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第10話



 「グッモ~ニ~ン」


 今日の朝も、私の挨拶で始まる。


 「グッモーニン」


 彼は読んでいた本を閉じ、私の方を向いて軽く挨拶を返してきた。紺色のブレザーの制服を着た彼は、いつもの愛想のない笑顔を私に向けて、バス停でバスを待っていた。


 「なぁ、無人島に何か一つだけ持っていけるなら、何を持っていく?」

 「どしたの急に」

 「いや、近々無人島に遭難する予定があるから対策しておきたいんだ」

 「予定があるってわかりきってるなら、そうならないように対策すれば?」


 どういう予定を組んだら無人島に遭難する羽目になるんだろう。

 それはそれとして、そういうのってよくある質問だよね。


 「私は家族の写真を持ってく」

 「なんでまた?」

 「毎日写真を見て、家族のことを思い出して、胸が張り裂けそうなぐらい悲しくなって、涙で砂浜を濡らすんだ……」

 「家族のためにも奮起してやれよ」


 フィクションの世界だと、故郷の家族や友人のことを思い出して奮起してピンチを脱する主人公もいたりするけれど、実際そんなに頑張る気になれるのかな。

 

 「ていうかお前、悲しいっていう感情持ってるんだな」

 「なにをぉ。そういう君は無人島に何を持って行くの?」

 「そりゃ一番気に入ってるビデオを持っていく」

 「再生できないと意味なくない?」

 「まだまだ青いな、お前は。こういうのはいかに自分の中で想像を働かせるかが大事なんだ……おい、なぜ俺から距離を置こうとする」

 

 朝から何を言ってるんだろうね、この人。しかもピッチピチの女子高生相手に。他人をネタにして妄想を働かせるのは、例え個人の自由だとしてもそれをおっぴろげに言うのは頭のネジぶっ飛んでると思うよ。

 ま、私が言えた口じゃないけどねっ。


 「じゃあさ、それって私の写真とかでもいけるってこと?」

 「……ないな」

 「何か腹立つ。何が不満なの?」

 「恥じらいがないこと」

 「なにをぉ。そういうのは雰囲気が大事だもん」

 「それなら作るしかあるまい。なぁ、とても綺麗な海だと思わないか?」


 何か急に猿芝居始まったんだけど。ショートコントの導入みたい。

 彼の目の前にはオーシャンビューがあるのかもしれないけど、私の目に見えるのは表面が荒れた道路と竹林だけなんだけどね。


 「夕日が沈みそうだね」

 「船であの夕日を追いかけてみないか?」

 「そういうバカなことするんだね、君も。良いよ、ついてってあげる」

 「じゃあここでダイスロールな」

 「いつの間にかクトゥルフ神話の世界に入ってた?」

 「俺達が乗っていた船は嵐に遭って難破し、無人島に漂着してしまった……」

 「お気に入りのビデオの出番じゃん」

 「海水に濡れてパッケージがボロボロだ……」

 「無人島対策の意味なんだったの?」


 確かに、嵐に遭って難破したのにそれが無事なわけないもんね。きっと私が持っていく予定の家族写真もきっとボロボロだよ。その時に備えてちゃんと防水加工しとかないとだね。


 「でも、無人島を探索したら、もしかしたら誰か人がいるかもしれない」

 「首狩族とか食人族ってパターンかも」

 「あ、バス来た」

 「おもっきし文明開化してるじゃん」

 「いや、俺が乗るバス」

 「あ、そっち?」


 見ると、彼が言う通り、いつも通り定刻より少し遅れて彼が乗るバスがバス停へやって来た。私はいつものように、彼の背中をパンッと叩いて。


 「んじゃ、ハブアグッドデイ!」

 「ユートゥー」


 彼は私にそう返事して、いつもの一人がけの席に座った。そしてバスの中からチラッと私の方を見てきた彼に向かって、私はとびっきりの変顔を作ってみせた。

 

 やーいどーてーい。


 心の中でそんな風に貶してみたけれど、やっぱり彼は笑わなかった。どうにか精神攻撃出来ないかな。


 そして数分後、私が通う学校に向かうバスがやって来た。いつもどおり友達の岩川ちゃんが先に乗っていたから、私は彼女の隣に座る。


 「グッモ~ニ~ン、岩川ちゃん」

 「グッドモーニング、都さん」


 岩川ちゃんを見て、私はふと思いつく。

 無人島に岩川ちゃんを連れて行くのもアリかも。岩川ちゃん、何でも器用にこなせるし、頭も良いし。


 「ねぇ岩川ちゃん。もし無人島に何か一つ持っていけるとしたら、何を持ってく?」

 「へ? 一つだけなら……都さんを持っていくかもね」

 「え、わ、私?」


 この返しは予想外だったね。なんだか嬉しいかも。


 「ちなみにどうして?」

 「まず都さんは可愛いです」

 「どもども」

 「おしゃべりにも困りません」

 「きっと暇な時間なんてないだろうね」

 「それに、都さんはピンチに陥ってもなんだかんだ助かるタイプだと思います」

 「お守り代わりだね」

 「あと、最悪の場合は食料に出来ます」

 「そうだね……え?」


 だ、誰かヘルプミー。



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