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第2章 終話

なんだか振り返ればよくわからない旅だった。

占いはして、結果を見れば当たっていたようにも思うが、それはただの結果論(けっかろん)だ、と藤緒は感じる。


(でも、海を見れたのは良かったかな)

海風を浴びた感覚を思い出す。あれは幸せな感覚だったなと藤緒は思った。


「そろそろ、一度家に帰るか?」

神社の社から出るときに、清雪が思わぬことを言った。当たり前のように、まだ家に帰してはもらえないと思ったのだ。


「よろしいのですか?」

清雪の別邸(べってい)らしきあの邸も、居心地が悪いわけではないが、金が稼げず父の手伝いもできないため不満が残っていたのは事実だ。


「一度、家族に顔を見せて安心させてやれ。多分また頼みたいことは出てくるだろうが、好きに過ごす時間も大事だろう」

藤緒は未婚女性であるし、清雪が既婚だろうが未婚だろうが体裁(ていさい)が悪いことに気づいてくれたんだろうか。


(いや、清雪さまに限ってそこまでは考えていないような気がするわ・・・)

そう思いつつ、自分の邸へと戻れる喜びに自然と笑みがこぼれる。父の診療所のみんなは元気にしているだろうか、と思わずにはいられない。しかし、いつ清雪が面倒ごとを持ち込んでくるかわからないのであれば、占いの仕事は控えた方がいいのか?など藤緒は考えていた。


「家にいるときはずっと占いをしているのか?」

清雪が聞いた。そういえば今までは聞かれたことがなかったが、興味がないのだと藤緒は思っていた。


(そんなこと、なんで今更聞くんだろう・・・)

頭に疑問は湧くが、当たり障りなく(あたりさわりなく)答える。

「占いは売り上げを家計に入れておりましたので。あと、父が街に診療所を構えていまして、宮仕(みやづか)えのあとや休みの日などはそちらで民を診療しています。その手伝いもしております」


「ああ、だから食中毒の時に手慣れていたのか・・・」

清雪は小声でそういうと、納得したようにうなづいていた。清雪は藤緒の目の前に現れたとき、藤緒のことは全て調べていると思っていた。しかし、どうやらそうでもなかったようだ。


「未婚女性がよく知りもしない男性の邸に居続けるなどどうかしています」

藤緒はつい口調が強くなったようだ。清雪が(うちぎ)を引き寄せる。

「では、契りを交わすか?」

清雪は子どものように笑い、藤緒はこれでもかというほど顔が赤くなる。こんな冗談をいう人間だとは思っていなかった。


「安心しろ、私は未婚で恋人はいない。結婚しろと言われる相手くらいはいるがその気はない」

「それは、わたしには関係のないことです」

清雪の言葉に、藤緒は即答する。


「この国は今、決して平和とはいいがたい。食中毒の件と言い、阿毘達磨の件と言い。おそらくもっとたくさんの火種が眠っていることであろう。だから、また連れに行くと思うが許してくれ」

最後は殊勝(しゅしょう)な態度で締めくくられた。この国は平和だと信じてやまなかった藤緒は、阿毘達磨の信者たちを見たあとではそれも真実かもしれないと思うようになっていた。


(どこまで付き合わせる気かしら?)

できれば両親が生きているうちは親孝行がしたいなあと、ぼんやり思う。兄が家の主導権を握るようになっては、藤緒は追い出されてしまうかもしれない。


これから先、いつ再開されるかわからない旅ではあるが、どうせなら楽しくいかなければ旅は面白くない。海を渡りながら思ったことだった。これから先もそうしよう。


藤緒がそう決意を固めていると、乗っていた馬車が急に止まったのだった。その静けさの中に、何かただならぬ気配が混じっていることに、藤緒はまだ気づいていなかった。

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