第三章 封じられた村 3-1 異様な気配
「どうした?」
清雪は御者台を覗き込みながら言った。清雪もここで止まるのは予定外だったのだな、と藤緒は思う。
「それが・・・我々の行く道ではないのですが、湖のほうに抜ける山道が封鎖されていまして・・・道中の村で何かあったのかなと・・・」
御者台にいた男がそう告げる。都のそばにはこの国で一番大きな湖があるが、そこに抜ける道が封鎖されているという。
(兵士たちが並んで道を塞いでいるわ・・・)
藤緒も少し外の様子を観察していた。
『この先では、禍々しいことが起きているな』
『しかし、封鎖するほどのことではなかろう。大仰なことだ』
アカンサスとオルメカが藤緒に聞かせるように話をしていた。清雪が言い出せばいつでも占えるということなのだな、と藤緒は判断する。
「少し、行ってみてもいいか」
清雪が藤緒の方を見て言った。藤緒はうなづく。おそらく、自分が必要であることが感じられるからだ。
朔夜が兵士たちに話をしていた。ここを通るための交渉だろう。しかし、清雪の身分があればおそらく通れる。今までも全ての場所がそうだった。
「危険です!!大事な御身なので!!」
兵士たちが朔夜と揉めている。しかし、朔夜は粘り強く話をしていた。
(うつる病かしら??)
清雪の身を案じるということは、伝染病ということであろうか。伝染病もうつり方にはいろいろあり、それ相応の防ぎ方があるものもあることを藤緒は知っている。ただ、これは誰もが知る知識ではないであろうことも、藤緒は理解している。
「朔夜、それでも行くぞ」
清雪が馬車から身をのり出して声をかけた。兵士は清雪の声を聞いて黙り、後ろに下がった。
(しぶしぶって感じではあるけど・・・)
交渉というよりは清雪が無理に通ったという印象ではあったが、馬車は封鎖された道の方に動き出した。村までは、馬車だけで行けるのだろうか。
封鎖された道は、冷たい空気が漂っていた。木が影を作っているだけだとは思えなかった。遠くでカラスが鳴く声が耳について離れなかった。
「藤緒、何が待っていると思う?」
清雪が聞いた。占いをして欲しいという合図であると判断する。藤緒は手箱からアカンサスを取り出した。
カードを切りながら、アカンサスの声を聞く。
『今回は短期決戦になる』
カードを並べると、いくつか特徴的なことが見えてきたので、それを重点的に伝える。
「村は公正な判断によって封鎖されたようです。決着は長引かせることはできず、何らかの救済を与えることになるでしょう。高みの見物というわけにはいきませんが、心の奥底ではこれは何かの始まりに過ぎないと、今すでに感じているのではないでしょうか」
しかし藤緒は少し不思議にも思っていた。ところどころで「愛」だとか「始まり」だとかいうカードが見えるのだ。
(・・・もしかして、この旅のどこかで村のこととは違う、清雪さまに関係する何かが起こるのかもしれない)
藤緒は首を傾げるが、村のことでないとすればそこは置いておける、とも感じていた。
『藤緒は人の色恋は聡いのにね』
リリーの声が聞こえた。かといって出てきて話すつもりではないようだ。
「ふむ・・・救済を求める村か・・・。まあ、行けばわかる」
清雪はあっさりと言うと前を見据えていた。顔つきが出会ったころよりもしっかりしたように、藤緒には見えた。




