第49話
「グッモ~ニ~ン」
今日の朝も、彼女の挨拶で始まる。
「グッモーニン」
俺は読んでいた本を閉じ、彼女の方を向いて挨拶を返す。見ると、今日もいつも通り、コンビニコーヒーを片手に、白いセーラー服姿のアイツが俺にピースサインを向けながら歩いてきていた。
日照りがやけに強い日々が終わってようやく梅雨が始まり、彼女は白い傘を差してきていた。まぁ、梅雨が終わったら本格的に日照りが強い時期が始まってしまうが。
「今日はちょっぴり涼しいね」
「だな。このまま梅雨前線が日本を冷やしてくれたら良いのにな」
「蒸し暑いのに変わりはないけどね」
段々亜熱帯気候になってる気がするなぁ、我が日本は。
しかしそんなスコールににた梅雨もどこへやら、彼女はいつもと変わらぬ調子で口を開く。
「あのさ、宇宙人っていると思う?」
「勿論だ」
「へ? なんだか君が宇宙人の存在信じてるの、意外」
「俺、宇宙人に攫われて体を改造されてみたいんだ」
「マゾもここに極まれりだね」
まぁ、よくある宇宙人とかUFOの映像が全部嘘っぱちだとしても、あんなびっくりするぐらい広い宇宙のどこかに、何かしらの生物がいてもおかしくはないだろう。
「UFOって見たことある?」
「あぁ、あるが」
「え? どこで?」
「家で美味しくいただいた」
「それただの焼きそばでしょ」
焼きそばってなんであんな美味しいんだろうな。それこそ宇宙人が不思議な技術力で美味しくしていたっておかしくない。
「宇宙人ってさ、なんか怖いイメージあるけど、めちゃくちゃ可愛くてもおかしくないよね? 例えば私みたいにさ」
「お前宇宙人だったのか?」
「うん、М78星雲から来たの」
「ちっこいヒーローだな」
「なにをぉ。多分、何か、変身グッズ使えば大きくなれるはずだもん」
「メガネとかか?」
「ベルトかも」
「それ別のもんに変身しちゃうだろ」
しかし、どうも似合わないな、彼女に変身ヒーローってのは。マスコット感が強すぎる。
「お前はセー◯ームーンの方が似合いそうだがな」
「美少女だから?」
「昔、実写版の変身シーンを見たが、なんかエロかったんだよな」
「いや無視しないで」
あの美少女戦士達が太陽系の惑星とかをモチーフにしているなら、コイツはなんだろうか。多分何かしらの小惑星だろう。
「話を戻すけど、案外近くに宇宙人がいるかもしれないよ?」
「確かにありえるかもな。俺のいとこの姉さん、酒を飲むと意味不明な言語を話すし」
「それは酔ってるだけだと思うけどね」
「あと、『月に帰りたい……』ってよく呟くんだ」
「絶対かぐや姫じゃん」
まぁ酔ってるだけなんだろうがな。しかし話の通じなさでいえば、酒にベロンベロンに酔った人は宇宙人とそう変わらないかもしれない。
「でも、もしもすんごい技術力を持った宇宙人が地球に侵攻してきたらどうする?」
「白旗を上げる」
「もっと抗って」
「じゃあアメリカ軍に入る」
「よく映画であるもんね、宇宙人VSアメリカ軍」
しょっちゅう宇宙人と戦わされる兵士も大変そうだな。
そしてようやく、俺が乗るバスがバス停へとやって来た。彼女はいつものように、俺の背中をパンッと叩いて。
「んじゃ、ハブアグッドデイ!」
「ユートゥー」
俺はいつも通りバスの奥の方にある一人がけの席に座って、バスの中から彼女の方を見た。
しかし、窓が白く曇ってしまって彼女の姿がよく見えない。仕方なく、ちょっとしたおふざけで窓にハートマークを描くと、バス停にいたちっこい奴がぴょんぴょんはしゃいでるのが見えた。浮かれすぎだろ。
やがて俺の友人である新城と合流して、いつものように新城は俺の後ろの席から話しかけてくる。
「なぁ永野。俺、宇宙人だったかもしれん」
「MIBに突き出すぞ」
「まぁ早まるなって。いや昨日な、宇宙人からメールが届いたんだ」
「宇宙人から?」
「あぁ。俺、とある惑星を支配していた貴族の子孫らしくてな、巡り巡って俺に遺産が振り込まれるんだと」
「へぇ、いくらなんだ」
「ピュエリッピコ゚エルケデバランピッだって」
「宇宙語で話すな」
「日本円で百八十円だ」
「もっとマシな詐欺にひっかかってこい」
迷惑メールがそういうぶっ飛んだ設定なら、少しは楽しく読めるかもしれないんだがな。いや、届かないのが一番だけども。




