第1章 終話
何とも後味の悪い事件だった、と藤緒は思った。
犯人にも同情の余地があり、でも被害者にも罪はない。世の中そんなことばかりなのかもしれないが、藤緒にはけだるさだけが残った。
しかし、鵜野の家の当主が清雪を見て怒鳴るのをやめたのはどういうわけだろう。当主ともなればそれなりの地位に違いないと藤緒は思うのだが、それよりも位が高い人間ということか。まあいい、そんなことよりも有意義なことを考えよう。事件が終わったということは家に帰れるということだ。
しかし、藤緒の読みは甘かったといえる。
「もうしばらくお前はここにいろ」
帰って清雪に誘われて酒を飲んでいると、突然そう言われた。
(なぜ?)
藤緒の頭には疑問しか浮かばない。この事件のためにここにいたのではないのか。清雪が何をもってそんなことを言っているのかわからない。
「事件は終わりましたので、清雪さまにとって私は用済みだと思うのですが」
藤緒はつとめて冷静に話す。元の平坦な生活が遠ざかっていくのを感じる。
「まだ手伝って欲しいことがある」
清雪はそう言った。そして、小さい声でこう呟いた。
「それに・・・・・・だろ」
あまりに小さい声すぎて途中は聞き取れなかったが気にしないことにした。
すでに両親の許可はとったと清雪は言う。父も母もなにをもってそれを了承したのかはわからない。
「納得はできませんが」
藤緒はそういうと杯の酒を飲み干し、部屋に戻った。その日の晩は寝られなかった。




