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第41話



 「グッモ~ニ~ン」


 今日の朝も、彼女の挨拶で始まる。


 「グッモーニン」


 俺は読んでいた本を閉じ、彼女の方を向いて挨拶を返す。見ると、今日もいつも通り、コンビニコーヒーを片手に、黒いセーラー服姿のアイツが俺にピースサインを向けながら歩いてきていた。


 「グッドモーニング!」


 俺の妹、風香も元気よく彼女に挨拶する。今日は朝練がないらしい。


 「今日も良い天気ですね、先輩」

 「暑いぐらいだな」

 「そ、そうだね」

 「ちなみに先輩は何かゴールデンウィークのご予定ありますか?」

 「んっとね、トラップタワー建設」

 「マ〇クラやってんのか」


 なんだろう、今日はアイツの覇気がないというか、なんか妙に態度がよそよそしい。

 風香も彼女の異変に気づいたようで、先に風香が彼女に声をかける。


 「あの、先輩。どうかなさいましたか?」

 「ん? い、いや、なんでもないよ」

 「いや、どうしたんだよお前、そんなよそよそしくなって。タイムトラベルでもしてきたのか」

 「実は五分前から……」

 「もっとトラベルしてこい」


 ボケのキレはいつも通りな気がするが、どうも彼女の笑顔がぎこちなく見える。学校で何かあったのかと思ったが、同じ学校の風香も知らないようだし、家庭内のこととなるとなおのことわからないぞ。


 俺と風香が心配していると、とうとう彼女も耐えられなくなったのか、急に俺の手を掴んできた。


 「ちょっとこっち来て」

 「な、なんだ」


 彼女は俺を近くの竹やぶの裏の方まで引っ張っていく。バス停に取り残された風香からは丁度見えない位置だ。


 「なんだ、どうしたんだお前」


 俺が戸惑っている中、彼女は周囲をキョロキョロと見回した後、いつにもなく真剣な情報で口を開いた。


 「ね、私、とんでもなく失礼なこと聞いちゃうかもしれないけどさ」

 「今更だろ」

 「確かに」


 納得するな。

 そして、周りに誰もいないというのに、彼女は俺をしゃがませて、俺の耳元で小さな声で言う。


 「君と風香ちゃんってさ、本当の兄妹なの?」


 ……ほう。

 気づきやがったか、コイツは。


 「俺と風香が本当の兄妹ではない、と」

 「ち、違ったらごめん。聞こうか迷ったんだけど、落ち着けそうになかったから」

 

 まぁ、あえて俺は情報を流していたからな。

 不安げな表情の彼女に向かって、俺はフッと笑って言う。


 「まさか、お前がこんな早く気づくとはな。来年まで気づかないと思っていた」

 「なにをぉ。そんなバカじゃないもん」

 「ちなみに、お前はどうしてそう思ったんだ?」

 「えっと、君の誕生日ってさ、四月一日じゃん? でもさ、まだ四月なのに風香ちゃんがもう十六歳になってるってことはさ、今月に誕生日迎えてるってことじゃん? 年が二つ離れてるならわかるんだけど、一つしか変わらないのにどゆこと?って思って」


 成程。年子なのに誕生日が近すぎる、つまり俺と風香は血の繋がった兄妹ではなく、腹違いだとか、養子という線も考えたのだろう。

 もっと単純な答えもありそうなんだがな。


 「お見事です、探偵さん」

 「犯人役のセリフじゃん」

 「あのな、その謎の答えはもっと単純だぞ」

 「そなの?」

 「あぁ。俺の誕生日は四月一日、んで風香の誕生日は四月二日。それだけだ」


 俺が答えを言うと、三十秒ぐらい経ってから、彼女はようやく全ての謎が解けたようで、どうしてそんな単純な謎が解けなかったのか自分でも驚いているようだった。


 「……もしかして、君と風香ちゃんって、日付が変わる前後に生まれたってこと?」

 「そういうことだ」


 俺は日付が四月二日になる直前に生まれ、そして二日を迎えた直後に風香が生まれたというわけだ。本当の予定日はもうちょっと後だったらしいが、緊急出産で産むことになったらしい。俺は死にかけていたらしいし。

 母親とお医者さん方には感謝しかないな。


 「だから俺と風香は元々双子だ。色々あって学年が違うけどな」

 「そうなんだ。全然似てないね」

 「二卵性だしな」

 「でも良かった~複雑な家庭環境なのかと思ってドキドキしちゃった」


 俺と風香が血が繋がった兄妹ではない、と彼女が推理したのは、俺と風香の容姿が似ていないという事実も拍車をかけただろう。


 ようやく謎が解けてすっきりした彼女と共に、俺はバス停で待っている風花の元へ戻った。


 「風香。俺達の秘密の関係がバレてしまったぞ」

 「何その言い方」

 「私とお兄ちゃんの禁断の恋が……」

 「前言撤回。やっぱり二人って似てるね」

 「考えてもみてくださいよ、私は子どもの頃からお兄ちゃんの話し相手をさせられてるんですから」

 「大変だったね……」

 「いや、風香も大概おかしいからな。お前の前でかわい子ぶってるだけで」


 学年も違うから表ではあまり双子というのは明かしていないが、彼女のように俺達の謎に気付いた知り合いも少なくない。家では普通に名前で呼び合ってるし。

 


 そしてようやく、俺が乗るバスがバス停へとやって来た。彼女はいつものように、俺の背中をパンッと叩いて。


 「んじゃ、ハブアグッドデイ!」

 「ユートゥー」


 そして、もう一人。


 「ハブアグッドデイ!」

 「いってぇな!」


 俺はいつも通りバスの奥の方にある一人がけの席に座って、バスの中から彼女の方を見た。

 二人がかりで変顔したって無駄だぞ。ま、アイツが元気を取り戻したようで一安心だ。



 やがて俺の友人である新城と合流して、いつものように新城は俺の後ろの席から話しかけてくる。


 「なぁ永野。俺、どうしても解けない謎があるんだ」

 「なんだ?」

 「すべての2よりも大きな偶数は2つの素数の和として表すことができると思うか?」

 「そうか。頑張れよ」

 「見捨てるなって。一緒にゴールドバッハ予想を解いて有名になろうぜ」


 なお、新城は風香と知り合いではあるが、俺と風香が実は双子ということには気づいていない。悲しい奴だ。


 

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