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第1話


『禁忌なる呪いの子よ!!我が教団が葬り去ってくれる』『やめ‥‥やめてくれ!俺は呪いになんて‥‥』

『ガハ‥‥ッ‥‥ありえ‥‥呪いに‥‥負け‥‥』『ち、ちがう、俺じゃ‥‥俺じゃない‥‥』


―――ッ!!!


俺は荒く息をついて起き上がった。

もう何度見た夢だろうか?最近は見る頻度も減っていたはずだ。


「クソッ‥‥」


近くにあった襤褸(ぼろ)布で軽く額の汗を拭いて起き上がる。日はまだ昇ったばかりだ。

夢のせいか体中から嫌な汗が噴き出している。肌着を脱いで絞ってみると、意外と量が出た。


「ふぅ‥‥」


体を適当に拭い水筒の水を一口飲む。そしていつも通り鍛錬の準備をする。

汗をかいてしまったので一度体を洗ってからにしよう。


「‥‥‥‥またか」


目を閉じ、気配を感じる。少し遠くで見張っている気配が2つ。どうやらまた野盗か何かが寄ってきたらしい。

ここら辺は野盗は少ないはずだが、最近は冒険者も近寄らない。だから狙い易いのかもしれない。


「はぁ、面倒だな」


さっさと嫌な汗に塗れたこの体を洗いたいが、十中八九そこを狙われるだろう。

今となっては数人の雑魚の対処くらい容易いが、奴らも大した物を持っている事は少ない。

鍛錬の相手にもならないし、さっさと諦めて帰ってくれないだろうか。


ザクッ


「よっ‥‥と」


見えやすいようにわざと剣を地面に突き立て、気配を背にしてその場に寝転がる。


目を閉じるとまたあの夢が脳裏に蘇る。あの光景は今でも忘れる事はない。忘れられるわけがない。

あれから何度も何度も自分を殺し、この力の限界を測ろうとしている。何度死んでも蘇る。そして何度でも自分の血肉を啜る。この力がどこまで強大なのかを知る為に。


「いつか‥‥俺は俺自身を殺すことができるんだろうか‥‥?」


俺はいつか必ず自分の命を自分で絶つ。その為に日々鍛錬をしている。

それだけが今の俺の生きる意味であり、目的なのだ。


「‥‥‥‥」


あの日は特になんでもない日だった。強いて言うなら俺の17の誕生日だったか。


17になったら冒険者協会に行って冒険者登録をする。男なら誰もが憧れる冒険者生活の幕開けだ。

特段自分の能力に期待してたわけじゃなかったが、鍛錬は欠かしたことはなかった。


だから、別に、期待の新人冒険者が来たぞとか、周りの熟練連中をザワつかせてやろう、とか。そんな邪な事を考えてたわけじゃない。

ちょっとだけ、受付の職員の驚く顔が見てみたかっただけだ。


登録石板に手を乗せて、少しだけ職員の顔を覗き見る。そこにあったのは確かに驚く顔‥‥というか引き攣ってた。


『あの‥‥クレインさん、大変言い辛いのですが』


あー‥‥思い出すだけで嫌な言葉だ。


『あなたの能力値は全て1です。スキルもありません。』


一瞬で周囲の温度が下がったように感じたのは幻想じゃないだろう。

()()()()()()1()。この言葉で周りの空気は一瞬で凍り付き、そして――盛大に爆発する。


『おいおい、冗談だろ?』『あれってクレインだよな』『まさか呪いか?』『そんな、あり得ないだろ』『実在したなんて‥‥』『呪い子め‥‥』『あいつ終わったな』『薬草集めしか受けれねえって!ギャハハハ!』『やめてやれよ‥‥クックックッ』


「‥‥ッ!!!」


周囲のありとあらゆる視線を一身に受けた俺は、耐えられなかった。耐えられるわけがない。

ギルド職員の静止する声も無視して俺は後ろも振り返らずに全力で逃げた。頭は真っ白だった。


脇目も振らずに全力で走って、走って、見ず知らずの森の中で、俺はその場に崩れ落ちた。

何もかも忘れて眠ってしまいたい衝動の中で、俺に残った僅かな理性が、この異常な状況への推理を始めた。


首元に手を当てる。痛みは殆どないが、まだ暖かさを感じた。


正直、心当たりは――ある。


昨日、少しだけ無茶をした。未踏のダンジョンに無登録状態でソロで潜った。


これは本来なら違反行為だ。ダンジョンの私物化は協会によって厳しい罰則がある。

一般市民が新たに発見した未登録のダンジョンは、速やかに協会へ通報しなくてはならない。


理由としちゃ「未知の危険がうんたら」「ダンジョン内の物資の独占は市場に悪影響うんたら」などつらつらあるが、まぁ要するに協会があらゆるダンジョンを手中に収めて管理したいってとこだろう。


