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第44話



 「グッモ~ニ~ン」


 今日の朝も、私の挨拶で始まる。


 「グッモーニン」


 彼は読んでいた本を閉じ、私の方を向いて軽く挨拶を返してきた。紺色のブレザーの制服を着た彼は、いつもの愛想のない笑顔を私に向けて、バス停でバスを待っていた。


 「グッドモーニング!」


 そして、今日は彼の妹である風香ちゃんがいる。どうやら、今日はバレー部の朝練は無いみたいだね。


 「昨日の夜さ、地震ヤバかったよね」

 「結構揺れたな」

 「私には揺れるような胸も無いけどね、グスン」

 「泣くぐらいなら自虐するな」

 「私にはありますけどね、揺れるところ」

 「余計なことを言うんじゃない」


 風香ちゃんは学校だと明朗快活な、いかにもスポーツ大好きですって感じの元気な女の子だけど、二人きりで話していると、やっぱりあの人と同類だなって感じるね。そのデカいものを私にも分けてほしいけどね。


 「何か災害の備えとかしてる?」

 「俺は揺れが始まった瞬間に死を悟る」

 「もっと抗って」

 「私は布団の中にくるまって揺れが収まるのを待ちます」

 「二人共結構怖がりなんだね」


 テレビにテロップが出たりスマホに通知が来るとびっくりしちゃうのはわかるけどさ。ここら辺はあまり強い地震は来ないけど、いつか来るんじゃないかってビクビクしちゃう部分はあるよね。


 「台風とかも怖いよな。昔は電柱が倒れたことあったし」

 「何日間かずっと停電してたこともありましたからね」

 「でもさ、ランプとかろうそくの明かりを頼りに生活するのも、ちょっと非日常感があって楽しいよね」

 「短期間ならな」


 まぁ、短期間だけなら楽しめることだよね、その通りだよ。充電切れたらスマホも見れないし、ラジオ聞いてても楽しくないからね。


 「私の家とかは高台にあるからまだ安心できるけどさ、洪水とかで家が流されるのも怖いよね」

 「俺の秘蔵コレクションが……!」

 「私のぬいぐるみが……!」

 「もっと大事なもの流されてると思うけどね」


 たまに災害時の映像とかで住宅が流されてるのを見たりするけど、実際に自分の家が流されたらどんな気持ちになるんだろうね。


 「私達にはあまり馴染みがないけどさ、街をいくつか破壊し尽くしてしまうようなハリケーンとか、あと雪山とか砂漠とか極地で遭難しちゃったりとか、乗ってた船が難破して大海原を彷徨ったりとかさ、テレビ越しとか創作の世界で見るのはまだ良いけど、実際に体験はしたくないよね」

 「馴染みがないのが一番だ」

 「でも雪山で遭難するのはありうる未来かもしれませんね」

 「んじゃシミュレーションしようか」

 「好きだな、シミュレーション」

 「私は山小屋するからさ」

 「遭難しとけよ」

 「君が遭難者、風香ちゃんは吹雪ね」

 「どんな配役だ」

 「ビュオオオオオオッ!」

 「風香もそんな本気でするんじゃない」


 風香ちゃんのおふざけに本気なとこ、私結構好き。


 「ほら、こんな吹雪いてると歩くの大変だから早く私のところに避難してきなよ」

 「そもそも山小屋役ってどういうことなんだ」

 「私、山小屋の中で包丁研いでるから」

 「それ山姥だろ」

 「大丈夫、私が猛吹雪で山小屋を倒壊させて山姥を倒すから」

 「ぐわあー」

 「それ、俺も山小屋の下敷きになってるだろうが」


 バッドエンド待ったなしだね。



 そして、いつも通り定刻より少し遅れて彼が乗るバスがバス停へやって来た。私はいつものように、彼の背中をパンッと叩いて。


 「んじゃ、ハブアグッドデイ!」

 「ユートゥー」


 そして、もう一人。


 「ハブアグッドデイ!」

 「いってぇな!」


 風香ちゃんも力強くあの人の背中を叩く。自分のお兄さんなのに容赦ないね、いや身内だから容赦ないのかな。痛そう。


 そして、彼はいつもの一人がけの席に座ると、バスの中からチラッと私の方を見てきて、そんな彼に向かって私と風香ちゃんは二人でとびっきりの変顔を作ってみせた。

 

 「笑わないね、あの人」

 「でも可愛いとは思ってると思いますよ」


 そうだと良いけどねぇ。


 そして数分後、私と風香ちゃんが通う学校に向かうバスがやって来た。いつもどおり友達の岩川ちゃんが先に乗っていて、今日は風香ちゃんがいるから一番後ろの席に並んで座った。


 「グッモ~ニ~ン、岩川ちゃん」

 「グッドモーニング、都さん、風香さん」

 「グッドモーニング!」


 何だか三人で並ぶと姉妹みたいだね。きっと私が末妹に見えるだろうけどね。


 「風香ちゃんさ、実質私達と同級生みたいなものなんだから、タメ語でも良いんだよ?」

 「でも都さんは、可愛い後輩欲しくないの?」

 「むっちゃ欲しいけど」

 「まー、あの人に妹扱いされるのはちょっと癪ですけど、案外悪くないものですよ、今の立場も」

 「そうなの?」

 「だって私がお兄ちゃんと喧嘩したら、大体お母さん達はお兄ちゃんの方を怒ってくれますし」


 大変だね、お兄ちゃん。


 「それに中学の時はあの人の妹ってだけで、先輩に可愛がってもらえますからね。高校は別々になっちゃいましたけど」

 「あー、確かにあるかもね、そういうの。岩川ちゃんの弟君もそういうのあったのかな?」

 「私の弟は嫌がってたけどね、私の友達に囲まれるの」

 「中々ウブだねぇ~」


 兄弟がいるのって何だか楽しそうだね。一人っ子だとこういう会話に混ざりにくいのがちょっと悲しいね。

 


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