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3-2 閉じ込められた声

村まではまだかかると藤緒は聞いていたが、異常は全員気づく形で現れた。


「うぎゃーーーーー!!!」

「あーーーーーーー!!!」


人が絶叫する声が聞こえた。声の元は遠く離れているようにも思えたが、それにしては大きな声に思えた。藤緒は碧葉と目を見合わせる。


(命の危険を感じているような声・・・?)

藤緒は耳を澄ます。ただ、声の主は一人ではないようで、男女入り混じった叫び声がしているようだった。


「村まで急げ!」

清雪の声で馬車が速度を上げる。碧葉は座る位置を変えた。馬車に誰かが入り込んできても藤緒を守れるようにするためだ。その様子を見ながら、また藤緒は過去の父の言葉を思い出していた。


「人は心を病むことがある。気分が落ち込むこともあるし、この世に存在しないものが見えたり聞こえたりすることもある。そういう人たちは周囲への恐怖を覚えるんだ。そしてそれは、一緒に過ごしていくうちに周りの人に広がって行ったりもするんだ」

藤緒は、この間も父の言葉が現実になったのを目の当たりにした。今回もそうだというのだろうか。


藤緒が考え事をしている間に、馬車が止まった。叫び声はすぐそこから聞こえてくるようだ。森のざわめきが聞こえる。そして、カラスの鳴き声がまた聞こえた。


「清雪さま、私がまずは様子を見てまいります」

朔夜がそう言った。清雪はうなづく。


(まあ、立場上、清雪さまが率先して出ていくことはできないわね・・・。でも、わたしなら・・・)

藤緒はそう思いながらも、父の言葉を思い出したからには、自分ができることがあるのではないかと確信する。


「朔夜さん、わたしを連れて行ってください」

藤緒はそう言って立ち上がった。手箱(てばこ)は邪魔になるので、どうしようかと預けられる人を見回す。

「僕は今回は留守番はしません!藤緒さまが行くなら僕も行かないと!」

目が合うなり碧葉はそう言った。それを聞くと、藤緒は手箱を清雪に押し付ける。


「勝手に開けたりはしないでください。開けると道具が消えます」

「いや、それ以前にお前、本当に行くのか?」

清雪は驚きと戸惑いを隠せない顔をしていた。声がわずかに震えている。この声に、清雪は恐れているのだと藤緒は感じていた。


「これが病だとするならば、知識がある人間がいかないと正しい状況が把握できませんから」

藤緒は落ち着いていた。周りが慌てれば慌てるほど、藤緒は冷静になっていく。これは、診療所で向き合ったことのある患者たちの延長に過ぎないと思っていたからだ。にこやかに笑ってそういうと、碧葉とともに外に出た。


「まずはこの声の主を探さないといけませんね」

藤緒は周囲を見渡して耳を澄ませる。


『彼らはまとめて閉じ込められているようだな』

オルメカの声が聞こえた。そういえば、彼だけは懐に入れておいたのだった。

(人が住んでいる家だと閉じ込めるには向かないように思うわ・・・)


『何か助言は必要か?』

オルメカがいうが、藤緒は首を振る。

(ううん。アカンサスの情報で今はまだ十分よ)


「ここに、お寺や神社のお堂はありますか?あとは洞穴(ほらあな)とか」

藤緒は周りを見渡しながら朔夜に尋ねる。朔夜は顎に手を当てて考えていた。ここの地理には彼も詳しくないのだろうか、と藤緒は考えていた。


「古い(ほこら)があるはずです。それを元にできた村だったはずなので」

朔夜は周りを見回す。

(祠ということは・・・憑き物(つきもの)が出ているという判断をされているのかしら・・・?)

動物に憑かれたものは、神への祈りによって回復する、と一般的には言われている。祠というのは、閉じ込めやすいだけなのか、祈られているのか、藤緒は考えるが、何よりも体を動かす方が先だ。


(だから断末魔(だんまつま)のような声なのね・・・)


「あれではないですか?声もそちらから聞こえる気がします」

碧葉が木々に囲まれた建物を指差した。


(あれだわ!)

藤緒は駆け出す。朔夜と碧葉は慌てて藤緒の後を追って走り出した。その間もずっと、声は響き渡っていた。


村人たちは影も形も見えず、不気味な雰囲気だけが漂っていた。

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