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絢子、名付ける。2

 また転移か? 今度はヴィンセントさんも連れての転移なのか? 異世界二つ目とかどれだけサービス良過ぎるの。そんなサービスいらねえわ!

 以上が、咄嗟に脳内に流れた私の叫びだ。

 けれどこれは、異世界転移と言ってもいいのだろうか。私とヴィンセントさんと謎の人の他に人の気配がないのはまあ許容範囲だ。でも、周囲はどこまでも真っ白なのだ。なにもない。床や地面の境界も、空や天井とかも、なにもないのだ。ただただ真っ白が広がっているだけの、空間。どちらかと言えば、異次元空間に引き込まれた感がある。

 ヴィンセントさんは流石は騎士様、謎の人物に剣を向けて構えている。私の前に立って、対峙してくれている。こういうわけわかんない状況でもちゃんと護衛してくれるのは、本当にありがたいしそれが騎士様なんだろう。心強過ぎて惚れてしまいそうだ。


「ストップ! 待って! 剣先向けるの、駄目! 怖いでしょうが!」

「貴様、何者だ。誰かに雇われたのか、それとも単独犯か。それにここはどこだ。答えろ」

「一気に質問しないで! ええと、わたしは神で、雇われとか単独かで言えば単独で、ここはわたしとお喋りできる空間です」

「ふざけているのか」

「失礼だな、大真面目だよ!」


 わー、愉快な人。そりゃヴィンセントさんも剣を向け続けるよね。

 謎の人改め愉快な人は、両手を腰に当ててプンプン怒っている。剣を向けられたままなのに余裕そうで、ヴィンセントさんの怒りが滲み出た。


「いい加減にしろ。俺と彼女を元の場所に戻せ。その後に貴様をみっちりと尋問してやる」

「そっちこそいい加減に剣を降ろしてよ。わたしは【聖女】と話がしたくてここに連れて来たんだ。【勇者】の君を呼ぶのはこの次だったのに、なんで一緒に来ちゃうかなぁ」


 愉快な人はそう言いながら、ヴィンセントさんの剣の先をチョンとつついた。すると剣がヴィンセントさんの手からすり抜け、腰の鞘に収納される。なんのマジックだ。ヴィンセントさんは驚きつつも再び剣を抜こうとしているけど、どうやっても抜けないみたいだ。だからなんのマジックなのだ。


「ヴィンセントさん、大丈夫です?」

「……多少の魔法と、体術も可能だ。安心と安全の約束はできんが、守り抜くから心配するな」


 騎士様はすごい。こういうのをされると、簡単にときめいてしまう。私も久し振りにドキドキしてしまった。

 宣言通り私を守るかのように拳を握って構えたヴィンセントさんと、迷惑そうな表情の愉快な人。相変らず余裕そうな愉快な人は、ヴィンセントさんに溜息を吐いてから私へと話し掛けて来た。


「ごめんねー。わたしが神だってことも、ここがわたしとお喋りできる空間ってことも理解してくれたってことで話を進めるよ」

「いいえ、なにも理解してませんけど……」

「理解してよ!」

「おい不審者。一歩でも動けば攻撃の意思とみなし、防衛のために力を行使する」

「あーもぉ君は物騒すぎるってば! 剣を封じたんだから大人しくしててよ!」


 愉快な人改め不審者さんはその場で地団駄を踏んでいるけれど、攻撃の意思判定はどうなのだろう。ヴィンセントさんは上体を少し低くしたけどそれ以上はなにもしないから、ギリセーフというところなのかもしれない。

 地団駄を踏んでもスッキリはしなかったらしい不審者さんは、両手で拳を作り、それを上下に振る。この不審者さん、すごく綺麗な人なのに動きがすごく子供だ。容姿と行動のギャップが激しい。


「とにかく! わたしは神なの! わたしが【聖女】をこの世界に招いたんだから、そこは理解してよね!」

「……は?」


 子供っぽいから、はいはいそうですねー、なんて適当に流したいところだけれど、発言内容がいただけない。いただけないのでヴィンセントさんの背後から不審者さんの方へと顔を出すと、ようやくわかってくれた、と言わんばかりのキラキラ満面の笑みの不審者さんを見ることになった。


「どういうことですか……?」

「アーヤをこの世界に招いた、神……」

「そうです、わたしがこれまでのすべての【星の渡り人】をこの世界に招いている、神です」


 にっこり、両手でピース。だから動きがいちいち子供なんだってば、この不審者さん改め、神様らしき人は。


「えーと、自分が聖女ってことを忘れてたんですけど、因みに選考基準は?」

「気になるところ、そこ? 今代の【星の渡り人】は面白いね~」


 だって私はアラフォーだから。どうしてこんなオバチャンが聖女にならなければならないのだ。

 ケラケラ笑う神様らしき人が、その場に胡坐をかいた。同時に、なにもなかった空間に絨毯とクッションとローテーブル、それからお茶のセットが突然現れる。宙を舞うティーポットがカップにお茶を注ぐと、神様らしき人の前は勿論、私とヴィンセントさんの方にもカチャリと小さな音を立ててカップが置かれた。


