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幽霊となったクラスの女子が、僕のパンツから這い出て来た  作者: 相沢 真琴
第四章 World War Ⅱ(第二次世界大戦)
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クローズド・サークル

人の血を吸いあげたような禍々しい太陽が、遠くの稜線に落ちてゆく。

闇は次第に濃くなり、すべてが夜の世界に飲み込まれる。


灯りをともす事は出来ない。

今年になって空襲は、夜間に行われる様になった。

それまでの『軍施設に攻撃目標を絞った昼間に行う ”精密爆撃” 』から、『民間人の住む市街地に夜間行う ”無差別爆撃” 』へと移行したのだ。


夜間行うのは、低高度爆撃をする様になったからである。ジェット気流の影響を受ける高高度爆撃では、エンジンへの負荷が大きく、燃料の消費が激しい。また爆撃の精度も著しく低下する。それを解消するには、爆撃高度を下げるのが有効である。だが高度を下げれば撃墜されるリスクが高くなる。その解決策として、夜間の爆撃が行われるようになった。


現在、灯火管制(とうかかんせい)が敷かれている。灯りを暗くし、外に漏れないように周りを覆っている。

夜間に襲来する敵機に、目的地や目標物を認識させない為だ。

みんな息を潜ませ、隠れるように夜を過ごしていた。



今日の空襲は、昼間に行われた。

恐らく攻撃対象が船舶だったので、認識し易い昼間が選ばれたのだろう。

だが今夜、空襲がないとは限らない。

こんな山の中で灯りが煌々と灯っていたら、いい目印だ。

俺たちは今夜、灯りをともさない事に決めた。




「ちょっと見廻りをしてきます」


街や港の様子を見る為に、そして危険が迫っていないか調べる為に、俺は巡回に出る事にした。

気休めかもしれないが、警戒行動は大切だ。

……それに皆から離れ、やりたい事もあった。



俺は小屋から離れた丘まで来ると、暗闇に向かって呼び掛けた。


「いいぞ、出て来てくれ。いるんだろ!」


青い燐光が現れ、徐々に大きくなってゆく。

それは二つの人影を形作っていった。


「無事だったか?」


俺は人影に問いかける。


「幽霊になって、無事もへったくれも無いけどね!」


鈴が軽口を叩く。


「取りあえず、現状のすり合わせをしましょう」


明日香が建設的な意見を述べる。


よかった、何時ものこいつらだ。




「前にも訊いたが、ここは過去だと思うか? それとも平行世界なのか?」


俺は大前提となる事を尋ねた。


「その分類は、意味をなさないかもしれない」


鈴がしかめっ面で応える。


「……と言うと?」


俺の再度の問いかけに、鈴は左手を肘を曲げて垂直に立て、右手を曲げて水平にして、両手を交差させる。


「この水平な右手が平行世界、垂直な左手が時間軸。問題は、この座標が私たちがいた世界からどのくらいズレているか。どちらか片方だけと云うのは考えにくい。コンマ1ミリでもズレている筈。ここは過去でもあり、平行世界でもあるんだよ。問題はそのズレ量。出来れば元の世界に帰りたい。その道筋を探る為にも、ここが何処かを知る事は必要」


論理的に客観的に鈴は説明する。不安に押しつぶされそうな心を奮い立たせるように。


「鈴の意見に賛成ね。私の知っている歴史では、紫電改の迎撃は無かった。航空戦力の乏しい日本軍には、そんな余力は無かったの。その紫電改が飛んでいた。」


歴史担当の明日香から声があがった。


「と言う事は、歴史は変わっているかもしれないと云う事か!」


俺は興奮し、声をあげる。IFの世界が、ここにあるのか。


「ええ、でも誤差の範囲ね。大きな流れは変わってないように見えるわ。私たちのいた世界から、あまり離れていないみたい。鈴、その場合タイムパラドックスはどのくらい影響を及ぼすと思う?」


『う~ん』と鈴は眉間に皺を寄せる。


「正直よく分んない。今までなされていたのは仮定だけで、実証された事がなかったんだもん。でも世界線があまり離れていないなら、その影響は大きいと思う」


俺たちが運よく元の世界に帰れたとして、世界そのものが変貌しているかもしれないと云う事か。

ぞっとするな。背中に冷たいものを感じ、俺たちは沈黙する。

時間までも黙り込み、世界が静止したみたいだった。




その静寂を打ち破るように、鈴が口を開く。


「それよりもっと疑問に思う事があるの。…… ”特異点” が、どこに在るかってこと」


それは鈴ならではの視点だった。


「こんなふざけた事態を引き起こした起因となる物がどこに在るか、それを突き止めなければいけない。私たちがこの世界に来た時のあの地震か、ユマが勇哉と一つになった時か、それとも他にあるのか。どの時点で発生したかを特定しないと、打開策が講じられない。……鍵は”悠真” と ”勇哉” の結合なのかなぁ」


