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3-5 許されぬ声

馬の鳴き声が聞こえたような気がして、藤緒は真夜中に目が覚めた。


(碧葉、帰ってきたのかしら・・・)


部屋の外に出るなり、なぜか村の女たちが集まっていた。手には思い思いの武器を手にしていた。農機具だったり、木を切るような斧だったり。


「どうされたのでしょうか」

藤緒は勤めて冷静に話しかける。この状況で武器を振り上げられたら、藤緒とてひとたまりもない。騒いで清雪たちを起こすことも考えたが、覚悟をやっと決めてくれた村の男たちを動揺させたくないという思いもまた、藤緒にはあった。


「あんたたちのせいで、男たちが危ない目に遭うそうじゃないか」

「これ以上病が広がったらどうするんだ」

女たちは口々に声をあげる。その声は低く、脅すような雰囲気があった。


「わたしたちはね。あいつらを早く殺せって言ってたんだ。なのに村長が祈祷すれば治るっていつまでも引き延ばして」

「そうだよ。あの女が産んだ呪われた赤子だって、私たちが殺してやったんだ。感謝してほしいぐらいさ」


(この人たちは、何を言っているの?赤子が呪われてる??しかもその子どもを殺した?)


「祠の女性が産んだ子どもを殺したと言うの!?」

藤緒は大声を出した。あの女性はただ病にかかっているにすぎない。生まれた子どもに罪はないはずなのに。


「どうした!?」

帯刀(たいとう)した清雪が、藤緒の声を聞きつけて飛び出してきた。藤緒が大声を出したのは清雪と知り合ってから初めてのことだから、本当に驚いたのだろう。声には動揺が混じっていた。


「あの女性たちが、あの祠に閉じ込められた発端者の産んだ子どもを殺したと言っていて・・・。治療すれば、彼女はまだしも夫は必ず治るのに・・・」

藤緒の目からは涙が溢れていた。命の重さと輝きを、父のそばで溢れるほど見てきた藤緒からしたら、彼女たちのしたことは許せることには思えなかったのだ。気づけば藤緒は泣いて膝から崩れ落ちていた。


「朔夜!こいつらを取り押さえろ!」

朔夜はすでに清雪の狙い通りに動いていたようだった。護衛を大勢引き連れて現れた朔夜に対し、清雪はすぐに命令する。いくら武器を持っていても、大勢の護衛の前で女性たちは非力であった。

朔夜は女たちを一つの建物に集めて監視をつけた。そして、自身は清雪の護衛に戻る。しかし、そんな朔夜でも目を背けたくなるほど、藤緒の様子は痛ましいものだった。


女たちの姿は、藤緒の涙にかき消されていた。

「いやーーーーーっ!!」

泣き叫ぶ藤緒を、清雪は抱き締めていた。ただ宥めるように、背中をさすっていた。


(どうして・・・どうして罪もない命が奪われるの・・・)

藤緒は、この村に平穏を取り戻したいと考えていた。しかし、女たちの訪問によって、藤緒の考えていた平穏など戻ってこないのだと、思い知らされた形となった。


『落ち着きなさい。どんな状況でも受け入れる強さというのは、藤緒自身にも必要なことだったのだよ』

頭の中でオルメカの声が響いていた。


「藤緒、落ち着け。俺がここにいてやるから、今は眠れ」

清雪の声は耳から入ってくる。そして包まれている温もりも藤緒は感じていた。呼吸が正常に戻ってくるとともに、藤緒は意識を失っていた。


眠りについた藤緒を、清雪は苦悩した顔で見つめていた。

この作品は現在、ファンタジーノベル大賞向けに改稿中です。

受賞後に改稿版を公開予定です。

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