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第58話



 「グッモ~ニ~ン」


 今日の朝も、私の挨拶で始まる。


 「グッモーニン」


 彼は読んでいた本を閉じ、私の方を向いて軽く挨拶を返してきた。夏らしい白シャツの制服を着た彼は、いつもの愛想のない笑顔を私に向けて、バス停でバスを待っていた。


 「なぁ、お前って恋愛ゲームを遊んだことはあるか?」


 最近は彼の方から話しかけてくれることも増えたけれど、何だか意外な話題だね。


 「うん、前に友達から進められて。女の子向けのだけど。君ってそういうゲームするの?」

 「俺も友人に進められて遊んでみたんだが……」

 「どうだった?」

 「ヒロインが死んだ」

 

 すごい悲壮感漂う顔で言わなくても。結構エグめのゲームだったんだね。


 「サイテーだね」

 「違う! 俺は、俺はアイツを助けたかっただけなのに……」


 そんな悔しがらなくても。結構世界観にのめり込んじゃうタイプなんだね。


 「んでんで、ヒロイン攻略できたの?」

 「中々、選択肢の正解がわからなくてな……何度もバッドエンドに行かされた」

 「ははーん。君、女心がわかってないんだね」

 「妹がいるのにな……」


 そこって異性の兄弟がいることって関係あるのかな。


 「そういうお前はどうだったんだ? 所謂乙女ゲーというやつだろう? 男心がわかるのか?」

 「ふふん、楽勝だったもんね。親友ポジだった女の子を攻略したもん」

 「……乙女ゲーだったんだよな?」

 「んまぁ、多分おまけエンドというか、救済措置として存在するエンディングだったね、しくしく」


 なんでだろうね。どんな男の子に対しても可愛こぶってたつもりなんだけどね。多分そんなことを打算的にやってるから、私もモテないんだろうね、わかるわかる。


 「ちなみにさ、君が最初に攻略した子ってどんなタイプだった?」

 「主人公の幼馴染だ」

 「うわぁ、ド定番だね。そんな幻想、現実に存在しないのに」

 「悲しいことを言うな」


 この人も幼馴染との恋愛に憧れたりしているのかな、なんだか意外。


 「そういうお前は?」

 「私はね、なんか影がありそうな先生」

 「禁断の恋だな」

 「まさにそういう背徳感がたまらないんだよね。あと後輩の可愛い男の子をからかうのも好き」

 「良い趣味してるな。やっぱ女子校って男の先生を好きになることもあるのか?」

 「私はないけど、先輩のなら話は聞いたことあるよ。ただ、可愛い男子の後輩がいないのが残念だね」

 

 結構男の先生は多いけれど、やっぱり皆お年を召されてるから、どうしてもストライクゾーンから外れちゃうんだよね。若い先生ってそうそういないもんだから。イケオジが好きな子だったらいけるのかもしれないけど。


 「なんかさ、運命的な出会いって憧れるよね」

 「あればいいがな」

 「例えばさ、ここで君が車に轢かれるとするじゃん?」

 「俺を轢くな」

 「んで、君を轢いたフェラーリからさ、メチャクチャイケメンの若手社長が降りてくるわけ」

 「俺を轢いた奴とラブコメを始めようとするんじゃない」

 「でも実は、若手社長は君じゃなくて私を轢こうとしていて、本当は君に恋していたとか」

 「話をややこしくするんじゃない」


 まぁ、まずイケメンの若手社長なんてここら辺に出没するはずがないんだけどね。フェラーリとかマクラーレンならたまに走ってるのを見かけるのに。


 

 そして、いつも通り定刻より少し遅れて彼が乗るバスがバス停へやって来た。私はいつものように、彼の背中をパンッと叩いて。


 「んじゃ、ハブアグッドデイ!」

 「ユートゥー」


 彼は私にそう返事して、いつもの一人がけの席に座った。そしてバスの中からチラッと私の方を見てきた彼に向かって、私はとびっきりの変顔を作ってみせた。

 毎日こうやってアピールしてやってるのに、相変わらずだね、あの人は。


 そして数分後、私が通う学校に向かうバスがやって来た。いつもどおり友達の岩川ちゃんが先に乗っていたから、私は彼女の隣に座る。


 「グッモ~ニ~ン、岩川ちゃん」

 「グッドモーニング、都さん。ねぇ、永野先生が若い男の子と付き合ってるって話、聞いた?」

 「え、何それ全然知らないんだけど」


 それに若い男の子が相手ってどゆこと? ショタコンだったの?


 「なんかね、ウチの学校の誰かが、ゲーセンで他の学校の男の子とデートしてる永野先生を目撃したんだって」

 「へ~他校の生徒に手を出すって凄いね。でも確かにありえそうな話」

 「永野先生、ずっと彼氏いないって嘆いてたもんね」


 他校の生徒……まさか、アイツじゃないよね?

 いや、まさかね。

 

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