「こういうことできるのって、神っぽいでしょ」

「神っぽいとか言ってる時点で偽物ですね」

「ウチの最高位の魔導師ならできないこともない、かもしれない」

「わたしの扱いが酷いな、神なのに」


 神をアピールしながらも私とヴィンセントさんに座るように促してくるので、とりあえずこういう時はヴィンセントさんに確認するといいだろう。すごく悩んだヴィンセントさんが出した決断は、テーブルから少し離れたところに座る、だった。勿論、お茶を飲むのも駄目だ。神様らしき人は不満そうにしたけれど、私が一人でこの場にいたとしても同じ判断をする。


「まあ、いいけどね。ちゃんとお喋りできるようになったし。あ、そうそう。その最高位の魔導師って、君と一緒に魔竜を倒した英雄かな? だとしたら、もうすぐ魔力は減少しちゃうよ。教えてあげてね」


 私は思わずヴィンセントさんを見た。神様らしき人が話してる人はどう考えてもドウェインさんのことだからだ。ヴィンセントさんと共に英雄になったドウェインさんは、元々魔力が多くて強い力を持ってたけど魔竜討伐の頃に更に膨れ上がった、とティフ様に貰った物語には書いてあった。


「……そういうことは、そちらが直接伝えた方がいいのではないのか」


 無尽蔵にあるとドウェインさん本人が言っていた魔力がある日突然少なくなったら、その理由を絶対に知りたいと思うだろうし。研究が大好きな人だし、尚のこと。

 それなのに、神様らしき人は優雅にお茶を飲みながらもこんなことを言う。


「えー? 無理だよ。だって資格がないもん。わたしに会う資格」

「資格?」

「そう。君たちにはあるけど、あの英雄にはないんだよ。ってゆーかさ、英雄って安易に付けないで欲しいんだよね。【英雄】はわたしが選出するのに。そんなことより聞いて欲しいんだけど、わたしが蒔いた種が知らない内に大きな力を育むなんて、今までなかったんだよね。だから今回は大きく色々と変わっちゃって、予想外の【勇者】と選出外の【英雄】が脅威を防いじゃうし選出済みの【聖女】は必要な時にこの世界に招くことができないし、じゃあせめて予想外の【勇者】が幸せであればまあいっかー、可愛いお嫁さん貰ってハッピーエンドまっしぐら! ……って思ったのにいつまで経っても結婚しないしさぁ。はーもうダル過ぎじゃない? そういうわけで思い切って【聖女】を招いてみたんだけど、どう? 恋愛してる?」


 ペラペラペラペラとまるでマシンガンのように、お喋り好きのおばちゃんかよ、というくらい喋る。こういうタイプの人は、多分この世界には珍しいかもしれない。スーパー飯山ではよく遭遇したが、この世界では初めてだ。ヴィンセントさんは脳内処理が追い付いていないらしく明らかにポカーンとしているが、イケメンなお陰で間抜け面ではない。チクショウ。

 神様らしき人は、今度はお菓子を出現させてパクパク食べてはお茶を飲んで満足そうにしている。お菓子はカステラだろうか、たまに食べる程度でいいんだけど美味しいお菓子だ。紅茶じゃなくて牛乳と一緒に食べたい。ナンバーワン美味しい組み合わせである。

 ――ところでお気付きでしょうか、私、現実逃避しています。

 だって神様らしき人の言っていることがわかんないんだもん。蒔いた種とかなに、野菜でも作ってたの? 予想外の勇者とか選出外の英雄とかなんなの。必要な時に送れなかった聖女って私のことですか。もう必要ないなら呼ばなくてもよかったんじゃないんですか。それから可愛いお嫁さん貰ってハッピーエンドになるかはその人次第じゃないですかね。結婚がゴールとかないでしょ、寧ろスタートでしょ、経験ないけど。えーと、それからそれから……

 うーん、わからない。わかるのはただ一つ、私が恋愛してるかどうかを、ノーで返せる事実だけだ。


「取り敢えず……恋愛はしてませんね、私」

「え、なんで」

「なんでと言われましても、特に願望とかないですし」

「なんで?!」


 いやだから、なんでと言われても困る。それに、そんな絶叫するほどのことを返した覚えはないのだけれど。

 なんで、いやだ、とやっぱり子供みたいな駄々を捏ねだした神様らしき人は置いといて……だってどう対応するべきなの……処理落ちから復活したヴィンセントさんが、駄々っ子の神様らしき人に問い掛けた。


「さきほどの貴殿の話、何故【勇者】が出てくる。過去に【聖女】と【勇者】が同時にこの世界に招かれた記録はなかったはずだ」


 確か、この世界に脅威があると星の渡り人である聖女か勇者が神様によって招かれるはずだ。最初に王太子様やランドン宰相からも聞いたし、ドウェインさんからも改めて教えて貰った。だけど、そう。同時に招かれたこともある、とかは聞いていない。


「……うん。だから言ったよね、蒔いた種が知らない内に大きな力を育んだ、って。その影響だよ。そこの【聖女】の世界で言うところの……バグ? それが起きて、この世界で【勇者】が誕生しちゃったんだ。それが――君だよ、ヴィンセント・グレイアム」

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