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第56話



 「グッモ~ニ~ン」


 今日の朝も、私の挨拶で始まる。


 「グッモーニン」


 彼は読んでいた本を閉じ、私の方を向いて軽く挨拶を返してきた。夏らしい白シャツの制服を着た彼は、いつもの愛想のない笑顔を私に向けて、バス停でバスを待っていた。


 「待ってもいない新学期の幕開けだね」

 「新学期早々テンション低いな、お前は」

 「逆にさ、こういう夏休みとか冬休み明けの新学期を楽しみにしてる人っているのかな?」

 「そりゃあ、友達と会いたくてたまらない奴とか、イメチェンした奴とかじゃないか」

 「あ、私もイメチェンすれば良かったのかも!」

 「坊主にするとか?」

 「思い切りが良すぎるでしょ」


 もし私が丸坊主でここにやって来たら、この人はどんな反応をするんだろ。なんか心配されちゃいそう。


 「ねぇ、私って金髪とか似合いそうじゃない?」

 「お人形感がさらに増しそうだな。お前の学校って毛染めはOKなのか?」

 「良くて永久追放だろうね」

 「悪い場合はどうなるんだ一体」

 

 他の学校の子が髪の毛を染めてるのを見ると、少し羨ましく思うことはあるけどね。メンテナンスが大変そうだけど。


 「君は結構金髪とか似合いそうだよね、あと青とか赤系も」

 「そうか? そんな派手な髪色は好かないが」

 「ううん、下の方の毛」

 「俺のを見たことないくせに、お前はどう判断したんだ」


 私の想像の中だと、この人のはご立派さんな気がするけどね。多分小さい人は自分からボロンッとか言わないだろうし。


 「君って結構ヒゲ生えるの?」

 「毎日剃ってる」

 「大変だね。下の方はどうなの?」

 「どんだけ下の方が気になってるんだ。ていうか剃るわけないだろうが」

 「でも、最近はそこも脱毛する人がいるんだって」

 「このジャングル感が良いのにな。お前はどんな感じなんだ?」

 「タマンネガラ国立公園ぐらい」

 「例えが難しいだろ」


 実際あんなに生い茂ってはいないはずなんだけどね。この人は結構ジャングルなのが好きそうだけど。


 「たまにさ、友達と一緒にお風呂入ったりすると、何か友達のスタイルとか色々見て笑っちゃいそうになることがある」

 「女子って本当に風呂場で友達の胸を揉んだりするのか?」

 「思春期男子っぽい質問だね。私は揉むけど」

 「良いご身分だな」

 「私は揉まれる胸が無いからね」

 「悲しいことを言うんじゃない」

 「……グスン」

 「泣くぐらいなら自虐するな」


 誰かが揉んでくれるなら私は喜んで受け入れるけどね、それで大きくなるのなら。勿論女子で。


 「男子ってさ、お風呂場で友達のをシコシコすることあるの?」

 「考えるだけで吐き気がしてくるんだが、お前男子が風呂場でそんなことやってると思ったのか? お前は風呂場で友達のを手伝ったりしないだろ」

 「いや……確かに」

 「ちょっと待て、今どうして否定しようとした」


 この前読んだ漫画だと、男子同士で普通にやってた気がするんだけどなぁ。


 「でもさ、話を戻すと……あれ? 私達って最初、何の話してたっけ?」

 「フランツ・カフカについてだな」

 「私達ってそんな高尚な話してた? 下の毛がジャングルか剃ってるかの話じゃなかったっけ?」

 「話の入りはそうじゃなかったはずなんだがな」


 まぁいいや、この人との話ってどこまでも脱線しちゃうし。彼と別れた後、今日何の話してたっけ?って全然わかんなくなっちゃうこともあるし。



 そして、いつも通り定刻より少し遅れて彼が乗るバスがバス停へやって来た。私はいつものように、彼の背中をパンッと叩いて。


 「んじゃ、ハブアグッドデイ!」

 「ユートゥー」


 彼は私にそう返事して、いつもの一人がけの席に座った。そしてバスの中からチラッと私の方を見てきた彼に向かって、私はとびっきりの変顔を作ってみせた。

 いつか、彼の方から中指を突きつけられたりしないかなって怖くなるよね。


 そして数分後、私が通う学校に向かうバスがやって来た。いつもどおり友達の岩川ちゃんが先に乗っていたから、私は彼女の隣に座る。


 「グッモ~ニ~ン、岩川ちゃん」

 「グッドモーニング、都さん」

 

 うん、岩川ちゃんとは下の毛がどうとかって話は全然出来そうにないね。


 「ねぇ、岩川ちゃんってイメチェンしたりしないの?」

 「うーん、髪型を変えようかなって思うことはあるけれど、今が一番落ち着くかなぁ」

 「私はどうかな?」

 「都さんに似合うのは、やっぱりようt……ううん、今が一番だと思う」

 「ねぇ、今何て言いかけてたの?」

 「秘密だよ~」


 絶対幼稚園児の服が似合うって言いかけてたよね、岩川ちゃん。



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