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第45話



 「グッモ~ニ~ン」


 今日の朝も、彼女の挨拶で始まる。


 「グッモーニン」


 俺は読んでいた本を閉じ、彼女の方を向いて挨拶を返す。見ると、今日もいつも通り、コンビニコーヒーを片手に、黒いセーラー服姿のアイツが俺にピースサインを向けながら歩いてきていた。


 「ねぇ、君って虫とか平気?」

 「田舎育ちだし、多少は慣れているつもりだが」

 「じゃあ、私の部屋に現れた悪魔を退治してくれない?」

 「俺に悪魔祓いをしろと」

 「そう、黒光りの悪魔」


 自分の部屋に現れたら恐怖で眠れないよな、俺もわかるよその気持ち。

 

 「わかった。防護服着ていっていいか?」

 「私の部屋は何かに汚染されてるのかな?」

 「まず爆撃機を呼ぶ」

 「空爆するつもりなの?」

 「そして建物を再建する」

 「大掛かりな悪魔祓いだね」


 黒光りの悪魔ことゴキブリをただ退治するのでは意味がない。奴らに対して、人間という崇高な種族に抗うことがどれだけ無意味であることかを、その恐怖を奴らの本能に、遺伝子に叩き込まなければならないだろう。そうしない限り人類に平和は訪れない。


 「でもさ、ゴキブリも可哀想な生き物だよね」

 「自分で悪魔呼ばわりしておいてか」

 「だってさ、見た目が気持ち悪いだけで厄介者扱いされるのってさ、完全に昨今話題のルッキズムってやつだよね」

 「悪魔呼ばわりしておいてか」

 「もし仮に私がゴキブリだとしたらさ、君は倒せる?」

 「追い出す」

 「倒さないだけマシなのかな。でも何度も君の家に押しかけちゃうかもよ?」

 「警察を呼ぶ」

 「ゴキブリ相手に?」


 実際そういうイタズラ通報というか、しょうもない通報もあるだろうしな。


 「虫もさ、もっと見た目が可愛ければさ、動物園みたいな感じで人間の保護下で楽な生活が出来たかもしれないのにね」

 「だが、実際に虫をペットとして飼う人もいるしな。俺も子どもの頃は虫取りとかしたし」

 「カマキリとかバッタとか平気?」

 「あれはまだ可愛い方だろ。顔をずっと眺めていると楽しいぞ、何考えてるのか全然わからなくて」

 「わかり合えそうにないね、虫と人類は」


 ここら辺は自然が豊かだから、夏場はそこら辺歩いてるだけでカマキリとかカブトムシとか見つけられる環境だ。流石に最近は捕まえこそしないものの、ふと眺めてしまうことはある。


 「お前はカエルとか平気か?」

 「飼育されてるのを眺めるのは大丈夫だけど、触るのは無理かなぁ」

 「カエルは結構可愛いぞ。アイツらも何を考えてるのかさっぱりわからんが」

 「君はまず虫とかカエル相手に心を通じ合おうとするんだね」

 「あぁ、そういうのを考えるのも結構楽しいぞ。ほら、そこを飛んでいる蝶々も、何かやかましいちんちくりんがいるなぁって考えてるかもしれないし」

 「なにをぉ。可愛い女の子がいるなぁグヘヘって思ってるかもしれないじゃん」

 「蝶々にグヘヘって笑ってほしくはないがな」


 まぁ、あまり虫相手に感情移入しすぎると、死骸を見るたびに心を痛める羽目になるからな。自然豊かな田舎は生息する虫も多けれど、車に轢かれることも多いし、よく見かけるし。



 そしてようやく、俺が乗るバスがバス停へとやって来た。彼女はいつものように、俺の背中をパンッと叩いて。


 「んじゃ、ハブアグッドデイ!」

 「ユートゥー」


 俺はいつも通りバスの奥の方にある一人がけの席に座って、バスの中から彼女の方を見た。

 お、アイツの額に蝶々がとまったぞ。なんかおもろ。


 

 やがて俺の友人である新城と合流して、いつものように新城は俺の後ろの席から話しかけてくる。


 「はぁ、朝からまじ最悪なんだけど」

 「どうしたんだ?」

 「でっかい芋虫とでっかいカタツムリを同時に踏んづけた」

 「朝っぱらからそんな話を聞かせないでほしいし、お前はもっと足元に注意して歩け」

 「俺の靴の裏見る?」

 「今すぐ焼却場行って来い」

 「せめて洗浄させてくんない?」


 田舎あるあるではあるな、俺も自転車でよく踏んづけるし、その度ナイーブな気分になるし。


 「帰りは一体何の虫を踏んづけるんだろうな、俺」

 「いっその事、目隠ししたら何を踏んだかわからないだろ」

 「そうなるともれなくトラックとかに踏まれてぺしゃんこになっちゃうかもしれないんだが?」

 「気持ち悪い虫を踏んづけるのとどっちがいい?」

 「……虫を踏んづける方!」


 ちょっと迷うんじゃない。



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