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第24話



 「グッモ~ニ…………ん?」


 今日の朝も、私の挨拶で始まるはずだった。

 すっかり冷え込むようになったから、今日着てきたコートを褒めてもらおうとウキウキしていたのに。

 今日はどういうわけか、私の挨拶の返事をしてくれる人がいない。


 「……およよ?」


 私は携帯で今の時間を確かめる。うん、確かにいつも通り。それに、彼が乗るはずのバスもまだ来る時間じゃない。

 でも、いつも私より先に来ているはずの彼がバス停にいない。

 どして?


 「あ、寝坊したのかな」


 そう、寝坊。彼も人間のはずなんだから、たまにはそういうこともあるだろう。私だってたまに危ない時もあるし。最近、朝寒いし、布団から出たくない気分なのかもしれない。

 

 あるいは、風邪でも引いたのかもしれない。季節の変わり目って体調崩しやすいし、あんなバカでも風邪は引くかもしれない。それに、前に滝壺に飛び込んだって言ってた気もするし、彼のことだから突拍子もなく奇行に走ることだってあるだろう。

 うん、そうに違いないね。



 私はそうやって自分を納得させて、今しがたコンビニで買ってきたコーヒーを飲む。いつもは何気なく飲んでいるはずなのに、何だか今日は変な味がするような。


 私は、目の前の道路を行き交う車を眺める。通り過ぎていく車のナンバーの数字を使って四則計算をしてみる。

 今は、それぐらいしか暇つぶしが出来ない。せっかく私が話のネタを用意してきてあげたのに、何で来ないんだろ、アイツ。


 

 通り過ぎていく車を観察して暇つぶししていても、ふと私の頭の中に沸いた、ちょっとした不安が、段々と頭の中を侵食していく。


 もし、アイツが、ここに来るまでに事件や事故に遭っていたら?


 寝坊や病欠に違いないと自分に言い聞かせようにも、そんな可能性が一度頭をよぎっただけで、私はさらに強い不安に襲われていた。

 いつもはバスが来る前に飲み干していたコーヒーも全然残ってるし、寒くもないのに体は震えてるし、どうしちゃったんだろ、私。


 でも、私には何も出来ない。

 彼がこのバス停に姿を現さない限り、私は彼の無事を確認することが出来ない。


 だって、私は彼の家を知らないんだから。

 それに、彼がいつもどうやってこのバス停に来ているのか、通学路も知らない。

 ましてや、私は彼の連絡先すら知らないのだ。


 

 いや、どうして私がこんなに心配しないといけないの?

 私はアイツと、たまたま同じバス停で違うバスを待っているだけ。朝のほんの少しだけの時間、駄弁るだけ。

 名前も年齢も家も何も知らない人、つまり殆ど他人だ。そこら辺を行き交う人と同じ。なんなら、テレビに出てる有名人の方がもっと詳しいプロフィールわかるよ。


 そう、私が気にしたってしょうがないんだ。

 私と彼は、それぐらいの関係性でしかないんだから。

 今でも、そうだよね。



 そして、いつも通り定刻より少し遅れて彼が乗るはずのバスがバス停へやって来た。

 でも、今日は乗せる客がいない。バス停に私がいたからバスが停まっただけ。私が運転手さんに説明すると、バスはそのまま走り去っていった。


 はぁ、これじゃ私のとびっきりの変顔を見せる相手がいない。いや、昨日は気分転換に中指向けたんだっけ。もしかしてアイツ、中指向けられるのが弱点だったりするのかな。

 いや、何でアイツのこと考えてるんだろ、私。


 そして数分後、私が通う学校に向かうバスがやって来た。いつもどおり友達の岩川ちゃんが先に乗っていたから、私は彼女の隣に座る。


 「グッモ~ニ~ン、岩川ちゃん」

 「グッドモーニング、都さん」


 岩川ちゃんの姿を見て、どういうわけか安心した自分がいた。まぁ岩川ちゃんは遅刻したり風邪引いたら、私に連絡してくれるだろうけれど。

 私がそんなことを考えていると、岩川ちゃんは隣に座る私の顔を覗き込んできて言う。


 「都さん、今日具合悪いの?」

 「んぅ? どして?」

 「何だか顔色悪いよ?」

 

 そんなことないよ、と私は岩川ちゃんに言って、わざとらしく大きな欠伸をする。


 「もしかして夜ふかししちゃったの?」

 「うん、昨日寝たの九時半」

 「十分早いと思うけど……」


 そう、私は眠いだけ。

 そういうことにして、私は岩川ちゃんの肩を枕代わりにして眠るのであった。



 そして、アイツは一週間もの間、いつものバス停に姿を現さなかった。



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