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モグリ設計~霊障地上げと古代文明と~  作者: そのえもん


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21/21

エピローグと

 純が自宅に戻ったのは、それからおよそ一週間後の事である。

 半径十数キロ内の人間が同時に意識を失い、その間にF市で大規模戦闘が起きた。この大事件を秘密裏に収束させるための裏工作の一環として、しばらくの間クニツカミの保護下……という名の軟禁状態にあったのだ。

『カバーストーリーってやつかね。本当にあるんだな』

 電話の向こうで明が、能天気に喋っている。こいつは純よりも数日はやく解放されていたため、色々と情報を耳にしていたらしい。

「そうだな、びっくりしたよ。SCP財団みたいだ」

『いやいや。何言ってんすか純さんよ。ああいうのは、そういう動きをモチーフに作ってんだろ、逆だ』

 夏日室に戻ると、本当に全てが綺麗に片付いていた。あれらの出来事は『安全対策を怠った悪徳ゼネコンによる有毒ガスの噴出』として片付けられ、世間からは『大規模だがあり得なくはない事故』として扱われていた。

『ワイドショー見てみ?話題は『事故を防げなかったゼネコンは悪徳ブラック企業だった』って方向で面白おかしくイジッてらぁ』

 カラカラと笑う明に対して、純の顔はゲンナリしている。

「ワイドショー?芸人崩れが時事ネタで偉そうに抜かす、低俗な昼のバラエティなんか見てんのかよ」

『それがいいんじゃねえか、バカが偉そうに喋ってると、それを見た同程度のバカが自分も偉い、自分も正しいと思い込むんだ。

 特にああいう番組は、高学歴のエリートアナウンサーとかがヨイショしまくってくれるからな。

 そうするとな、ついでにそのバカの意見に引っ張られるんだよ人間。元々興味の薄い話題なんか、都合良く誘導できるのさ。バカを誘導するのはバカが一番向いてるからな。バカとハサミは使いようなのさ』

「怖っ、どんだけ歪んだ視点でテレビ見てんだよ明は……」

 うんざりとした口調で洗面所へ向かい、シャツを洗濯機に放り込み、顔を洗った。ひげも伸びているが……今日はもう外出しないだろう。

「じゃあなにか?K社はワイドショーで面白おかしく叩かれて……それでおしまいか?」

『まさか。水面下でクニツカミが動いてたよ。聞いた話じゃ社員は全員拘束、幹部連中は始末されたってよ。

 記者会見してる社長は替え玉さ、埼玉の田舎ゼネコンの社長の顔なんて、誰も知らねえからな。

 世間的にはこの後、信用を失って倒産、ってとこに落ち着くんじゃねえの?』

「うわ、怖っ」

 どうにも気分がすっきりしない。せめてもの抵抗で歯を磨いてみることにした。

『一回叩きのめされてんのに、それでもまだ悪だくみしてた連中だからな……元々日向の法律じゃ裁けねえ。闇から闇へ、お似合いの顛末さ。なに、元は教団信者がやってた不動産屋だ、一時でも成り上がって、そのあと教団と心中出来りゃ本望だろうさ。

 よかったな、お前のやらかしは気付かれてねえぞ』

「は?なにそれ、どういう事?」

 風呂に入りたいくらいであったが、気力も体力も限界が近い。顔を洗うのがせいぜいだ。

『解放されてから調べたんだが……歴史上からオロチの一味という言葉が消えた』

「……は?メミコがいて、千絵もいるじゃないか」

『そうじゃない。紀元前一世紀ごろ関東にいた謎の縄文人の一族は『オロチの一味』とかいう悪党から『ミツボシノヒメミコとその一族』先住民族に表記が変わってる。

 あの昔話も、ただ単に悪いやつが退治された『オロチの砦』じゃない。今は『ミツボシの砦』に変わってる。元々マイナーな昔話だから、なんの影響もないけどな』

「マジかよ……ミツボシノヒメミコ……」

 かつてアクルイ達がヒメミコを指した『サムチルカヒメミコ』は、現代語に直すと意味合い的には『三ツ星の姫巫女』である。額に第三の目を持つ彼女を称える呼び名である。

『お前らが無茶して講和にこぎつけたもんだから……歴史が少しだけ変わったみたいだな。

 ヒメミコの一族は、ただの野蛮人から、独自の高度な文明を持った人達になった……なんだろうね、最初からそうだった事になった、が正しいのかね?流石のクニツカミも、そこには気付けなかったか、お目こぼしか……まあ、どっちでもいいや』

