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第61話



 「グッモ~ニ~ン」


 今日の朝も、彼女の挨拶で始まる。


 「グッモーニン」


 俺は読んでいた本を閉じ、彼女の方を向いて挨拶を返す。見ると、今日もいつも通り、コンビニコーヒーを片手に、黒いセーラー服姿のアイツが俺にピースサインを向けながら歩いてきていた。


 「私達って、どうして勉強しなきゃならないんだろうね」

 「なんだ、テストでもあるのか?」

 「うん、中間考査」

 「文化祭前なのに、いまいちテンションがあがらなくなるよな」

 「そうなんだよねぇ」


 俺の学校も文化祭前に中間考査があるから、本気で準備に取り掛かれないところが悩ましい。


 「テストで良い点とってもさ、先生がよしよししてくれるわけじゃないのに、どうして真面目にやんないといけないんだろ」

 「場合によってはセクハラになるからだろ」

 「それもそだね。でもさ、段々年をとってくると、そういうチヤホヤされることって減ってくるじゃん? 昔は色んな賞状貰えたけど、最近は減ってきたし」


 コイツがそんな賞状をたくさん貰っているだなんて驚きだが、俺達が授業で作った作品が勝手に何かのコンクールに応募されていたりするからな。俺も昔は書道とかで賞を貰った気がする。


 「なんか表彰されたい」

 「どういう賞が良いんだ?」

 「皆勤賞」

 「一番ハードル低そうだが、難しいっちゃ難しいのが来たな」

 「ちなみに私、去年皆勤だったもん。誰も褒めてくれなかったけど」

 

 皆勤賞をくれるのは小学生の時ぐらいじゃないだろうか。企業によってはボーナスをくれるところもあるらしいが。

 

 俺はそんなチヤホヤされたいという欲があるわけではないが、隣に立つ彼女がどことなく寂しそうだったので、その頭を撫でてやる。


 「ちょちょっ、ちょっと何?」

 「よしよし、皆勤賞偉いね~」

 「もうっ。子供扱いしてー」

 

 せっかく褒めてやったのに、彼女はプンプンと怒ってしまった。だがあんまりまんざらでもなさそうだ。


 「例えばさ、漫才とかの賞レースで優勝するとお金をがっぽり貰えるじゃん? そういうさ、わかりやすいご褒美があった方が頑張れると思わない?」

 「どういうご褒美が良いんだ?」

 「札束に埋め尽くされたプールで泳ぐとか」

 「発想が子どもだな」

 「なにをぉ」


 俺もちょっと良いなぁって思うけど。


 「高校生だったら、賞金一万円でも頑張れちゃいそうだけど、副賞でお菓子とか欲しいよね。あるいは車」

 「高校生が貰ってどうすんだそんなもの」

 「親にプレゼントするの」

 「親孝行過ぎるだろ」

 「でもフェラーリとかじゃなくてゴツいアメ車だったらどうしよ」

 「売ればいいだろそんなもの」

 

 賞金一万円の賞レースでついてくるような副賞じゃないけどな、車なんて。絶対おもちゃの車だろ。


 「あとさ、賞状も紙だけじゃなくてトロフィーとかも欲しいよね」

 「邪魔じゃないか?」

 「だから学校に寄付して、私だけのトロフィー部屋作るの。あと優勝旗も飾って」

 「何かの強豪校だと勘違いされるぞ。何の賞を貰うつもりなんだ」

 「だから皆勤賞」

 「そんなもの全生徒分飾ってたら校舎が優勝旗に埋もれるぞ」


 優勝旗を持つのって何だかかっこいいなぁと思わなくもないが、スポーツをやっていないとそういうのを持つ環境に恵まれない。しかし、書道とか作文の賞でそんなものを貰っても困りそうだ。


 「はぁ。テストで百点とったら次のテスト免除とかにならないかなぁ」

 「テストの意味がないだろ。学校一日休んでもいいとかの方が良くないか?」

 「お、それ良いね。今度先生に言ってみる」

 「怒られるぞ」



 そしてようやく、俺が乗るバスがバス停へとやって来た。彼女はいつものように、俺の背中をパンッと叩いて。


 「んじゃ、ハブアグッドデイ!」

 「ユートゥー」


 俺はいつも通りバスの奥の方にある一人がけの席に座って、バスの中から彼女の方を見た。

 最近は動物のモノマネを始めた彼女だが、車通りが多い場所であんなことやって恥ずかしくないのだろうか。


 

 やがて俺の友人である新城と合流して、いつものように新城は俺の後ろの席から話しかけてくる。


 「なぁ永野。俺、今度表彰されるってよ」

 「なんの表彰だ? 鼻毛が長いで賞か?」

 「行方不明届が出てたお婆ちゃんを保護して警察まで届けたんだ」


 そういう方向性の表彰だったか。いやそれは普通に凄い。


 「警察から感謝状が貰えるのか?」

 「なんかそうらしい」

 「ちゃんとおめかししとけよ」

 「鼻毛出てる?」

 「気のせいだろう」


 たまに行方不明になっているおじいさんやおばあさんについて防災無線が流れることはあるが、それを実際見かけたとして、その人が行方不明になっている人だと気づけるかもわからない。

 まぁ、こう見えて新城という奴は、面倒見が良い奴なのである。


 「あーあ、助けたお婆ちゃんのお孫さんがとんでもない美少女だったりしねぇかなー」

 「そういう下心があると、縁も遠のくぞ」

 「でも良いことしたら何か返ってきてもよくねー?」

 「せいぜいアイスバーの当たりが出るくらいだろ」

 「んじゃ帰りにアイス買うか~」


 年をとると表彰される機会は減るかもしれないが、こういう方法もなくはないのである。



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