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十四話  お茶会


「オロチ様、ちょっと手持ち無沙汰だよね」


 近頃、シダクサは暇をもてあましている。というのも、城の滞在も結構な日数になったのだ。

彼女の仕事はレアに実験の手引書を書いて渡すだけだ。頭のよいレアは事細かに教えてやら無くても、実験の手順だけ示せば考察まで勝手に出せてしまう。出る幕のないシダクサにとっては少し退屈なことだ。



 ミーナは強くなりたいということで魔法剣術を学んでいる。レオンが副団長を務める騎士団は剣と魔法を組み合わせて戦う超エリートの集団である。彼女はそこでの稽古を特別に許可された。


魔法の才能を与えていたうえに、田舎育ちでそれなりに力もあるということで騎士たちも驚く成長をみせているという。


因みにレオンやレアもシダクサやオロチの恩恵を受けているため、レオンは目が異常に良くなったし、レアは頭脳に磨きが掛かった。



とまぁ、知り合いが居ないもんで、シダクサとオロチは二人だけでだらだらと過ごすことが多くなった。



『何、昔を思い出せばまだいいものだ。霊体の頃は食事の楽しみも睡眠も何も無かったからな。三食出るだけ有意義というものだ』

「でも、一回贅沢しちゃうと元に戻れないように、ね?」

『気持ちはわからなくもないがな。どれ、ミーナの様子でも見に行くとするか』

「そだね」



   

   †




 ミーナは相変わらず訓練に精をだしているようだ。騎士の訓練風景というのは、鬼気迫るものがある。なにも男性だけではなく、女性の騎士もいるのだが、皆一様に顔が怖いとシダクサは言う。


 騎士は魔法で体力を底上げしたり、武装を強化したり、直接魔法を射出したりして攻撃をしている。剣や槍も魔法で強化すれば刃引きしているかどうかなど関係ないため、皆通常の武器を使用している。もちろん当たれば死に繋がる。実際に訓練で命を落とす騎士もいると言っていた。

 


 ミーナはそんな中で一人の騎士と対峙していた。彼女の今の服装は、騎士たちと同じ鎧である。流石に服で訓練などできたものではない。


「剣が立っているぞ!」

 ミーナの相手をしている騎士が指導を入れる。このときも両者の攻防は止まない。

「はい!」

 ミーナは最初こそ殺されないように必死だったが、今は殺さないかという心配をできるようになっていた。


「いきます!」

「応!」


 大技を出すときは合図を入れる決まりだ。不意打ちだと互いにいくつ命があっても足りない。


「やぁあ!」

 ミーナがレイピアを腰の位置で溜めてから、真っ直ぐ突き出した。その剣には風が纏われており、大きな破壊力を秘めている。


「ぐっ!」


 相手の騎士は大剣を身体の正面に持ってきてミーナの細剣を受けたが、大剣が砕け散った。ミーナはすぐさま騎士の喉下にレイピアを突きつけようとする。


「甘い!」

 

 騎士は無くなった剣を炎で再現して振るった。炎は剣では受けることが出来ないため、ミーナは後退を余儀なくされる。騎士はそのままミーナへ突撃し、ミーナは強風で剣を揺らがせようとする。しかし彼女は射出系の魔法と相性が悪いのか、騎士の身体を一瞬留めさせる程度にとどまり、炎を消し去るなんて芸当はできなかった。


 それから剣の触れ合わない斬り合いが始まり、やがてミーナは炎の大剣を突きつけられて降参した。




「最後の射出は拙かったな」


 互いに剣を納めると、相手の騎士が試合の様子からミーナにアドバイスをしはじめた。ミーナは剣の威力増加や、防壁などの手元で扱う魔法の扱いに長けている。射出系などの離れたところでの魔法はどうにも苦手らしい。

 

 シダクサの見解としては、レアとレオンにも恩恵が与えられたため、ミーナの取り分が減ったというものだ。今後、使えたものが使えなくなることは無いだろうが、伸びなくなることは予想される。ミーナが一番最初に覚えた射出魔法だが、それはすでに成長が止まってしまったようだ。


「最後に射出でなく、壁を作りつつ突きの用意されていれば俺が危なかった。しかしさっきの射出だと壁に比べ時間稼ぎの効果が薄い上に、一瞬の足止めも上手く利用できていなかった」

「なるほど」


 ミーナはこうして毎日毎日、戦闘の指導を受けている。シダクサは恩恵が薄くなっていくことをミーナに話したため、今のうちにと彼女は意気込んでいるのだ。その努力のおかげで、彼女は今や駆け出し騎士くらいの腕になっている。