「うーわ、すげえや。ドラえもんならタイムパトロール案件じゃね?」

『そうでもねえだろ、本筋はなんにも変わってねえから。のび太の嫁さんが変わるより、ずぅっとささやかな話さ』

 洗顔を終え台所へ。パックご飯を電子レンジへ放り込み、冷蔵庫を開けて……今日は珍しく飲みたい気分だと缶チューハイを取り出した。グレフルである。

「……ん?」

『どした』

「すまん明、かけなおす」

 電話を切って再び冷蔵庫を開ける。中身は缶チューハイと卵と牛乳に調味料。一人暮らしの男としては割と平凡な内容である。

「ないな……」

 そうだ、何となく買い込んでしまっていた桃が、一つもない。

 叩きつけるように冷蔵庫を閉じると、完成を知らせる電子レンジに目もくれずにリビングへ駆け込む。

「おう、遅かったのぅ。話し相手は明か?あいつ本当野暮じゃな」

 リビングには、寝転がった姿勢のままふよふよと宙に漂い、桃をかじるメミコの姿があった。

「あ、桃が傷みそうだったからもらっておいたぞ。……ギリギリじゃった。果物は腐りかけが一番美味いとか言うやつおるじゃろ、あれ絶対限度あると思わんか?」

「メミコ……お前戻ってきたなら言えよ……消えちまったかと思って……」

 それ以上言葉が出なかった、安堵と、驚きと、もう自分でもなんだか判らない感情に胸がいっぱいだった。

『大袈裟じゃ……少し眠るだけじゃと言ったろうに」

 照れくさそうに目線を逸らせるメミコである。

「二千年眠れるやつの少しなんて……アテになるか」

 純の切り返しに、メミコは意地悪く笑ってみせた。

「そんなに寂しかったのか?」

「……悪いか」

「いいや……ちょっと待たせたか、許せ」

 なんだかどっと力が抜けた。疲れが一気に吹き出した純は、ソファにどっかと横たわった。

「ん?」

 頭の下が柔らかく温かい。身に覚えのない温かさと、ハリのある弾力が心地よく……草むらで寝ころんだような、僅かに青臭くも心地よい森の香りがする。何だこれはと撫でていると、頭のすぐ上からメミコの声がした。

「あんまり撫で回すな、こそばゆい」

 どうやら自分は、いつの間にメミコの膝を借りていたようだった。いつだったかは冗談と聞き流していた場所であるが……思った以上に心地よく……なんとも心が安らぐ。

「ありがたく思えよ。ヒメミコの頃も含めて……わぁが膝を貸した相手は、純が初めてじゃ」

「そりゃ光栄だ」

 森林浴を思わせる清々しい香気の中に、微かに混じる甘く蠱惑的な香りは、吸うごとに純を深い眠りへと誘っていく。

 あわや眠りに落ちる寸前。純は一つの疑問が浮かび上がった。

「なあ、メミコ……お前の本当の名前は……なんなんだ?」

「何?アクルイが知っていたろう、サムチルカーー」

「そっちじゃない。それは、アクルイたちがお前を称えて呼んだ名前だろう?なんていうか、役職名みたいなもんじゃないか。そうじゃなくて、ヒメミコと呼ばれる……それより前の名前さ」

「……その名を知るものは、二千年前……アクルイの時代にはもう、おらぬ」

「俺じゃ……知るのに相応しくないのか?」

 半分夢の中に落ちかけている純の言葉に、メミコはしばらく逡巡する様子であったが、やがて微笑んだ。

「……誰にも言うなよ」

 そして、優しく耳打ちする。純にしか聞こえぬ声で。

「そうか……ありがとう」

 そして純は、微睡みの中へ落ちていった。


   

             完


あとがきと


 この作品はフィクションです。実在の人物、団体、出来事などとは一切関係ありません。また、作者に特定の団体や出来事、思想を批判、あるいは支持する意図は一切ございません。エンターテイメントとそれを盛り上げるフレーバーテキストでございます。


 というわけで、モグリ建築設計・古代女王と霊障地上げ、完結でございます。お楽しみいただければ幸いです。

 前作の偽りの火の鳥・幕末編とはガラッと変えた完全オリジナルと呼んでいい作品になったかと思っております。

 私のような単純な人間にとっては、緻密なストーリーテリングというのは骨の折れる内容でございます。私にしては複雑にしたんですが、お楽しみいただけましたでしょうか。

 普段ほんだししか使ってねえやつがいきなり鰹節と昆布でしっかり出汁をとったくらいの複雑さになってたらいいな!

