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第55話



 「グッモ~ニ~ン」


 今日の朝も、彼女の挨拶で始まる。


 「グッモーニン」


 俺は読んでいた本を閉じ、彼女の方を向いて挨拶を返す。見ると、今日もいつも通り、コンビニコーヒーを片手に、私服姿のアイツが俺にピースサインを向けながら歩いてきていた。


 「短い夏だったね」 

 「毎日似たようなことの繰り返しだと、時間が経つのは早いな」


 せっかくの長期休暇だというのに、殆ど勉強尽くしの毎日だったような気がする。たまに息抜きのため出かけることもあったが、こんな田舎だと俺達みたいな学生が楽しめる娯楽というのも限られてくる。


 「何かもっと刺激欲しいよね」

 「小学生の頃の夏休みはもっと遊んでたよな」

 「あぁ、自分の息子で遊んでたんだ」

 「昔はカマキリとかバッタとかカブトムシとかクワガタを捕まえてたりしたんだがな」

 「無視しないで」

 「後は年上のお姉さんと一緒に遊んだりとかな」

 「急にいかがわしくなってきた」

 

 俺のいとこのお姉さんのことだがな。いや、他に遊び相手がいなかったわけではない、風香とかいたし。友達の家が遠かったから遊びに行くのが面倒だっただけだし。


 「なんかさ、夏休み明けに美少女が転校してきたりしないかな」

 「イケメンじゃなくてか?」

 「いや、私が通ってるの女子校じゃん」

 「忘れてた。んで、美少女が転校してきたらどうするんだ?」

 「よしよしされたい」

 「どんな願望だそれ」


 コイツはよく可愛がられてもらえそうな見た目はしているがな。


 「君の学校に美少女が転校してきたらどうする?」

 「非現実的だな、ありえないことだ」

 「ちょっとぐらい夢見てもろて」

 「例え同じクラスになったとしても、俺はあまり関わらないだろうな。向こうが特別成績良くない限り」


 フィクションの世界だとふとしたことをきっかけにして簡単にお近づきになれたりするのだが、生憎俺はそういうのとは無縁だろう。このちんちくりんを除けば。


 「んじゃあさ、もし美少女が転校してきた時に備えてシミュレーションしようよ」

 「シミュレーション好きだな、お前は」

 「私が美少女役するから、君は教室で待っててね」

 「了解した」

 「きゃ~遅刻遅刻~」

 「転校初日に遅刻してくるんじゃない」

 「ツナマヨパン咥えてるから、今」

 「どんなパンでも良いだろうが」

 「おはようございまー……あ、ここ高校じゃなくて小学校だ!?」

 「敷地に入る前に気づけ」


 見た目は……いや、やめといてやろう。


 「ども! 私、転校生ですっ。何か質問あります?」

 「名前は?」

 「トップシークレットなんで」

 「そんな転校生がいてたまるか。んじゃスリーサイズ」

 「上から7……って、それもトップシークレットだよ!」

 「お前今言いかけてたじゃねぇか!」


 別にコイツのスリーサイズの数値に7が現れても全然不思議じゃないからな。


 「ほら、もっと質問プリーズ」

 「彼氏いるのか?」

 「転校生に聞くことじゃないよね」

 「今更だろ」

 「人間の彼氏はいません」

 「人間じゃない彼氏はいるのか!?」

 

 ハツカネズミとかシマエナガの彼氏はいますって言われると流石に驚くが。それとも別次元のイマジナリー彼氏なのだろうか。コイツの闇は深そうだなぁ。


 「でさ、その転校生と意外な共通点があったりして、仲良くなっていくんだよ」

 「その共通点とやらは、例えば?」

 「最寄りのバス停が一緒とか」

 「ここに新たな仲間が加わることになるが」

 「風香ちゃんがいなくなっちゃうし、新たな刺激として何か欲しくない?」

 「俺は今のままでも十分だが」

 「お? 私と二人きりの方が良いってことぉ?」

 「じゃないと、下ネタフルスロットルの話が出来ないからな」

 「確かに」


 同意するな。お前はそれで良いのか。



 そしてようやく、俺が乗るバスがバス停へとやって来た。彼女はいつものように、俺の背中をパンッと叩いて。


 「んじゃ、ハブアグッドデイ!」

 「ユートゥー」


 俺はいつも通りバスの奥の方にある一人がけの席に座って、バスの中から彼女の方を見た。

 こうして俺を見送ってくれる美少女が何人も増えてくれたならそれはそれで嬉しいかもしれないが、その全員に下ネタフルスロットルの話をされても俺が困ってしまうからな。


 

 やがて俺の友人である新城と合流して、いつものように新城は俺の後ろの席から話しかけてくる。


 「なぁ永野。夏休みは良いことあったか?」

 「さぁな。俺は毎日生きてて楽しいが」

 「ハッピーな野郎め。来年の夏はきっと楽しくないと思うぞ~」


 来年はいよいよ大学受験を控えた時期になる。それまではあまり成績が良くなかった奴が急にギアを上げてくる時期でもある、油断は出来ないな。


 「学校生活を楽しめそうなのは二年生までだな」

 「修学旅行とかあるしな。永野はトリスタン・ダ・クーニャ島とか行くの?」

 「俺だけ僻地に飛ばそうとするな」

 「全生徒をそういう僻地に飛ばして、誰が最初に学校に戻ってこられるか試してみたいよな」

 「大半が夢半ばで死に絶えることになるぞ」


 俺達の学校は修学旅行の前に体育祭や文化祭もあるが、やはり高二のメインイベントは修学旅行と行っても過言ではない。

 ……あのちんちくりんがいれば、もっと楽しいかもしれないが。

 


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