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第35話



 「グッモ~ニ~ン」


 今日の朝も、彼女の挨拶で始まる。


 「グッモーニン」


 俺は読んでいた本を閉じ、彼女の方を向いて挨拶を返す。見ると、今日もいつも通り、コンビニコーヒーを片手に、黒いセーラー服の上にグレーのコートを着たアイツが俺にピースサインを向けながら歩いてきていた。


 さて、今日は三月十四日。どういう日かは言わずもがなだろう。

 だが俺はあえて彼女に聞いてみる。


 「今日は何の日だと思う?」

 「君の命日。お命頂戴する」

 「お前刺客だったのか」

 「暴れん坊将軍だから」

 「随分と可愛らしい将軍だな」

 「なにをぉー不届き者めがー」


 お前が暴れん坊将軍だったら必然的に俺が悪の方になっちまうだろうが。

 それはそれとして、俺は鞄の中からお菓子を取り出して、彼女に渡した。


 「ほらよ、ホワイトデーのお返しだ」

 「何これ」

 「見ればわかるだろ、チョコバ〇トだ」

 「いやわかるけど、これがお返し?」

 「美味しいだろ?」

 「確かに私も好きだけどさ、なーんかロマンチックじゃないよねー」


 不満そうにぶつぶつ言いながらも、彼女はぼりぼりとチョコバ〇トを食べ始める。なんかハムスターみたいに食べるな、コイツ。


 「でもさ、この前商店街の商品券貰ったのに良いの?」

 「あれは誕プレだしな。美味いもの食えたか?」

 「先生と友達と一緒にケーキ食べてきた。あ、これ結構コーヒーに合うね」

 「まだあるが?」

 「待って、もしかして三十本入りのやつを持ってきたの?」

 「欲しけりゃ全部くれてやるが」

 「ギブミーチョコレート」

 「ほらよ」

 「わーい」


 チョコバ〇トの大袋貰って、こんなにウキウキする奴がいるもんなんだな。

 そんな彼女は、今もボリボリとチョコバ〇トを頬張っている。


 「たまに食べると美味しいよね、こういう駄菓子」

 「同感だ。昔は遠足がある旅にワクワクしながら近くの酒屋に行ったものだ」

 「私の家の近所にある酒屋さん、全然お菓子ないんだよね。お酒ばっかり」

 「そりゃ酒屋だからな」

 「だからちょっと遠くの酒屋さんまで買いに行ってた。たまにあるよね、品揃えが良いとこ」

 「大人になってお金を稼げるようになったら大人買いしてみたいよな」

 「でもいざその時になったら、そこまでやる気にならなさそうだよね」

 「悲しいことを言うんじゃない」


 そんな話をしながらも、彼女は夢中でチョコバ〇トを頬張っている。やっぱ黙ってれば大分可愛いよな、コイツ。


 「ヤバい、学校着く前に全部食べ切っちゃうかも」

 「食べ過ぎるなよ」

 「太っちゃったら君のせいだかんね」

 「冤罪だ」

 「でもさ、チョコバ〇トってバットって言う割には全然重くないし、実質ゼロカロリーなんじゃないかな?」

 「むちゃくちゃな理論だな」


 彼女は少し強い風が吹いたらどこかに飛んで行ってしまいそうな体格だが、どのくらいなんだろうな。俺でも軽く持ち上げられそうだ。


 「あ、そうだ。君の誕プレさ、何かリクエストある?」

 「おまかせで」

 「覚悟しといてね」

 「怖すぎるんだが」


 そしてようやく、俺が乗るバスがバス停へとやって来た。彼女はいつものように、俺の背中をパンッと叩いて。


 「んじゃ、ハブアグッドデイ!」

 「ユートゥー」


 俺はいつも通りバスの奥の方にある一人がけの席に座って、バスの中から彼女の方を見た。

 今日はいつもの変顔はなく、夢中でチョコバ〇トを頬張っていた。そんなに気に入ったか。



 やがて俺の友人である新城と合流して、いつものように新城は俺の後ろの席から話しかけてくる。

 

 「ホワイトデーだなー」

 「元気なさそうだな、新城」

 「俺がどんだけお返ししないといけないと思ってるんだよ……」

 「ぶち殺すぞ」

 「妬むなって」


 見ると、今日の新城のスポーツバッグはいつもよりかなりパンパンに膨れ上がっている。確かにバレンタインの日、机の中とか靴箱の中からチョコが溢れ出てきていたもんな。


 「配るの手伝ってやろうか?」

 「マジ? 五つぐらい高校回んないといけないんだけど」

 「ラーメン奢ってくれ」

 「それぐらいならお安い御用だ」

 「ていうかお前、他校の女子からもチョコ貰ってるのか」

 「ま、俺はモテるからな」

 「グスン……」

 「泣くなって」


 俺と新城の違いはなんなんだろう。やっぱり顔か。


 

 

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