 どうなんでしょうね、これ以上何書いたら良いのでしょうか。オリジナルキャラだけど主人公たちの振り返りとかあった方がいいんでしょうか。


 偏屈設計屋 喪栗純

 キャラクターの原型は、私が十年以上前に書いた習作の主人公です。その時は半魚人の少女と一緒に古代文明の形跡を探していたら民族対立の武力衝突に巻き込まれた学芸員でした。そこから色々変遷を経てこうなりました。

 実は私の前職は建築関係でして、設計士はその憧れでごさいました。残念ながら設計士は横目で見ているだけだったので、建築士の描写はフワッフワになっておりますが、ご容赦下さい。

 そこらのなろうワールドなら縄文時代で無双したでしょう、鉄作って、戦車作って、コンクリでマジの要塞作って……ですがウチはそうもいきません。そもそも私がなろう系への理解が低いので、少しハードめの解釈と、その時代の人たちへのリスペクトを混ぜ込んでみました。


 ヒロイン兼主砲 メミコ

 こちらも原型は十年以上前の作者の習作です。その時は現代に転生した古代女王が、男女の双子に記憶を引き継いだ姉、力を引き継いた弟、と分離してしまい……という話でした。

 色々あってこの形に落ち着きました。一人称と言葉に苦労しました。キャラ的には妾なんですけどね。わらわって響きは可愛いけど、漢字にすると「妾」なんですよ。調べてみたら……まあ、ちょっと私が求めているものとは違うかな……ってなりました。

 もちろんヒメミコの一族はフィクションです。当時の関東に謎の一族がいてもおかしくはないだろうとねじ込みました。当時私が住んでいた町にも、小さな古墳がいくつかありました。とても古墳には見えなくてがっかりしたものですが、イメージの元にはなりました。

 文献がない時代の人物の名前や言葉をどうやって文書にするか、大変苦労した一族でした。サバ折かましたり子孫と知らずに人を食おうとしたり無茶苦茶な奴ですが、魅力的に書けていたら幸いです。

 色んな縄文、弥生の聞きかじり知識がごちゃ混ぜになっています、ガチ勢の皆さまどうかマジの考察はご容赦ください。


 ヒロインかと思った?残念!ギャルゲの親友ポジでした! 塚荒明

 明の原型はまた別の習作、継ぎ合わせの屍人形になった高校生が、西洋の似て非なるフランケンシュタインの怪物と死闘を繰り広げる話……で、屍人形を作る師匠枠の変人で奇人で悪人、墓荒明という今よりひどい名前のキャラクターでした。

 一番変遷が少ないのかな?少ない変遷でバケモノになれる当たり、最初から人間としてかなりイッてるキャラ造形なのかもしれません。

 最終決戦でもう少し暴れる予定だったんですが、クニツカミの航空打撃部隊と降下作戦のところに、多少新しいアイテム持ち出したところでどうなのよ……と思いカットいました。ハッタリと駆け引きが上手いのであって、実力そのものはそんなに強い設定ではありません。


 ツンデレJK書けなかったよ 千絵

 キャラクター原型はメミコの原型がいた作品に出てくる拝み屋その2くらいのキャラ、式紙使いの女性警察官でした。今回に当たって当初はツンデレJKにしようと思ってたんですが、私のツンデレに対する認識の甘さから、早い段階で無理になりました。そこで気づいたんです「あ、俺別にそんなにツンデレ好きじゃねえんだな」って。で、あんな感じの、ずっと切れてるキャラなりました。ラストで純達の日常に入り込む予定だったんですが、割り込む隙がなくてカットしました。メミコが野暮だと言いそうでしたし。


 そんなところでしょうか。ぼちぼち切り上げるとしましょうか、長いあとがき書くならいっそエッセイ書けよって話です。残念ながら私はあまりエッセイの楽しみ方がわかりません、そんな人間に面白いエッセイは書けないでしょう。

 それでは、また次作でお会い……え?「メミコの本当の名前は何だ?」ですか?

 それは私も存じ上げません。だって彼女は、純にしか教えていないのですから。


あとがき 完


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