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第46話



 「グッモ~ニ~ン」


 今日の朝も、私の挨拶で始まる。


 「グッモーニン」


 彼は読んでいた本を閉じ、私の方を向いて軽く挨拶を返してきた。紺色のブレザーの制服を着た彼は、いつもの愛想のない笑顔を私に向けて、バス停でバスを待っていた。


 「なぁ、お前の学校って七不思議とかあるか?」

 「うん、あるよ。まず一つ目はね、七不思議なのに七十七個あるの」

 「七十個減らせ」

 「んでね、その内七十個は理科準備室で起きてるの」

 「呪われすぎだろ、理科準備室。あとなんで準備室の方なんだ」

 「ウチの学校の理科準備室、百年ぐらい前に先生が爆死したらしくて」

 「事故物件過ぎるだろ」


 多分何かの薬品を調合してたら爆発しちゃったんだろうね。ギャグ漫画みたいな世界観だったら髪型がアフロになるだけで助かっただろうに。まぁ、百年も前の話だから、どこまで本当かわからないけどね。


 「後は大体ありきたりな話ばっかりだよ。人体模型とか音楽室の肖像画とか、あと階段の段数とか。私は体験したことないけど、君がそういうのに興味があるの意外かも」

 「いや……昨日、俺は実際にこの目で見てしまったんだ、学校の七不思議を」


 え、なにそれ。気になるけど怖いから聞きたくない、でもやっぱり気になる。


 「俺な、昨日は友人の手伝いをしてて帰りが遅くなったんだ。んで帰ろうと思って教室に鞄を取りに行ったらな、どういうわけか夕日に照らされた教室がやけに真っ赤で、まるでこの世界が滅んでしまう直前のような、不気味な雰囲気だったんだ」

 「ほうほう」

 「そんな教室にな、リスの着包みを着た奴が一人で佇んでいたんだ。ただ一点をジッと見つめて」

 

 なんか微妙に雰囲気がないね。教室が真っ赤に染まってるところまでは良かったのに、リスて。


 「でな、俺はそいつに問いかけたんだ。お前は誰だってな」

 「うんうん」

 「そしたらリスはゆっくりと俺の方を向いて、低い声で言ったんだ。俺の鞄どこですかって」

 

 それ、ただ着ぐるみを着た生徒が鞄を探してただけなんじゃない?


 「教室に並んだ机の上には、俺の鞄ともう一つ、誰のものかわからない鞄が置かれてたんだ。多分それなんじゃないかって俺が言うとリスはその鞄を取りに行ったんだが、前がよく見えてなかったのか机にぶつかってずっこけたんだ。そしたら頭の部分がポロッと取れたんだが……なかったんだ、そいつの頭」

 「へ?」

 「意味がわからんくて、俺は着ぐるみの中を覗き込んだ。でもなかったんだ、そいつの体、中の人ってやつがな」

 「えぇ、こわ」

 「んで気づいたら、俺はバスの中で寝てたんだ」

 「いや夢オチじゃん」


 私が結構真剣に話を聞いていた時間を返して。


 「いや、多分あれは夢じゃない。あれは新たな学校の七不思議に違いない!」

 「どんな名前の七不思議にするのさ」

 「鞄を失くしたリスだな」

 「童話のタイトルみたい」


 グリム童話にありそうなファンシーさだね。この人にはそういうファンシーな世界観は似合わないけど。


 「俺はあまり霊感とかないんだがな。しかし風香は結構あるらしいぞ、よく見えるらしい」

 「そうなの?」

 「あぁ。俺の部屋には五、六人の落ち武者がくつろいでるらしい」

 「くつろいじゃってるんだ。そんな部屋でよく寝れるね」

 「気にしなければ大丈夫だろ、事故物件なんて。よく金縛りに合う気はするが気のせいだ」

 「いや絶対気のせいじゃないと思うけど」

 「あんなもの、所詮脳の誤作動に過ぎない。そうに決まってる」


 この人、自分にそう言い聞かせてるんだね。本当は怖いのかな。



 そして、いつも通り定刻より少し遅れて彼が乗るバスがバス停へやって来た。私はいつものように、彼の背中をパンッと叩いて。


 「んじゃ、ハブアグッドデイ!」

 「ユートゥー」


 彼は私にそう返事して、いつもの一人がけの席に座った。そしてバスの中からチラッと私の方を見てきた彼に向かって、私はとびっきりの変顔を作ってみせた。

 なんか私の守護霊も思いっきり変顔とかしてくれないかな。あ、でもあの人霊感ないみたいだし意味ないか。


 そして数分後、私が通う学校に向かうバスがやって来た。いつもどおり友達の岩川ちゃんが先に乗っていたから、私は彼女の隣に座る。


 「グッモ~ニ~ン、岩川ちゃん」

 「グッドモーニング、都さん」

 「ねぇ、岩川ちゃんってさ、霊感ある?」

 「うん、よく見えるよ」

 「そなの?」

 「今ね、都さんの後ろに丁度……」

 「うぎゃあー!?」

 「キ◯ィちゃんの幽霊が」

 「めっちゃ可愛いじゃん」


 私の守護霊、キテ◯ちゃんだったかぁ。それって強いのかなぁ。



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