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第40話



 「グッモ~ニ…………ん?」


 今日の朝も、私の挨拶で始まるはずだった。

 でも、いつものバス停が視界に入った途端、私は違和感を覚えた。

 最近私の可愛い後輩になった、アイツの可愛い妹ちゃん。そう、風香ちゃんの姿がなく、アイツが一人寂しくバスを待っている。


 私は慌てて彼の元に駆け寄って声をかける。


 「ねぇねぇ、風香ちゃんどしたの? 風邪?」

 

 私の慌てぶりとは対照的に、彼はいつもの無愛想な、冷静な口ぶりで言う。


 「朝練だ」

 「あされぇん」

 「そう、朝練だ」


 新年度が始まって一か月。もうすぐ五月になるというタイミングで、私はようやくハッとした。

 そうか、部活に入ったんだね。


 「そういえば、風香ちゃんってバレーボールやってたんだっけ」

 「あぁ、お前の学校が強豪だから入学したわけだしな。だから一便前のバスで行ってるはずだ」

 「早起きしないといけないんだね……」


 私はここ一か月ぐらい岩川ちゃんと風香ちゃんの三人でバス通学していたけれど、やっぱり帰りは中々一緒になれなかった。私が塾通いだというのもあるけれど、風香ちゃんはバレー部の練習に参加していたからだ。多分体験入部期間が終わって、本格的に部活動に参加するんだろう。


 「グスン……」

 「泣くな泣くな」

 「こうなるならもっと早く言ってよぉ……」

 「アイツから聞いてなかったのか?」

 「聞いてなかったぁ……」

 「まぁ、俺がそう躾けていたからな」

 「君の仕業かーい」


 兄妹でグルだったんだ。確かに私は風香ちゃんと一緒にバス通学してるし、学校でも結構会って話したりするけれど、中々風香ちゃん達の個人情報を掴めないんだよね。

 私が風香ちゃんのお友達とか担任の先生から名字を教えてもらおうと聞きに行っても、個人情報だって口実で全然教えてくれないし。どれだけかん口令敷いてるの。


 「まぁ、朝練がない日は俺達と一緒だから、そう泣くんじゃない」

 「あ、そうなの?」

 「急に元気になるな。だが残念だったな、夏休みが終わったらアイツはバイク通学だ」

 「は?」

 「部活の練習があるのに、バス通だと不便だろ。許可も下りてるし、夏休みに原付の免許を取るんだと」


 私の希望は潰えた。もうこの世界は滅んでしまったら良いと思う。

 

 「んじゃ私も原付の免許とる」

 「おう、頑張れよ」

 「私がいなくなって悲しくないのかー」

 「俺は毎朝、涙を流しながらバスを待っているだろうな」

 「泣くんじゃないよ、このこの~」


 と、私は茶化してみせたものの、そう言った彼の目が、本当に寂しそうにしていて、ちょっと驚いた。


 「でも、もう夏休みに免許とっちゃうんだ。早いね」

 「長期休暇中ならとっていいらしいからな。アイツももう十六になったわけだし、要領もいいからすぐ受かるだろ」

 「私と違ってね!」

 「そうだな」

 「……グスン」

 「泣くぐらいなら自虐するんじゃない」


 ふと、私は違和感を覚えた。

 なんだろう、この違和感。何かおかしい気がする。何がおかしいんだろう?

 

 別に、ここら辺の高校じゃバイク通学なんて珍しくない。私が通ってる学校だって家から十数キロの距離だし、確か三、四割がバイク通学らしいし。

 私は一体、彼との会話のどこに違和感を覚えたんだろう?



 私がその違和感を解決できないまま、いつも通り定刻より少し遅れて彼が乗るバスがバス停へやって来た。私はいつものように、彼の背中をパンッと叩いて。


 「んじゃ、ハブアグッドデイ!」

 「ユートゥー」


 彼は私にそう返事して、いつもの一人がけの席に座った。そしてバスの中からチラッと私の方を見てきた彼に向かって、私はとびっきりの変顔を作ってみせた。

 私の変顔、流石にネタが尽きてきそうなんだけど。一年もやってればそうなるよね。むしろよく一年以上持ってるよね。


 そして数分後、私が通う学校に向かうバスがやって来た。いつもどおり友達の岩川ちゃんが先に乗っていたから、私は彼女の隣に座る。


 「グッモ~ニ~ン、岩川ちゃん」

 「グッドモーニング、都さん。あれ? 風香さんは?」

 「部活の朝練だって」

 「成程、そういえばバレー部だったもんね。チラッと練習見たけど凄かったよ」

 「おっぱいが?」

 「もう、都さんはそんなとこばっかり見ちゃうんだから」


 だってすごいんだもん、風香ちゃん。あれは女でもまじまじと見ちゃうよ。


 「んでさ、朝練がない日はバスらしいんだけど、夏休みに原付の免許とっちゃうんだって」

 「あ、そうなんだ。誕生日早いんだね、風香さん」

 「可愛い後輩がいなくなっちゃうと思うと悲しいよぉ……」

 

 私はそう嘆きながら、再び猛烈な違和感に襲われた。

 そして、ようやくその違和感の正体に気づいた。


 『アイツももう十六になったわけだし……』

 

 風香ちゃんは、もう十六歳。


 『誕生日早いんだね、風香さん』


 つまり、風香ちゃんはもう四月に誕生日を迎えているということ。

 別に、それだけならおかしくない。

 だけど私は、名前も知らない彼の、誕生日だけは知っている。


 あの人は、四月一日生まれ。

 あの人の一つ下の妹である風香ちゃんは、おそらく四月生まれ。つまり、あの人と誕生日が一か月も離れてないということ。

 年子にしては、あまりにも誕生日が近すぎるよね。


 お兄さんであるはずの誕生日が四月一日なの、おかしくない?

 私ってば名探偵……でもこれ、どういうこと?

 

 

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