかったんですよ……だから思い出すと涙が……すみません。取り乱して……」


 泣きじゃくるフレーナをテテュスは先ほどとは違い、優しく抱き締めた。そっと左手で涙を拭う。


「大丈夫。何時か探す時が来たら、私も手伝うわ。だから、ね? 泣き止んで」


「……っく、うぅ……ありがとう御座います」


「それでいいわ。貴方は笑顔が可愛いんだからね?」


 フレーナは元気良く頷き、テテュスの手をとり校舎に入っていった。

 運命は……動き出そうとしていた。

 しかし、まだそれにフレーナは気付いていなかった。兄の存在に……。

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