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3-4 明日を選ぶ村

「村の男たちだけでいいので、外に出てきてもらえませんか?あと、この祠以外に人を閉じ込めることのできる場所はありませんか?」

藤緒は神職に尋ねた。藤緒のやろうとしていることには男手が必要だったからだ。朔夜たちがいるが、それだけで足りるかわからないし、村人たちは当事者なので、関わってもらった方が良いと思ったのだ。


『どれ、私から一言言っておこう』

オルメカが声をあげたのでひとつ引く。


「この出来事は、この村の宿命です。まずは受け入れないといけないのです」

藤緒は神職に向かってそう告げる。それでもまだ、神職は(うつむ)いて躊躇(ためら)っているようだった。


そこで、清雪が動いた。祠から離れた場所で、まず村の男たちを集めるという。こういうときに有無を言わせることのできない清雪の身分はありがたいものだなと藤緒は思う。


手分けして声をかけて回ると、村には思った以上に男たちが残っているようだった。これだけいれば、藤緒の考えている治療法も実行できそうだった。


しかし、ひとつ必要なものがある。

「碧葉、薬をとってきてほしいの。柴胡(さいこ)茯苓(ぶくりょう)釣藤鈎(しゃくとうこう)当帰(とうき)。可能であれば甘草(かんぞう)川芎(せんきゅう)も。お父様のところまで早馬で行ったらすぐに用意してくれるはずだわ」

「でもその間、藤緒さまのことは誰が守ればいいのです!」

碧葉がごねた。でも、医学のことは清雪がつれているものたちに任せるのは心許(こころもと)ないのだ。これは、藤緒にとっては碧葉以外には任せられないものだ。


(でも、碧葉の言うこともわかるわ・・・)


「碧葉、藤緒には誰も指一本触れさせない。俺が守る」

そこで碧葉の背中を押したのは、清雪だった。

「碧葉くん、僕も藤緒さんのことはこれまでの旅でよくわかっているつもりだ。任せてくれないか」

朔夜が言った。彼らに、自分を守るつもりがあることに藤緒は驚いたが、今は渡りに船だ。


碧葉はゆっくり二人に頭を下げると、朔夜が連れてきた一番疲れていないという馬に乗って駆け出して行った。ここから都まで往復して、一日あれば行けるだろうか。それを姿が見えなくなるまで見送ると、藤緒は動き出す。


(わたしは、わたしにできることをやれるだけやっておくだけ)


藤緒は一つの部屋に集まった村の男たちの前に立った。


「心の病は、身近な人間にうつることがあります。ただし、発端となった者以外は、発端となった者と離れることで治ります。あなた方には、その協力をお願いしたいのです」

藤緒は端的に説明する。身近な人間といえば、身近な人間でない彼らは引き離しに協力するかもしれない。


「発端となった女以外を祠から出し、空き家になっている家に隔離する。食事の世話などはこちらも手伝う。村のものたちもできることで協力してほしい」

清雪が続けた。藤緒の考えていることが理解できたようだ。清雪の言ったことはまさに藤緒がやって欲しかったことだった。女である藤緒が言うよりも、身分ある清雪が言った方が協力は得られやすいと、藤緒は思っている。


それでも村人たちは難色を示した。あの叫び声を聞き続けていたのだから当然だと、藤緒は感じる。

「あそこの父親には俺も世話になった。身近でないとは言い切れねえ」

「あの娘は家内の姪っ子なんだ。俺も身内に入るかもしんねえ」

口々に不安が出てくる。


村人たちは血縁が濃かった。山奥の村であればそれも仕方ないのだろうが、『身近でない』と言える者を探すのが難しかった。

日が暮れるころまで説得して、やっと協力者とその割り振りが決まった。


怖気(おじけ)づく必要はないわ。お父さまがいなくても、今の私ならできる・・・)


藤緒はそう思いながら外に出る。夕暮れの光は幻想的な雰囲気を作り出していた。大きく深呼吸をすると、不思議と明日も頑張れる、そんな気持ちになれた。


(発端者の娘だけは、薬が必要。碧葉、早く戻ってきて・・・)

清雪たちと共に神職の家に泊めてもらうことになったが、藤緒は別行動になっている碧葉に思いを馳せていた。

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