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人を守るために人を殺し、秩序を守るために法を犯す。

夜更け過ぎの路地裏は、静かに息を潜めて眠っていた。街灯から漏れた光は冷たく辺りを包み込む。家々から光は消えて、遠くで鳴っているバイクのエンジン音がやけに大きく聞こえた。

「は、っ…!はっ…、」

そんな静寂を壊すかのように響いた呼吸音とカチャカチャと鳴る金属音。音の出どころを辿れば、まるでなにかから逃げるように闇世の中を走り抜ける少年が一人。やがて行き止まりに立ち会った少年は、静かに息を吐きだしながらスーツの内側から拳銃を取り出しゆっくりと背後の人影に向けて構えた。


___


「裕翔!ご飯ー!」

「今無理ー」

夕食時の食卓。片手にフライ返しを持った母親らしき人物が二階の部屋に向かって投げかけた言葉は悲しくも突っぱねられて返ってきた。

「全く…今食べないならご飯ないからね!」

「わーったよ!!食うから!」

「あの子反抗期か何かかしら」

「仕方ないよ。もう17だ」

やや乱雑に階段を降りる足音とともに夕食時のリビングに顔を出した少年_佐伯裕翔はどこか気だるげな表情でダイニングの椅子に腰掛けた。

「お兄ちゃん最近機嫌悪いよね」

「うっせぇな」

「あーもう裕翔、美羽!喧嘩しないの!」

美羽、と呼ばれた少女は裕翔の妹だろうか。茶髪の長い髪を一本にまとめて、可笑しそうに笑っている。兄妹喧嘩を母親が仲裁し、仕事から帰宅した父親が席について家族全員で夕食を囲む。そんな、ごく普通のありふれた家庭だった。


__とある雨の日の、休日のことだった。昨日まで続いていた夏の残暑が嘘だったかのように冷え込み、地面を叩く雨音は段々と大きくなっていく。裕翔はいつものスウェットに身を包み、コンビニのビニール袋を片手に小走りで帰路についていた。

(傘持ってくるんだった…)

強くなる雨に顔をしかめながらも玄関先に貼られた「佐伯」の表札に安堵したのも束の間、途方もない違和感に首を傾げる。

「…ドア、開いてんだけど」

数分前、自分が家を出たときは確かに閉めたはずの扉が何故か全開になっていたのだ。玄関掃除のときに開けっ放しにするのはよくあることだが、あの警戒心の強い母が扉を開け放って置くわけがない。違和感を感じないほうがおかしい。恐る恐る家の中に入る。

「………は、?」

見慣れたはずのソファには無数の穴が空き、壁には何かを撃ち込まれたような痕がある。部屋中に蔓延する火薬の匂いと、赤く染まったカーペット。その中心で、父と母が妹を守るように倒れていた。

「と、…さん…?母、…さん…。…、美羽…?」

ビニール袋を取り落とし、裕翔はその場に座り込んだ。まだ17になったばかりの少年の、「日常」が壊れた瞬間だった。


それから通りがかった近所の人が警察に通報したことで、裕翔は重要参考人として警察に連れて行かれることになった。しかし裕翔が家を出てから帰宅するまでの時間_犯行時刻の裕翔のアリバイはコンビニのレシートやら防犯カメラやらで確認され、警察から向けられる視線は「疑い」から「悲哀」に変わった。裕翔は家族の残した遺産でアパートを借りて生活を送っていた。本格的な捜査が始まり、裕翔は被害者遺族としてテレビやら新聞やらに取り上げられる日々が続いた。外を歩けばマイクとカメラを向けられ、部屋に閉じこもればインターホンを押され。家族を失ったばかりの子供に対してすることか、という世間の意見にも頷けるほどの仕打ちだったが、裕翔はもうどうでもよかった。連日テレビで流れる「一家殺害事件」の報道に嫌気が差し、乱雑にテレビのプラグを引き抜いた。

(…なんでもいいから、…ほっといてくれ…)


数日後、裕翔の部屋に一人の警官が現れた。

「佐伯裕翔くんですね」

「…はい」

「少しお時間よろしいでしょうか」

その警官は、松島光と名乗った。


「え、今なんて…」

「あなたの家族を殺した犯人の目星がつきました」

松島は鞄から取り出した様々な資料を机に並べながら淡々と話を進めた。裕翔に動揺する時間を与えまいとするかのように。あまりの展開に混乱する裕翔だったが、いきなり自分の家族を殺した犯人がわかったかもしれないと告げられて驚くのも無理はないだろう。

「しかしその目的、具体的に誰がどのように殺したかなどは一切明らかになっていません」

「と言うと…」

「この事件には、とある海外の大きな組織が絡んでいると見て間違いないでしょう」

__CROW、という名を、聴いたことはありませんか?松島の言葉に、裕翔は息を呑んだ。

日本の警察だけでなく、世界中の警察機関がその正体を探っている謎に包まれた反政府組織_CROW。直接的な関わりはなくとも、その名を聴いたことのないものはいないだろう。そんな大きな組織が何故、自分の家族を殺す必要があったのか。裕翔には心当たりなどなかった。

「佐伯裕翔くん。日本に、CROWのことを探る非政府組織があることはご存知ですか?」

「は、はい」

「人を守るために人を殺し、秩序を守るために法を犯す。それが私達、"EMBER"です」

松島はポケットから身分証のようなものを取り出した。革製のケースに入れられたそれには、「EMBER潜入捜査班 工藤真澄」と書かれていた。

初作品になります!


「燃えきった者の名は。」第1話、「人を守るために人を殺し、秩序を守るために法を犯す」を読んでくださりありがとうございました!この作品は作者にとって初めての一次創作作品になります。このストーリーを思いついた時に設定や世界観などをなぐり書きで書いたものを、こうして文章に起こす機会をいただけて本当に嬉しいです。もっと沢山の方にこの作品を楽しんでもらえるように頑張りますので、是非最後まで裕翔たちの戦いを見守っていただけると嬉しいです。

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