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恋人でもなく、幼馴染でもなければ、家族ですらなく、友人でもない、そんなアイツ  作者: 紐育静


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85/96

第85話



 バスは、通勤ラッシュ帯の国道の渋滞に巻き込まれながらも、終点である駅へと到着した。

 

 この駅は、昔ここら辺を走っていた鉄道が廃線になる中で何故か残っているけれど、私達がギリギリ乗り込むことが出来た列車を乗り過ごしてしまったら二時間は待たないといけないぐらいのローカル線だった。


 私が列車に乗りたいともどこかへ行きたいとも言ったわけじゃないけれど、私は彼に手を引っ張られてクロスシート席の窓側に座ってしまった。


 こんなローカル線だと電車は走ってなくて、ディーゼルエンジン独特のモーター音が響く中、列車は出発した。

 この列車は隣の県の県庁所在地であるちょっと大きめの街まで向かうけど、二時間半もの道のり。

 私達は、いったいどこへ行ってしまうのだろう?


 

 「眠いなら寝てていいぞ」


 私の向かいの席で本を読みながら彼は言う。本って言っても、彼が読んでるのはやっぱり漫画だけど。いつの間にか八部まで進んでる。


 「私がぐっすり寝てる間に、何かやらしいことしない?」

 「おそらくしない」

 「いや断言してよ変態」

 「ゾクゾクしてきた」


 向かいの席に絶対座らないでほしいんだけど、こんな変態に。

 

 「でも、この景色も悪くないかも」


 海岸線を走る列車からの景色は中々悪くないどころか、こんなローカル線だからこそ、こうして真っ白な砂浜に押し寄せる白波をゆったりと眺めることが出来るのかもしれない。


 海岸沿いは山がちで結構険しい地形だから、殆ど住宅なんてない海岸線を走り抜けるとトンネルで山を突き抜けて、そしてまた右方に大海原を望むことが出来る。国道を走る車を置き去りにして、列車は進んでいく。


 「君は、この列車に乗ったことあるの?」

 「いや、今日が初めてだ」

 「え? そうなの?」

 「使う用事もないからな」


 一応大きな街へと向かう路線だけど、私達の用事なんて近場の街で大体事足りるし、数時間に一本ぐらいしか走らない電車を使うよりも、親の車に乗って行った方がよっぽど便利だからね。終点の街だってそんなに便利な街じゃないんだから。


 「じゃあ私、君の初乗り童貞奪っちゃったんだね……」

 「よくそんな気色の悪い単語を思いつくものだな。お前は乗ったことあるのか?」

 「ううん、私も初めて。だから初乗り処女だね」

 「お前、いくら他の客がいないからって、何でも言って良いわけじゃないからな?」


 我ながらなんて変な言葉を思いついてしまったのだろうと思ったけれど、学校をサボっているのに、しかも真面目な人を巻き込んじゃったのに、どういうわけか私の心は弾んでいるような気がした。


 「ね、私達はどこまで行くの?」

 「どこまで行きたい?」

 「君に任せるよ」

 「ラブホでも良いってのか?」

 「そういう破滅的な恋も悪くないかなって」

 「お前はもう少し自分を大事にしとけ」


 と、彼はそんなことを言って私の隣で本を読んでいる。素性もわからないのにホイホイとついてきてしまうぐらいには、私はすっかりこの人のことを信頼しているみたいだね。



 その後、私は窓の外に広がる青い大海原を眺めていたはずだけど、ここ最近ずっと寝不足だから、なんだか眠くなってきてしまい、気づけば彼に肩を叩かれていた。


 「着いたぞ」


 列車は終点に到着して、私達は改札を通って駅の外へ出た。私達が住んでる田舎とは比べ物にならないぐらい建物は高くて大きくて、人通りも多くて、たくさんのバスが発着していて、とにかく賑やかな街。私達にとっては十分都会のこの街よりも大きな街がたくさんあるんだから、この世界って怖いね。


 「で、どうするの? どこに行く?」

 「全く考えてない」

 「なにそれ」

 「行き当たりばったりな旅も悪くないだろ」

 「じゃ、そこのバスに乗ってみようよ。何か大きな神社行くみたいだし」


 名前も聞いたことのない神社だけど、この街にどんな名所があるのかさっぱりわからないから、彼が言うように行き当たりばったりな旅を楽しもうと思った。



 やがてバスは大きな神社前のバス停に到着して、私達は神社にお参りした。繁華街からそう遠くないところにある神社は緑に囲まれていて、都会のオアシスって感じなのかな。周りはそんな都会って感じしないけど。


 「ね、手水ってどうやってやるんだっけ」

 「俺がやるから真似すればいい」

 「まずズボンを脱いで……」

 「せめて神聖な場所では口を慎んでくれないか」


 彼の見様見真似で私は身を清めて神社にお参りした。この神社がどんな神様を祀っているのか、どんなご利益があるのかもわからないけれど。


 「君は何をお願いしたの?」

 「世界平和だ」

 「嘘くさいお願いだね」

 「何を言うか。少なくとも俺達の身近な世界が平和であるからこそ、俺達はこんな呑気に日常を過ごすことが出来るのだ」

 「確かに、砲弾が飛び交う中でおせっせは出来ないもんね」

 「いつか神様から罰が当たるぞ」


 その後、ついでだからと私達はおみくじも買っていった。私は末吉、彼は凶だった。私を連れてきてくれたのに、彼ったらツイてないね。



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