表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/96

第19話



 「グッモ~ニ~ン」


 今日の朝も、彼女の挨拶で始まる。


 「グッモーニン」


 俺は読んでいた本を閉じ、彼女の方を向いて挨拶を返す。見ると、今日もいつも通り、コンビニコーヒーを片手に、白いセーラー服姿のアイツが俺にピースサインを向けながら歩いてきていた。


 「なんかムラムラする」


 朝から何を言ってるんだコイツは。


 「そんな溜まってるのか?」

 「最近、自分の性欲がヤバい気がするんだよね」


 コイツの性欲のヤバさは、前からなんとなく片鱗は見えてた気がするんだがな。

 あと、よく異性相手にそんな話をベラベラと話せるものだ。


 「変なことをしでかすんじゃないぞ」

 「いやぁ、どうにか発散したいんだけど供給がヤバいんだよね。君はどう発散してるの?」

 「ドセクハラだな」


 性欲を発散する方法なんて限られているだろう。わざわざ人に聞かなくてもわかりきっていることだ。

 すると彼女は、何かを察したのか、俺をバカのするようにニヤニヤしながら言う。


 「あ、彼女もいない奴は自分で慰めるしかないよね」

 「確かに事実だが腹が立つ。お前もそうだろうが」

 「グスン……」

 

 どうやら致命傷だったようだ。コイツに一目惚れする奴はいても、多少知り合って本性がわかったら逃げていきそうだな。


 「でも君って男子の割には大人しめだよね」


 俺ってそんな大人しくしてたかね。自分で言うのもなんだが。


 「もしかしてセフレとかいるの?」

 「俺がそんな爛れた日常を送ってると思ってるのか?」

 「いや、普段は真面目な人が犯罪者になってるのも珍しくないじゃん。もし私が少年院とか刑務所に入ることになったら、その時は一緒に入ろうね」

 「酷い道連れだな。安心しろ、その時は俺が裁判官としてお前に然るべき死刑判決を下してやる」

 「死刑に然るべきも何もないと思うけどね」


 仮に裁判官や警察官になったとして、自分の昔の知り合いが罪を犯してそういう立場として久々に再会するのは御免被りたいものだ。


 「でもどうしよ。このままだと露出狂になってしまうかも」


 そういう方向性で性欲を発散するタイプだったのか、コイツ。


 「ねぇ、もしも私が露出狂になっちゃった時のためのシミュレーションしてみよ」

 「絶対必要のないシミュレーションだろ」

 「はぁ……はぁ……おにーさん、私、巨乳だと思う?」

 「どう見てもそれは無いな」

 「グスン……」

 「泣くぐらいなら自虐やめろよ」


 問いかけ方のフォーマットが口裂け女と変わらんのだが。

 あと一応、巨乳って言える程ではないが、小柄な割にはちゃんと女の子らしい体型だと思うがな。グラマラスという言葉からは程遠いが。


 「じゃあ逆に、君が露出狂になっちゃった時のシミュレーションやってみる?」

 「俺に一切の得がないのだが?」

 「まぁとりあえずボロンッと」

 「ボロンッ」

 「そのサイズ、ウケる」

 「なんかゾクゾクしてきた」

 「無敵だねこの人」


 俺は何があってもそういう道の外れ方はしたくないがな。

 それに隣に立っている奴の鼻息がなんとなく荒くなってきたような気がするが、大丈夫だろうか。


 「学校に辿り着きさえすれば、トイレでどうにか……」

 「お前トイレで済ませるつもりか」

 「へ? いつも学校のトイレでやってるよ?」

 

 コイツマジか。


 「お前、いつも学校で済ませてるのか……?」

 「へ? 君は家でやってるの?」

 「普通自分の部屋だろ。学校のトイレはありえない」

 「あと人気のない教室とか」

 

 ……段々と鼻息が荒くなってきた彼女から、俺はソソソと距離を置いた。

 

 「いや、どうして離れるの」

 「お前のことがちょっと怖くなった」

 「今更?」

 「確かにそうだな」


 俺は奴との距離を戻した。

 

 「いや、何だかゾクゾクするんだよね、背徳感で」

 「そういうスリルは心の内に秘めとけ。いつかは取り返しのつかない事態になるぞ」

 「君が手伝ってくれても良いんだよ?」

 「すまんが、もうすぐバスが来る」

 「ねぇ今日賢者モード?」


 流石に俺もそれぐらいの正気は常に保っていると思うんだがな。

 そしてようやく、俺が乗るバスがバス停へとやって来た。彼女はいつものように、俺の背中をパンッと叩いて。


 「んじゃ、ハブアグッドデイ!」

 「ユートゥー」


 俺はいつも通りバスの奥の方にある一人がけの席に座って、バスの中から彼女の方を見た。

 すると、今日はいつもと違って、彼女は俺に向かって投げキッスをしてきた。多分変顔よりかはそっちの方が俺には効くぞ。


 

 やがて俺の友人である新城と合流して、いつものように新城は俺の後ろの席から話しかけてくる。


 「なぁ永野。俺、今日めっちゃムラムラ止まらないんだけど」


 朝っぱらから何を言ってるんだコイツは。この街にはこういう奴しかいないのか。


 「俺に言われてもな。そういや、野球部の連中が部室にエロ本溜め込んでるって言ってたし、使わせてもらえよ」

 「いや、今度の体育祭のこと考えると、興奮で体の震えが止まらないんだ」

 「それはムラムラしてるんじゃなくて、ただの武者震いだろうが」


 はぁ、面倒だなぁ体育祭って。どうしてわざわざ暑い中、外で運動なんてしないといけないんだか。

 いや、わざわざ寒い冬の間もやりたくないな。要はなくなればいいってことだ、体育祭なんて。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