鈴は自分の考えを纏めるかのように独り言を言う。


「そうとも限らないんじゃないの。 ”悠真” と ”勇哉” の融合は、以前からあったのかもしれない。……林間学校で ”オカルト研究会” が言っていた言葉を覚えてる? 悠真の ”エーテル体” と ”アストラル体” を、『まるで二つの物を重ねたような造りをしている』って言ってたわよね。その時から既に、融合は成されていたのかもしれない」


明日香が鈴の独り言に応えるかのように言う。

それを聞いた鈴は、頭を掻き(むし)りながら(うめ)く。


「う~、さっぱり解からん! 大体どこが始まりで、どこが終わりなのか、一切定義できない」


一番過去が始まりで、一番未来が終わりかと思っていたが、そうではないそうだ。時間は直線的に流れているのではない。よじれ、ねじれ、湾曲している。そして歪んだ時空は重なり、過去と未来が結合する。その時、著しい情報爆発が発生する。それを ”特異点” と呼ぶそうだ。



「もしかして、閉じられた時空なのかもしれない。 ”ウロボロスの蛇” や ”メビウスの輪” みたいに」


鈴がふと思いついたように零す。


「私たちに、未来は無いのかもしれない。あの集中治療室で跳躍した瞬間の先には、何も存在しないのかもしれない」


鈴の言葉に、皆がしんと黙りこくる。それは絶望的な未来だった。


「冗談じゃないわ!」


堪えかねたように、明日香が大声をあげる。


「私には、やり残したことがある!」


沈痛な面持ちで、明日香は語る。俺は理解した。こいつは執筆活動に命を懸けている。自分の精魂込めて書いた作品が、砂の城みたいにサラサラと崩れてゆく。クリエイターとして、それが我慢ならないのだろう。


「私はまだ、悠真とヤッていない!」


そっちかよ! 高尚な雰囲気が台無しだよ!


「初めて悠真に会った時から、(ほとばし)る劣情を催していたわ。一日も早く結ばれたいと。これはこうなる事を予感していたからなのかしら」


そんな明日香を、鈴は呆れたような目で、冷ややかに見る。


「……いや、それは単なる淫欲だと思う。明日香、けっこうムッツリなんだね」


身も蓋もない事を言った。俺は耳を塞ぐ。


「何とでも言うがよい! 私は自分の望みを叶える。……鈴、私がメアさんに乗り移ること、出来ると思う?」


不穏な台詞が聞こえてきた。


「不可能ではないと思うけど、あんたまさか――」


鈴は口を引き攣らせながら問い返す。


「メアさんの肉体を通じ、悠真とエッチする! 私のアソコで、悠真のアソコを受け止める!」


明日香は高らかに宣言する。一点の曇りもない表情で、迷いのない顔で、聞くに堪えない卑猥な事を。

頭が痛くなってきた。眩暈がした。


「なんちゅう事を! あれ? これも3Pと云うのかな?」


鈴が真理に気付いたような口ぶりで、素っ頓狂(すっとんきょう)な事を言う。

そんな(ばち)当たりなプレイ、聞いた事もねぇわ!


「何でもいい! 悠真と結ばれるなら、形にはこだわらない!」


気高く、(いさぎよ)く、邪念なく、明日香はきっぱりと言い切る。

言ってる内容がアレじゃなければ、惚れてしまいそうだけどね。



「……私もご相伴(しょうばん)にあずかろうかしら」


()女王がごくりと喉を鳴らし、不吉な台詞を吐く。――おい!


「4Pか――。問題は悠真の体力よね。ま~若いから大丈夫か。みんなで輪になって楽しみましょ。ウロボロスの蛇みたいに」


とんでもない事を明日香が言いだした。とんだクローズド・サークルだ。

『助けてください!』 俺は祈りを捧げ、神仏に救いを求める。



『知るかっ、ボケっ。()ぜろリア充!』


俺の心の中で、お地蔵様がペッと唾を吐いた。

シリアスな展開が続きましたので、ちょっと箸休めを……。『 ”クローズド・サークル” とはそんな意味じゃない!』というお叱りは承知の上で、このタイトルを付けました。……思春期の劣情は、如何ともし難い。


よろしければ、『ブックマーク』、星評価をお願い致します。頂ければ狂喜乱舞し、執筆の質が上がること請け合いです。是非よろしくお願い致します。

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