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第11話



 「グッモ~ニ~ン」


 今日の朝も、彼女の挨拶で始まる。


 「グッモーニン」


 俺は読んでいた本を閉じ、彼女の方を向いて挨拶を返す。見ると、今日もいつも通り、コンビニコーヒーを片手に、例のアイツが俺にピースサインを向けながら歩いてきていた。


 だが、今日の彼女はいつもと雰囲気が全然違う。その理由は明白だ。


 「じゃーん、衣替え~」


 いつもは黒いセーラー服を来ている彼女が、今日は白地に青いリボンの半袖のセーラー服を着ていたのだ。


 「間違えて漂白剤の風呂にでも入ったのか?」

 「脳みそまで真っ白になりそうなお風呂だね」

 「しかし、こんなにも雰囲気が変わるもんなんだな」

 「でしょでしょ~」

 「気色悪い芋虫が綺麗な蝶々になるぐらいのギャップと衝撃だ」

 「もっと良い例えなかった?」


 もう衣替えの季節だが、制服が変わるだけでこんなに季節感を感じるものか。色合いが黒から白に変わるだけで一気に清涼感を感じる。

 コイツがもう少しおしとやかだったなら、もっと上品さもあっただろうに。


 「でも、そういう君も衣替えしてんじゃん。良いよね男子って、上着脱ぐだけで良いから」

 「女子にシャツを貸せば彼シャツも出来上がるしな」

 「じゃあ交換でもしてみる?」

 「下着も全部な」

 「今日絆創膏しか貼ってないけど隠せる?」

 「隠せないサイズだな……」


 何だか夏を感じるな、こうも暑さで頭がおかしくなってくると。あと、サイズ的に彼女が俺の制服を着れたとしても、俺が彼女の制服を着ることは出来ないだろう。かなりひどい絵が完成すると思う。


 「でもさ、衣替えでちょっと涼しくなるのは良いけど、こうも白いと透けそうで怖いんだよね。透けてなぁい?」

 「絆創膏は見えないな」

 「良かった。もうすぐ梅雨時だしさ、雨とか降ったらもうスケスケだよ。骨まで見えちゃうかも」

 「あばら骨ってエロいよな」

 「ごめん、流石にそこまではわかんない」

 「残念だ」


 コイツの絆創膏の話がどこまで嘘なのか本当なのかさっぱりわからないが、コイツの服が透けて絆創膏でも見えてしまったら、多分俺は腰を抜かしてしまうと思う。


 「最近は年々暑くなってるんだしさ、いっそのこと夏服は水着ってことで良くない?」

 「その場合、男子は皆もれなく中腰で立つことになるが良いのか?」

 「面白いじゃん」

 「俺は面白くないがな」


 結局、寒さは着込めばどうにか対処できるが、暑さに関しては真っ裸になっても対処できないものだ。だから夏は全人類がコールドスリープして、冬にだけ活動すればいいと思う。こんな暑さの中、授業を受けたり仕事をしたりするのは、生き物として間違った行為だと俺は信じて疑わない。


 「いっそのことさ、夏の間は極点で授業をするってのはどうかな? 名案じゃない?」

 「辿り着く前に野垂れ死にそうだな」

 「でも、涼しい環境で授業を受けるために極点を目指すのも悪くないと思わない?」

 「アムンゼンとかは暑さから逃れるために極点を目指したわけじゃないと思うがな」

 「むぅ。否定ばっかりだと前に進めないよっ」

 「否定する人間がいないと、バカな理由で死ぬ人間が増えるだろ」

 「確かに、暑すぎて冷凍庫の中に入って凍死しちゃう人も出てくるかもしれないもんね」

 「お前みたいにな」

 「あれ? 私死んでたっけ?」


 俺は部活に所属しているわけでもないしアウトドアが好きなわけでもないから、夏休み期間中は家に引きこもるだけだろう。プールとか図書館に涼みに行くのも悪くないかもしれないが、行き帰りが暑いだろうから嫌だ。

 きっとコイツも冷房がガンガンに効いた部屋に閉じこもっていることだろう、俺の勝手なイメージだが。


 

 そしてようやく、俺が乗るバスがバス停へとやって来た。彼女はいつものように、俺の背中をパンッと叩いて。


 「んじゃ、ハブアグッドデイ!」

 「ユートゥー」


 俺はいつも通りバスの奥の方にある一人がけの席に座って、バスの中から彼女の方を見た。

 何かいつもと制服が違うというだけで新鮮な景色に感じる。まぁ、それでも彼女の変顔が面白くないことに変わりはない。


 

 やがて俺の友人である新城と合流して、いつものように新城は俺の後ろの席から話しかけてくる。


 「俺、高気圧を討伐するための旅に行ってくる」

 「そうか。頑張れよ」

 「永野もパーティーに入れたいんだけど、お前のジョブって何?」

 「プリズナー」

 「せめて脱獄囚であってくれ」

 「新城のジョブはなんだ? 高利貸しか?」

 「バーサーカーだ」

 「お前鯖だったのかよ」


 高気圧を懲らしめてやりたいと思う気持ちはわからなくもない。ぜひとも低気圧ちゃんには頑張ってもらいたいところだが、自然は人の手でどうにかなるものではない。


 「ハッ、もしかして太陽を討伐した方が早いか?」

 「地球上の生物滅亡待ったなしだな」

 「なんだよ、地球のためにはなるだろ」

 「かなり危険な思想を持ってるな、お前」

 「あぁ、地球のためにも人類は滅ぶべきだと思う。まずは手始めにあらゆるソシャゲからガチャという悪しき文明を滅ぼしてみせる」

 「ぜひとも頑張ってくれ」


 まさか俺の友人が地球のために全人類と戦おうとしている戦士だとは思わなかった。朝っぱらから絆創膏とか水着とか言ってるバカとは違うな。

 

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