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第59話



 「グッモ~ニ~ン」


 今日の朝も、彼女の挨拶で始ま……る?


 彼女の挨拶に俺も返そうとした時、感じた違和感。


 「グッモーニ……ン?」


 俺は読んでいた本を閉じ、彼女の方を向いて挨拶を返したのだが、そこに佇んでいたのは、あの間抜け面の白いセーラー服姿の女ではなく、見慣れぬ学ランを着た、華奢で短い茶髪の男子だった。確かに片手にコンビニコーヒーを持って、アイツと同じ鞄を持っているのだが。


 ……なんだコイツ? 俺って今までこんな小生意気そうな男子と話してたっけ?


 「よぉ、今日の朝勃ちはどうだった?」


 誰かわからんけど、なんとなく知ってる奴な気がする。


 「あ、あぁ、上々だったが……お前は?」

 「フフ、オリンポス山もびっくりなぐらいだよ」

 「それは是非とも拝みたいものだな」


 俺にこんな話を振ってくる奴はアイツしかいないはずだ。だからこれは多分あれだ、どういうわけかさっぱりわからないが、アイツがTSしたんだ。

 なんで?


 「なぁ、お前……一体どうしたんだ?」

 「ん? 何が?」

 

 奴は何食わぬ顔でコーヒーをグビグビと飲んでいる。なんだ涼しい顔しやがって、アイツってTSしたらこんな爽やかなイケメンになるのかよ、気持ち悪っ。


 「ははーん、さてはこの美しいボクに見惚れてしまったわけだね?」

 

 んでTSしてもウザいなコイツ。


 「それはそれとして、僕、最近女の子に声をかけられ過ぎて困ってるんだよ」

 「そうか。妄想もほどほどにな」

 「でもね、僕ったら優しいからついつい女の子達についていってしまうんだ。だから丁寧に断る方法を探しているんだけど、何かないかな?」

 「他をあたってくれないか」

 「いや、こういう時はシミュレーションした方がリアリティが出るよね!」

 「一人で勝手に話を進めるな」


 すぐにシミュレーションしたがるのは、やはりアイツらしいな。


 「んじゃ、君は女の子に声をかけて」

 「待て、これってお前が女の子に声をかけられた時に断るためのやつじゃないのか?」

 「僕は警官役するから」

 「お前、俺を豚箱にぶち込みたいだけだろ」

 「お似合いだと思うけどね、豚箱」

 「お前に言われると無性に腹立つな」

 「まぁそう言わずに。んじゃ君、僕に声をかけてきて」

 「嫌な役だな……」


 どちらにしろ嫌な役であることに変わりはない。何が悲しくて野郎相手に俺が女の役をして声をかけなければいかんのだ。


 「あの~ちょっといいですか~」

 「えっ、あ、あぅ、はいっ、なんですかっ」

 「すみません、ちょっとかっこいいなと思って気になっちゃって……」

 「へぅっ、へ? ぼ、ぼくのことですか?」

 「もしお暇なら、ちょっとお茶していきませんか?」

 「お、おぅふ……」

 「なんでコミュ障になってんだお前!」


 一体どうなんってんだ。もしかしてアイツ、俺以外に対しては人見知りだったりするのか? そうは見えないが。


 「じゃあ逆のパターンもやろう」

 「必要ないだろそれ」

 「お、おうふっ、あ、あの~」

 「声をかける時もそうなるのかよ!────」



 ◇



 「お~き~ろ~」


 体を大きく揺さぶられて、俺はハッと目を覚ました。

 見ると、俺の体を揺さぶる、いつものアイツの姿が。


 「あぁ俺、寝てたのか?」

 「やっと起きたね。びっくりしたよ、立ったまま寝ちゃうんだから。ほら、もうすぐバス来るよ」

 

 良かった夢で。いや、大分最初の方で夢だとは思っていたが。

 が、バスが来るまでもう少し時間がありそうなので、少し試してみる。


 「なぁ、ちょっとシミュレーションしたいんだが」

 「お、珍しいね。なになに?」

 「俺がお前をナンパするから、断ってみてくれ」

 「それ何のシミュレーションなの?」

 「なぁ、ちょっと良いか?」

 「えっ、あ、あぅ、はいっ、なんですかっ」

 「すまない、貴方が可愛かったもので、つい声をかけてしまって……」

 「へぅっ、へ? わ、わたしのことですか?」

 「もし暇なら、ちょっとお茶していかないか?」

 「お、おぅふ……」

 「なんでコミュ障になってんだお前!」


 まさか正夢だったとはな。いや正夢とは呼ばないだろうが、コイツがこんなタジタジになってしまうとは面白い。


 「もうっ、なんなのさ急に。そりゃ急にナンパされたらびっくりしちゃうよ」

 「いや、実は変な夢を見たものでな。事実関係をはっきりさせて起きたかったんだ」

 「一体どんな夢を見たのやら……」


 

 そしてようやく、俺が乗るバスがバス停へとやって来た。彼女はいつものように、俺の背中をパンッと叩いて。


 「んじゃ、ハブアグッドデイ!」

 「ユートゥー」


 俺はいつも通りバスの奥の方にある一人がけの席に座って、バスの中から彼女の方を見た。

 なんとなく夢の中に現れた気色悪い男の顔が浮かんだが、アイツの変顔を見ると安心するようになってきた。


 

 やがて俺の友人である新城と合流して、いつものように新城は俺の後ろの席から話しかけてくる。


 「なぁ永野、お前ってTSに興味ある?」

 「朝から急になんなんだお前は。ないことはないが」

 「んじゃ、医師を目指す上で必要なTSなんだが……」

 「お前、まさかテクニカルスタンダードのことを言ってるのか?」

 「じゃなきゃなんだって言うんだ一体」

 「いや、いい。気にしないでくれ」


 どれもこれも、あの変な夢のせいだ。


 

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