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第20話



 「グッモ~ニ~ン」


 今日の朝も、私の挨拶で始まる。


 「グッモーニン」


 彼は読んでいた本を閉じ、私の方を向いて軽く挨拶を返してきた。夏らしい白シャツの制服を着た彼は、いつもの愛想のない笑顔を私に向けて、バス停でバスを待っていた。


 「まだまだ暑いね」

 「お前が雪女だったら良かったのにな」

 「君がヒエヒエの実の能力者だったら良かったのにね」

 「今頃海軍大将だっただろうな」

 「知らないの、もう海軍大将じゃないよあの人」

 「マジ?」


 この人のワ◯ピース知識、どこで止まってるんだろ。


 「まぁ残暑はおいといてさ、今日にでも地球に巨大隕石とか降ってこないかな」

 「話変わりすぎだろ。テストでもあるのか?」

 「私、このままだと月に帰らないといけないの」

 「お前エイリアンだったのか」

 「せめてかぐや姫って言ってほしかったなぁ」


 宇宙人って意味ではどっちも同じかもしれないけど、それぞれの言葉から想像されるイメージは正反対なんだよね。


 「そういうファンタジーな感じのお姫様って良いよね。かぐや姫とか織姫とか」

 「お前に姫って雰囲気は似合わないな」

 「じゃあ童話に例えるとどんな感じ?」

 「不思議の国のアリスの……」

 「お?」

 「トランプ兵」

 「ハートの女王ですらないんだ」


 ハートの女王に似てるねって言われても嬉しくないけどね。


 「お前は黙ってればアリスなんだがな」

 「喋ってても可愛いでしょ」

 「減らず口を叩かなければな」

 「なにをぉ」


 もっと素直になってくれたらいいんだけどね。いや、いざこの人が急に素直になったら、それはそれで気持ち悪いかもしれないけど。こんぐらいの関係が一番だね。


 「なんかあんなファンタジーな体験してみたくない?」

 「お菓子の家とかな」

 「君がそれに興味持ってるの、なんだか意外」

 「可愛い女の子がホイホイ引っかかりそうだからな」

 「嫌だね、お菓子の家から変態出てきたら」

 

 本当にそんな家があったら衛生状態は気になるけれど、引っかかりそうだね、私。自分の欲望に逆らえそうにないね。


 「昔、学芸会とか文化祭でよくやったよね、そういう劇。君って演技下手そうだよね」

 「なにをぉ」

 「可愛くない、やり直し」

 「なにをぉ♡」

 「気持ち悪い、二度とやるな」

 「渾身の演技だったんだがな」


 それを渾身の演技で堂々とやってのけるから怖いんだよ。


 「じゃあちょっと君の演技力を試させてもらうよ。君、浦島太郎に出てくるいじめられてるカメさんやって」

 「あいわかった」

 「私、カメさんをいじめてるガキンチョ役するから」

 「一体誰が俺を助けてくれるんだ?」

 「ヘイ、カメさん今一人?」

 「ビーチでナンパするのやめろ」

 

 ツッコミ役には向いてるかもね、この人。たまに信じられないようなボケもするけど。


 「はぁ。テスト前に急に不思議の国に入れたりしないかなぁ」

 「夢オチだろ」

 「でもさ、夢の中でくらい楽しいことがあってもいいと思わない?」

 「授業は真面目に受けるのが一番だ」

 「真面目過ぎる人はつまらないよ、適度にふざけてないと」

 「世界を楽しむのと現実逃避は別物だ」


 たまには真面目なこと言うんだね、この人。人格が五つぐらいあるのかな。


 そして、いつも通り定刻より少し遅れて彼が乗るバスがバス停へやって来た。私はいつものように、彼の背中をパンッと叩いて。


 「んじゃ、ハブアグッドデイ!」

 「ユートゥー」


 彼は私にそう返事して、いつもの一人がけの席に座った。そしてバスの中からチラッと私の方を見てきた彼に向かって、私はとびっきりの変顔を作ってみせた。

 はぁ、いつか夢の中にあの人が出てきて、笑ってくれたりしないかなぁ。


 そして数分後、私が通う学校に向かうバスがやって来た。いつもどおり友達の岩川ちゃんが先に乗っていたから、私は彼女の隣に座る。


 「グッモ~ニ~ン、岩川ちゃん」

 「グッドモーニング、都さん」

 「岩川ちゃんって、童話の登場人物に例えると白雪姫っぽいよね」

 「え、そう? そんなお姫様っぽいかなぁ」


 私のイメージの中の白雪姫、大分デ◯ズニーに引っ張られてるけどね。どうやったら岩川ちゃんみたいに上品でお嬢様みたいな雰囲気を出せるのかなぁ。アイツの言う通り黙ってれば良いのかなぁ。


 「そう言う都さんは、不思議の国のアリスの……」

 「お?」

 「トランプ兵みたいだね」

 「うそぉん」

 「冗談だよ、冗談」


 私とアイツの話、岩川ちゃんに聞かれてたりしないよね。

 


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