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第70話



 「グッモ~ニ~ン」


 今日の朝も、私の挨拶で始まる。


 「グッモーニン」


 彼は読んでいた本を閉じ、私の方を向いて軽く挨拶を返してきた。紺色のブレザーの制服の上に紺色のコートを着た彼は、いつもの愛想のない笑顔を私に向けて、バス停でバスを待っていた。


 「はぁ、どうして勉強しないといけないんだろ」

 「どうしたんだお前。新学期早々にテストでもあるのか?」

 「ううん、授業」

 「それすらもか」


 たまにあるよね、なんでか学校をサボりたくなっちゃう日。私みたいに真面目な人間でも、人生に一度か二度ぐらいはそういうことあるよ。


 「確かに、どうしても授業が面白くない先生もいるよな。ウチだと英語教師がそうだ」

 「ウチはね、国語以外面白くない」

 「そんな成績悪いのか?」

 「ううん、君よりかは良いだろうけどね。なんだかつまんないんだよねー」


 私が通ってる学校はちょっと厳しめなところだから、毎日のようにHRで淑女とは何かだとか規律がどうとか、耳にタコが出来るぐらい聞かされる。今はそういう時代じゃないだろうにね。


 「君ってさ、学校に通うためのモチベとかあるの?」

 「毎日女子高生の姿を拝めることだな」


 へぇ。


 「おい、なんで俺から距離を取ろうとする。俺が変な奴なのは今更だろ」

 「確かにそうだったね」

 「納得されるとそれはそれで悲しいが。しかしこうして学校という環境にいるだけで何か面白いことがあるかもしれないだろう? 例えば、遅刻しそうな時に見通しの悪い曲がり角で居眠り運転しているトラックが飛び出してきて、そのまま轢かれて異世界転生するかもしれないだろ」

 「せめてイケメンとぶつかりたいんだけどなぁ」


 いまいちポジティブなのかネガティブなのかわからない願望だね、それ。いや、自殺願望寄りだからあまり良くないね。

 

 「君って曲がり角で食パン咥えた女の子とぶつかったことあるの?」

 「あるっちゃある」

 「あるの!?」

 「女の子というか、仕事に遅刻しそうになっているいとこの姉さんの車に轢かれかけたことはある」

 「異世界転生寸前じゃん」


 この人がよく話題に出すいとこのお姉さん、やっぱり面白そうなキャラしてるよね。本当に轢かれてたら笑い事じゃないけれど。


 「病弱ならまた別だが、どんだけ嫌でも毎日学校に通っていれば、勝手に誰かが自分のことを好きになってくれて告白される可能性だってあるだろ?」

 「ウチね、女子校」

 「そういえばそうだったな。でも女子校って同性同士の恋愛とかないのか?」

 「確かにあるよ。誰かがラブレター貰ったり告白されたって話もよく聞くからね」


 とは言っても、そういう対象になる人って限られてるからね。私は綺麗なわけでもかっこいいわけでもないから論外だよ。


 「じゃあさ、ちょっとシミュレーションしようよ。君は私にラブレター出してみて」

 「今時ラブレターか」

 「私、日本刀持って待ってるから」

 「それラブレターじゃなくて果たし状だろ」

 「ドキドキするよね」

 「そりゃ命かかってるからドキドキもするだろうけどな」

 

 むしろラブレターよりドキドキしちゃうかもね、果し状なんて貰っちゃうと。全く心当たりがなかったら怖くてしょうがないもん。


 「じゃあ普通に告白の方が良いのかな。君は気になっている女の子から呼び出されて」

 「わかった」

 「私は先生に呼び出されるから」

 「俺の気になっている女の子はいずこへ?」

 「待ち合わせ場所はどうしようか。君のとこって校舎の屋上って入れる?」

 「正当な理由があれば鍵は借りれると思うが」

 「じゃあ大丈夫だね」

 「告白が正当な理由になるのか?」

 「後は君を屋上から突き落とせば計画通りだね」

 「俺はそんな恨まれるようなことをした覚えはないんだがなぁ。仕方がない、異世界転生してスローライフでも送るとしよう」


 この人ってスローライフ派なんだね、なんだか意外。


 

 そして、いつも通り定刻より少し遅れて彼が乗るバスがバス停へやって来た。私はいつものように、彼の背中をパンッと叩いて。


 「んじゃ、ハブアグッドデイ!」

 「ユートゥー」


 彼は私にそう返事して、いつもの一人がけの席に座った。そしてバスの中からチラッと私の方を見てきた彼に向かって、私はとびっきりの変顔を作ってみせた。

 すると彼は、私に頑張れよと言わんばかりにサムズアップしてきたのだった。なにそれ。


 そして数分後、私が通う学校に向かうバスがやって来た。いつもどおり友達の岩川ちゃんが先に乗っていたから、私は彼女の隣に座る。


 「グッモ~ニ~ン、岩川ちゃん」

 「グッドモーニング、都さん。こんなに寒いと、外を出るのも嫌になっちゃうね」

 「ホントだよ。夏の暑さをこっちに持ってきてほしいよね」

 「でも、それだと雪が降ってくれないよ? 都さんが好きな雪だるまが作れなくなっちゃう」

 「いや、そんなことに浮かれるほど私は子どもじゃないもん」


 でもあまり雪が降らない地域だと、一年に一回ぐらいしか無い雪の日が嬉しくなっちゃうんだよね。それは子どもとか大人とか関係ないはずだよ。


 「ね、岩川ちゃん。学校楽しい?」

 「ん? うん、都さんがいるから」

 「えっへへ~嬉しいこと言ってくれるじゃ~ん」


 うん、そうだよね。

 学校に通う理由って、それぐらいでも十分だよね。



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