表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/84

第7話



 「グッモ~ニ~ン」


 今日の朝も、彼女の挨拶で始まる。


 「グッモーニン」


 俺は読んでいた本を閉じ、彼女の方を向いて挨拶を返す。見ると、今日もいつも通り、コンビニコーヒーを片手に、黒いセーラー服姿のアイツが俺にピースサインを向けながら歩いてきていた。


 「こうやってさ、毎日バスに乗っていると、たまには電車とかに乗りたいなぁって思わない?」

 「俺は座って移動できるなら何でも良いが、ここら辺を走ってた路線が廃線になってなかったら、駅は大分向こうだぞ」

 「じゃあ私の家の前に駅を作るしかない」

 「独裁者のやることだな」


 ここら辺は昔、国鉄が走っていたらしいが廃線になってしまい、今はバス路線に転換されている。俺はバスのままでも通学に満足しているが、遠出する時は鉄道の方が便利かなとは思ったりする。


 「でもさ、定められた道しか進めないってのもつまらないって思わない?」

 「急にどうした」

 「レールに敷かれた人生ってのもどうかと思うんだよね」


 確かに、自分で自分の道を見つけて進みたいって気持ちはわからなくもない。そういうレールに敷かれた人生……え? レール『が』敷かれてるんじゃなくて、レール『に』敷かれてるの?


 「例えばさ、飛行機って基本は滑走路でしか離着陸出来ないじゃん? でも時にはさ、あのビルの屋上に着陸してみたいって思ってるかもしれないじゃん」

 「重大事故不可避だろ。パイロットがそんなこと思うかよ」

 「でも飛行機ちゃんは思ってるかもしれないよ?」

 「飛行機に自我を持たせるな。多分ビルの屋上よりし◯ぶ葉とか焼肉き◯ぐの駐車場の方が好きだろ」

 「案外ラブホかも」

 「おせっせ中に飛行機飛んできたら怖すぎるだろ」

 「おせっせ中も何も関係なく、飛行機が自分の方に飛んできたら怖いけどね」


 最近は人工知能も急速に発達してきていて、もう人間が操縦せずとも人工知能が完全に乗り物を動かしてくれる時代は近いかもしれないが、突然人工知能が「今日はし◯ぶ葉の気分!」とか「今日はコスプレ喫茶にするか……」とか変な自我を持ち始めるかもしれないと思うと、少し怖くなってくるな。


 「あとさ、路線バスとかフェリーとかもさ、基本は決まった道を進んでるわけじゃん? いつも同じことの繰り返しだと飽きちゃいそうじゃない?」

 「じゃあタクシーの方が良いのか?」

 「いや、タクシーだって車なんだから基本は道路しか走れないでしょ? 人の家のど真ん中とか突っ切れないじゃん」

 「突っ切る必要はないと思うけどな」

 「だから結局、私達は定められた道を進むしかないんだよ……」

 「何か嫌なことでもあったのか?」

 「今日、テスト」

 「なるへそ」


 通りでいつもよりコイツのテンションがおかしいわけだ。


 「ま、テストって言ってもただの数学の小テストなんだけどね」

 「数学苦手なのか?」

 「いや、数学の先生が嫌いなの。もうどうにかして抹殺したい」


 先生逃げて、超逃げて。


 「何かされたのか?」

 「ううん。前に先生の背中にこっそり『ズル剥け』って書かれた紙を貼ってから、何かと怒られちゃうんだ」

 「お前、よく停学とかにならなかったな。イタズラの度を超えてるぞ」

 「だって、褒め言葉だと思ってたんだもん……」


 もしかしたらズル剥けじゃなかったかもしれないだろうが。俺はコイツが通っている学校は結構格式の高いお嬢様学校だと思っていたんだが、結構治安悪いのか?

 やっぱりコイツの学校生活には、あまり関わりたくない。深堀りしない方が良いだろう、変なことに巻き込まれそうだ。



 そしてようやく、俺が乗るバスがバス停へとやって来た。彼女はいつものように、俺の背中をパンッと叩いて。


 「んじゃ、ハブアグッドデイ!」

 「ユートゥー」


 俺はいつも通りバスの奥の方にある一人がけの席に座って、バスの中から彼女の方を見た。

 今日もいつも通り変顔だな、うん。アイツも中々懲りない奴だ、いつか俺を笑わせようたって無駄だぞ。


 俺、そんなにアイツの癪に障ることをしてしまっただろうか……急に怖くなってきた。


 

 やがて俺の友人である新城と合流して、いつものように新城は俺の後ろの席から話しかけてくる。


 「永野~。今日数学の小テストあんの知ってた?」

 「前に予告されてただろ」

 「マジか……気づいてたら徹夜してきたのに」

 「小テストごときに一夜漬けするつもりか、お前は」


 学期末には期末考査があるが、先生によっては結構な頻度で小テストが実施されることもある。わざわざそのためにテスト勉強しようと思ったことはない。


 「テストって意味あんのかなぁ。一分もあれば解けるような簡単なものに、わざわざ十五分も時間をかける意味がわからない」


 なお、新城はテストが簡単すぎてつまらないと言っている人間だ。結構能天気そうなのに、なんでコイツはこんなに頭が良いのだか。


 「その分寝ればいいだろ」

 「そういう時に寝ると、テスト受けてる夢しか見ないんだよね、俺」

 「良いことじゃないか」

 「出来ることなら美女とイチャイチャしてる夢の方が良い」

 「お前の下半身が大惨事になってるかもしれないだろうが」

 「その時は頼むぜ、永野」

 

 俺は新城から一体何を頼まれたんだ?

 御免被りたいのだが。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