表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/96

第60話



 「グッモ~ニ……?」


 今日の朝も、私の挨拶で始まるはずだった。


 でも、私の視界にはいつもと違いすぎる光景が映っていた。


 「う、うぅっ、うぅ……」


 いつもは愛想のないアイツが待っているはずのバス停に彼の姿はなくて、代わりにブレザーの制服を着た、長い黒髪の女の子が、バス停の下でしゃがみ込んで泣いていた。


 「あ、あの~」


 私がおそるおそる声をかけると、女の子は相変わらずしゃがみこんで泣いたまま。


 「私、もうお嫁に行けない……」


 なんだか全然わからないけど深刻そうだね。


 「だ、大丈夫ですか?」

 「へ? あぁ、君か……」

 「え?」


 すると彼女は目を拭いながら立ち上がると、鞄からメガネケースを取り出して、スチャッとメガネをかけた。

 あれ? なんだか誰かに似てるような……。


 「あの、どちら様ですか?」

 「わからない? 毎朝、いつもこの場所で会ってるのに」

 「……え?」


 た、確かになんとなく雰囲気も似てるし、制服も彼が通っているであろう学校の女子の制服だけど……な、なんでTSしてんの?


 「実はね、朝起きてトイレに行ったら、あるはずのものがなくてびっくりしたの」

 「トイレ行く前にもっと違和感なかったの?」

 「寝ぼけてたからしょうがないでしょ。自分がTSしててびっくりしたし、鏡を見たら美少女になってたし、おっぱいもボインボインだし」

 「しかも私より背も高いし」

 「そうだね」

 「グスン……」

 「泣くぐらいなら自虐しないで」


 背が高いのは別に良いとしてさ、どうしてあの人がTSしたらこんな美少女になっちゃうの? しかもおっぱいも私よりボインボインだし、一体神様はどうしてこんなにも色んなものを彼に授けてしまったの?


 「でもさ、せっかく女の子になったんだから、色々試してみなよ」

 「一人でクレープを買いに行きたい」

 「TSして最初にやることがそれなの?」

 「野郎一人で買いに行くのは勇気がいるんだよ……!」

 

 確かにあの人がキッチンカーとかフードコートでクレープを注文してる姿、全然馴染まない。そんな悲しいことがあったんだね。

 

 「あと、やっぱりスカートが落ち着かない」

 「そうなんだ。スラックス履けばよかったじゃん」

 「でもチラリズムする側にも興味があって……!」

 「別に私達もやりたくてやってるわけじゃないけどね、チラリズム」

 「ま、風香に言われて短パン履いてきたけど」

 「こらっ、自分のスカート捲っちゃダメだよっ」

 「……君、前にやってなかった?」

 「やってた気がする」


 そういえばこの人、妹の風香ちゃんがいるからTSしてもそんなに困らなさそうだね。もし私がTSしたら、立ちションとか怖くて出来なさそうだもん。


 「でもそんなに可愛くなっちゃうと、もしかしたらナンパされたりするかもね」

 「まさかそんな」

 「じゃあちょっとシミュレーションしよ。私がチャラ男の役するから」

 「チャラ男である必要ある?」

 「へいへ~い。君、今一人~?」

 「キャーッ。誰か警察呼んでー!」

 「声かけただけで!?」


 ま、そうしたい気持ちはわかるけどね。

 

 「あとさ、私って女子校通ってるじゃん?」

 「そういえばそうだったな」

 「でね、やっぱ女の子同士で付き合うってことも少なくないんだよ。だからちょっとそういうのに憧れがあってさ、ちょっと告白してみて」

 「死んでもやだ」

 「そんなに!?」


 私、こんな黒髪美少女から告白されたら動揺しちゃいそうなんだけどなぁ。

 そう思いながら私が溜息をつくと、彼、いや彼女は何を思ったのか、急に私の肩を掴んできて──。


 「私、貴方のことが好き」

 「へ?」

 「私と付き合って」

 「へ、へ? へ? へぇっ!?」


 そう言って彼女はガシッと私の肩を力強く掴んで揺さぶってきて、あぁっ、激し────。



 ◇



 「おい、いい加減起きろ」


 ハッ。

 あ、夢?

 


 「んあっ。おはよ」

 「やっと起きたな。立ったまま寝ると危ないぞ」

 「ごめんごめん」


 私、立ったまま寝てたの? そんな器用なこと出来るとは思わなかったね。何か夢なんじゃないかって薄々思ってたけど、私の隣にはいつもの無愛想な彼が立っていた。


 「なんかいつにもまして間抜け面してたが、良い夢でも見てたのか?」

 「うん。黒髪美少女に告白された夢」

 「そりゃ幸せなこった」



 そして、いつも通り定刻より少し遅れて彼が乗るバスがバス停へやって来た。私はいつものように、彼の背中をパンッと叩いて。


 「んじゃ、ハブアグッドデイ!」

 「ユートゥー」


 彼は私にそう返事して、いつもの一人がけの席に座った。そしてバスの中からチラッと私の方を見てきた彼に向かって、私はとびっきりの変顔を作ってみせた。

 はぁ、夢の中に出てきた黒髪美少女だったら笑ってくれそうなのに。


 そして数分後、私が通う学校に向かうバスがやって来た。いつもどおり友達の岩川ちゃんが先に乗っていたから、私は彼女の隣に座る。


 「グッモ~ニ~ン、岩川ちゃん」

 「グッドモーニング、都さん」


 良かった、岩川ちゃんはTSしてないね。岩川ちゃんがTSすると可愛い系の美少年になりそう。


 「どうしたの、都さん。私の顔に何かついてる?」

 「ううん。岩川ちゃんって男の子になっても可愛いだろうなぁと思って」

 「そうかなぁ。都さんの方が可愛くなると思うよ」

 「えへっ、そうかな」


 私がTSしたら、一体あの人はどんな反応するんだろ。私がどんな男になっても、すんごい嫌そうな顔しそうだけど。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