でも俺は自分の鍛錬の成果を確かめたかった。あとは確かな成長の実感が欲しかったのかもしれない。

通報したら協会公認冒険者が来てダンジョンの調査をしてから、一般に開放されるが、それでは遅すぎる。

もし高難易度ダンジョンだったら、俺が挑戦できるのはずっとずっと後の話だ。その頃にはダンジョンの情報なんてきっと筒抜けだ。面白くない。


‥‥‥‥結果としちゃまぁ成功だった。やたら首の多いボスは手強かったし、なんか話に聞いてたダンジョンとは随分様子が違ったが、鍛錬の成果もあってかクリアできた。

ただボスを倒した後から首元がずっと焼けるように痛かった。しかも、ダンジョンは俺が出てきた直後、まるで最初からなかったみたいにすっかり入口が消えてしまっていたのだ。


明らかに異常な事態だ。こんなこと聞いたことも見たこともない。

無論、協会に通報すべきなんだろうが、通報した所で俺の違反行為へのペナルティは免れないだろうし、この現象を信じてくれるかも怪しい。


証拠が消えたからいいか、と投げやり気味に思考を隅へ追いやって、首の痛みが早く治ればいいなとか思って次の日を迎えた。


――そうしたらこんなことになった。


因果応報、と笑うべきか?


俺はあえて目を背けていた事実を確認する決意をした。

腰の短剣を抜き、軽く吹いてから服の襟をズラし、恐る恐る首元を反射させて映す。


汚い刀身じゃハッキリとは見えなかったが、そこには明らかに人為的な何かがあった。

痣とは違う、まるで焼印のような、何かが見えた。


協会の時とは違う汗が吹き出た。これが、()()か?

考えても無駄だ。冒険者になるアテもなくなった。明日から俺は笑い者だ。

今度こそ俺は思考を手放し、蹲るようにその場で眠った。


ざっ、ざっ、と草葉を踏み鳴らす音で目が醒める。

頭がぼんやりしている。

――何かがいる?人間?


起きようとした所で首元に冷たい感触があった。


『忌々しい呪い持ちめ、探したぞ』

「――ッ!?」


(しゃが)れた声が上から注がれる。明確な敵意を感じた。


『我が主は呪い子(のろいご)の断罪をお望みだ。安心しろ。慈悲深き主は死後許しを与えてくださるだろう。

反抗は無駄と知れ。2度目の逃亡は苦痛を伴うぞ』


こいつはなにを‥‥なにを言っているんだ?

俺は身動きのとれないまま、なんとか言葉を絞り出す。


「俺を‥‥殺すのか?」

『人聞きの悪い事を。殺すのではない、浄化と呼びたまえ。我が主は貴様の罪を浄化してくださるのだ』

「浄化?罪も呪いも、知らない‥‥俺には関係ない‥‥!」

『フン、呪い子は皆そう言うのだ。第一、貴様は逃げたではないか。呪い持ちであることを隠すために逃げたのだろう?』

「ち、ちがう‥‥あの時は何がなんだか‥‥うぐっ!」


首元の刃がより強く押し込まれる。


『貴様のこの首の紋様が全てを語っている!見苦しいわ!禁忌なる呪いの子よ!!我が教団が葬り去ってくれる』

「やめ‥‥やめてくれ!俺は呪いになんて‥‥」


すっと首の刃が離れる感触があった。


『ここで逝ね!呪いの子よ!!』


―――鮮血が舞い散る。俺の首元から。


---


ぱっ、と目を開ける。

2つの気配はなくなっていた。


「はは‥‥イカれ教団にこうも助けられるとはな」


剣をあえて目立つように地面に刺しておいたのには理由がある。

()()()()()()教団の剣。剣鍔にはデカデカと教団の紋章がついている。


俺は最近まで知る由もなかったが、この辺じゃ有名なカルト教団らしい。野盗は俺を教団員と勘違いして逃げたんだろう。咄嗟に考えた作戦にしちゃ悪くなかったみたいだ。

剣を鞘に戻して布で紋章が見えないように巻いておく。流石にこんな目立つ剣は普段使いできないな。


「‥‥まぁ、お陰でゆっくり水浴びができそうだ」


体を拭いた後で服を着る。さて次は鍛錬だ。

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