第13話
「グッモ~ニ~ン」
今日の朝も、彼女の挨拶で始まる。
「グッモーニン」
俺は読んでいた本を閉じ、彼女の方を向いて挨拶を返す。見ると、今日もいつも通り、コンビニコーヒーを片手に、白いセーラー服姿のアイツが俺にピースサインを向けながら歩いてきていた。
今日も相変わらず雨が降っているから、彼女は青い傘を差してきていた。
「今日も雨ヤバいね」
「そうだな。お前の汚れた心を洗い流してくれたら良いのにな」
「朝からひどいこと言われたぁ」
彼女はプンプンと怒っていたが、俺はそんな彼女に、昨日借りた自然薯、じゃないじゃない、白い傘を返した。
「ありがとな、おかげで助かった」
「どもども。蕎麦には合った?」
「あぁ。これを見ながら食べる蕎麦は最高だった」
「イッツクレイジー」
傘を見ながら蕎麦を食べることで、俺の人生の新しい境地を見出だせたような気がする。
「今日はちゃんと合羽持ってるの?」
「あぁ。袋に入れてる」
「ていうかなんで合羽なの?」
「俺、自転車でここまで来てるから」
「そうだったんだ」
俺の家はこのバス停からちょっと距離があるから、毎朝自転車に乗ってバス停まで来ているのだ。近くにある簡易郵便局のおばさんのご厚意に甘えて、おばさんの家の軒先に自転車を置かせてもらっている。
というわけで、彼女は今日の分の傘と昨日俺に貸した分の傘、二本を持つ羽目になったわけだ。
「見て見て、二刀流」
「巌流島で決闘だな」
「いつかサイ・ヤング賞と三冠王両取りするから」
「そっちの二刀流だったか」
いつか本当に実現されそうな未来がありえなくないというのが恐ろしい。
「私もなんか二刀流できないかな。学生とアイドルの二足のわらじみたいな」
「歌は上手いのか?」
「何人か気絶する人が出てくる」
「酷いリサイタルだな。ダンスは?」
「どじょうすくいなら」
「ダンスが民族的過ぎるな。他に特技は?」
「かるた」
「お前が目指してる方向性はなんなんだ?」
「なにをぉ。いてもいいじゃん、かるた系アイドル」
もうとっくにいそうだけどな、かるたが上手いアイドル。見た目は十二分だと思うが、歌とダンスは本人の頑張りと伸びしろ次第としか言いようがないな。
コイツがアイドルにでもなってくれたら、俺も一つは自慢できるネタが増えるのだが。
「あ、何か会社を起こしたらさ、学生と社長っていう二刀流出来るんじゃないかな。ねぇ、一緒に何かの会社を起こそうよ」
「どんな事業をするんだ?」
「えっとね、マッチ売り」
「俺達はどんな世界観に生きているんだ?」
「じゃあライター売り?」
「とりあえず火から離れろ」
「かき氷売り?」
「水の方に行けって言ってるわけじゃない」
しかし、この暑い時期ならかき氷は売れるかもしれないな。マッチ売りよりかはよっぽど商売になるだろう。
まぁ、こんな田舎町でそんな商売が成り立つかは微妙な気がする。お祭りとかイベントがあるなら話は別だが。
「じゃあさ、かき氷に何か特徴持たせてさ、独自性で売っていこうよ。氷にシロップをかけて味付けするんじゃなくてさ、予めシロップとか果汁とかで味をつけたのを凍らせたら美味しいんじゃない?」
それ、殆どシャーベットだろ。
「車輪の再発明だな」
「なにをぉ」
「俺なら、まず店員にバニースーツを着せる」
「急にいかがわしくなってきた」
「勿論男もバニースーツだ」
「急に暑苦しくなってきた」
「そんな店員達の汗でかき氷を作ろう」
「それを氷にするんじゃなくて、シロップとしてかけた方が売れそうじゃない?」
「どうやらお前とはわかりあえないようだ……」
「そんな譲れないものあったの?」
そしてようやく、俺が乗るバスがバス停へとやって来た。彼女はいつものように、俺の背中をパンッと叩いて。
「んじゃ、ハブアグッドデイ!」
「ユートゥー」
俺はいつも通りバスの奥の方にある一人がけの席に座って、バスの中から彼女の方を見た。
今日も夏の暑さに負けない変顔だ。あんなガキンチョっぽい奴なのに、不思議と暑苦しさのない顔だ。
やがて俺の友人である新城と合流して、いつものように新城は俺の後ろの席から話しかけてくる。
「おい永野、高山の奴が今日かき氷機持ってくるってよ」
「学校に何を持ってきてるんだアイツは」
「んで境と野里がシロップ持ってくるらしいから、食堂で氷分けてもらったらかき氷パーティー出来るぞ」
ウチの学校の治安はどうなってるんだ。
「先生達にも食わせて共犯にするか」
「校長もきっと喜ぶぜ」
かき氷機とシロップを学校に持ってきてはいけないって校則には書いていないからな。とんだ屁理屈だが。
アイツにも食わせてやりたいなぁ。