「ありがとう御座いました」

「こちらこそ」



「ふぅ……し、シダクサ様、見てたんですか?」

 試合が終わって周囲を見渡せるようになったミーナは、シダクサの姿を見て慌てて言った。

「途中からね」

「うぅ……」

 ミーナは恥ずかしそうに俯いた。

「いいじゃない、これで勝てたら騎士の方は商売上がったりよ」

 相手はプロなんだから、と慰めるシダクサ。


「ミーナはこのあと空いてる?」

 ところで、とシダクサが切り出した。

「ええ、何かあるんですか?」

「王子様や王女さま総勢五名から、お茶のお誘いを受けちゃった」

「……しかし、私がついていっていいものでしょうか」

「オロチ様連れて行けないから、心細いんだもん」

「はぁ」


 結局、シダクサがミーナをオロチの発見者として紹介するという作戦のもと、彼女の同席が決まった。



  

 


  †





 春だと中庭で行われるお茶会だが、秋になるとガラス張りの温室内で行われる。温室内には季節に合わない花が咲いており、シダクサは小さく感嘆した。

「気に入ってくれたかな?」

 入室したシダクサの様子を見て、先に席についていた三人の王子の一人が言った。彼はシダクサとは初対面だ。彼が長男だろうか、とシダクサは当たりをつけた。

「はい、驚きました。まだ花を咲かせているなんて」

 シダクサは素直に答えた。

「あれ、後ろの女性ひとは誰?」

 王女の一人が疑問を浮かべた。王女は二人いて、今発言した王女はシダクサより下の年齢に見えるきょうだいの末っ子だ。

「これは失礼いたしました、王女様。彼女は私の従者でして、例の薬を見つけだした張本人です。ミーナ」

「王女殿下・王子殿下、お目にかかれて光栄です。私はミーナと申します」

 シダクサは椅子に着いていたが、ミーナは彼女の後ろに控えたまま挨拶をした。


「いや、こちらこそ失礼をしました。椅子をもうひとつ持ってこさせよう」

 病気だった例の王子が言った。彼はシダクサより年上で、ミーナより年下といった感じだ。彼は王子の中では一番若い。

「いえ、私は従者の身ですので、このままで結構です」

「そう仰られるな。貴女も私の命の恩人なのだから」

 彼は笑顔を浮かべて言った。

「は……恐縮です」

 


 すぐに椅子が一つ加えられ、紅茶とお菓子が運ばれてきた。


「さてと、落ち着いたところで。自己紹介とでもいこうか」

 口を開いたのは長兄。

「私の名前はアーベル=……」

 

 ~中略~

 

 というわけでシダクサが助けた王子はフェルディナント=なんとか=タールベルクというらしい。タールベルクが家名で、この王国はそのままタールベルク王国という。


シダクサもシノブの名で名乗り、ミーナはもう一度改めて名乗った。


それから、王子王女全員から丁寧なお礼を受け取ったシダクサは恐縮したようなフリをしてみたり、好奇心旺盛な下の王女の質問の嵐に対してあることないこと吹き込んだりしてすごした。



「シノブ殿は育ちがよいのだな。本当に貴族ではないのか」

 シダクサのカップの持ち方や物腰から高貴さを感じ取った次男王子が言った。

「ええ、私は成り上がりに過ぎません。薬を多く扱っていたので薬師としての知識や、身を守る術としての魔獣使いの腕をもつだけの身です」

「では一つ提案がある。貴族になるつもりはないか?」

 長兄アーベルが口を開いた。

「貴族、ですか」

「そうだ。フェルを救ったという立派な功績もある。あとはシノブ殿の意思次第だ」

「折角ですが、お断りいたします」

 シダクサは静かな声で告げた。

「な、なぜですか!」

 シダクサが断るとは思ってもいなかった第一王女が、驚いたように尋ねる。


「私は自由に生きたいだけです。それに……国に私を待っている人がいるのです」

 貴族にした挙句に後宮住まい、というシナリオが書かれていると彼女は確信していた。なのでそれを含めてお断りしたのだ。


「……そうですか、残念です」 

 第一王子アーベルが微笑みを絶やさないで答えたが、内心は知れない。

「申し訳ありません。ああ、そろそろお暇しませんと、王様からのお呼び出しに遅れてしまいます」

「それはいけませんね、すぐにお行きください」

 第三王子フェルディナントがシダクサの退出を促した。シダクサはそれに従い、一礼をして温室を後にした。ミーナもシダクサの影のように部屋をでていく。





「気高く聡明な方ですね」

 シダクサらの姿が見えなくなってから、フェルディナント第三王子が口を開いた。彼はどこかがっかりとした様子だ。彼らが書いたシナリオでは、フェルディナントの婚約者候補としてシダクサが上がる予定だった。

「ああ」

「なんなのよ、あの子」

 第一王女はシダクサが気に喰わない様子だ。

「わざわざフェルの病気を治しにまで来て、それで王家に取り入る風でもないなんてね。逆に不気味だよな」

 これは次男の発言。

「私になんて一度目を合わせただけで興味をなくしたようだったわ」

 第一王女が憤慨して言った。

「それは俺もだ」

 第二王子は笑いながら言った。彼にとって女性にすぐ興味を無くされるなんてはじめての経験だった。

「僕もです、病床で会って以来……」

「あたしはよくわかんない。別に悪いひとじゃなさそうだったけど?」

「何が狙いなんだ?」


 目が見たかっただけだとは、誰も気づけまい。 

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