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第29話



 「グッモ~ニ~ン」


 今日の朝も、彼女の挨拶で始まる。


 「グッモーニン」


 俺は読んでいた本を閉じ、彼女の方を向いて挨拶を返す。見ると、今日もいつも通り、コンビニコーヒーを片手に、私服のグレーのコートを着たアイツが俺にピースサインを向けながら歩いてきていた。


 「もう年末だね」

 「クリスマスはプレゼント貰えたか?」

 「うん。男爵になった」

 「クリスマスプレゼントが爵位だったのか?」

 「一代貴族だけどね」

 

 イギリスには女男爵という、字面だけ見るとわけのわからない爵位もあるが、女性が爵位をもらって貴族院議員を務めていることもある。

 いくらなんでも、彼女に爵位は似合わないが。


 「どちらかというと、お前は伯爵夫人とかの肩書の方が似合いそうだがな」

 「なんか性格悪そう。いっそのこと女王とかになりたいよね」

 「女王になったら何をするんだ?」

 「身長を伸ばしておっぱいを大きくする」

 「せめて国の繁栄のためになることをやれ」


 コイツ、自分の体に相当なコンプレックスを抱いてるな。多少は優しくしてやろう。


 「ねぇ、年越しの瞬間にジャンプする?」

 「そんなガキンチョらしいことを俺がするわけないだろう。お前はやってそうだがな」

 「なにをぉ。私はするけど」

 「やるんかい」

 「んじゃ君は何するの?」

 「初日の出を見に行って、そのついでに初詣だ」

 「お、なんかお正月っぽいことするんだね」

 「お前は何するんだ?」

 「寝正月」

 「起きとけ起きとけ」


 まぁ、年末年始ぐらいゆっくりしたい気持ちはわかる。でもずっと寝ていると時間を無駄に消費した気分になってしまう自分が悲しい。


 「初詣、何をお願いしようかなぁ」

 「お前、あの安産祈願のお守り回収してもらえよ」

 「今度は間違って商売繁盛のお守り買っちゃうかも」

 「何か商売でも始めるつもりかよ」

 「貰った爵位を売る」

 「地位を売ろうとするな」


 俺は来年も学業成就のお守りを買うことになるだろう。間違っても安産祈願とか買わないようにしよう。


 「ねぇ、お正月って親戚で集まったりする?」

 「近くに親戚が住んでるから、多少の宴会はあるな。お前のところは?」

 「ウチもあるよ。でも私、お酒臭いの苦手だから参加しないけど」

 「アルコールの匂いで酔うのか?」

 「もうね、泣いてばっかり」

 「泣き上戸だったか……」


 コイツは俺のいとこの姉さんみたいに悪酔いしそうで怖いな。


 「君ってお酒強そうだよね」

 「俺は母方も父方も代々大酒飲みだからな、酒蔵には一升瓶が貯めこんである」

 「酒蔵とかあるんだ。作ったりするの?」

 「勝手に作ったら捕まるんだぞ」

 「ちぇー。証拠掴んで通報しようと思ったのに」


 だが、そういうアルコールに多少の恐怖心もある。自分が酒に酔ったらどうなるか想像つかないし、酒の勢いでとんでもないことをしでかしてしまいそうだ。

 まぁ、こうして彼女と会っている内はアルコールを口にすることはないだろうが。


 「私ね、ワインのソムリエになってみたい」

 「ワインに興味あるのか?」

 「ほら、ソムリエってかっこいいじゃん」

 「かっこよさで肩書を選ぶな」

 「君は何のソムリエになりたい?」

 「ミルクソムリエ」

 「……赤ちゃんプレイしたいわけじゃないよね?」

 「俺は元々牛乳が好きなんだ」

 「そうなんだ。だからそんな無駄に大きくなるんだね。私にも分けてよ、その身長」

 「足を交換するか」

 「大分アンバランスになっちゃうんだけど」

 「んじゃ頭か?」

 「それもそれで大分気持ち悪い絵面になっちゃうよ」



 そしてようやく、俺が乗るバスがバス停へとやって来た。彼女はいつものように、俺の背中をパンッと叩いて。


 「んじゃ、ハブアグッドデイ!」

 「ユートゥー」


 俺はいつも通りバスの奥の方にある一人がけの席に座って、バスの中から彼女の方を見た。

 アイツの体に俺の顔がひっついてたら、多少は面白い絵面になると思うんだがな。


 

 やがて俺の友人である新城と合流して、いつものように新城は俺の後ろの席から話しかけてくる。

 そういえばコイツ、塾に通ってないはずなのにどうして当たり前のように冬休みもこのバスに乗ってるんだ。まぁいいか。



 「もう今年も終わってしまうなぁ」

 「何かやり残したことはあるか?」

 「トイレ」

 「そんなもん年を越す前にすぐ終わらせとけ」

 「んじゃ失礼」

 「ここで済ませようとするんじゃない」


 年を越すからといって、何か特別なことがあるわけじゃないはずだ。また一つ、年を取るだけ。

 

 「俺達ももうすぐ二年生になるんだな」

 「気が早いだろ、永野。無事進級出来るといいな」

 「余裕で進級出来るはずなんだがな」

 「修学旅行が待ち遠しいぜ」

 「コロナとかなければいいな」

 「世界滅亡の予言とかもな」


 今年も色々あったが、一番の思い出はなんだろうか? やはり文化祭の時にピエロの恰好してオノを片手に学校中を駆け回ったことだろうか。理事長を仕留められたことに俺はとても満足している。

 来年も、毎日を楽しく思うことが出来たらいいな……。


 

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