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幽霊となったクラスの女子が、僕のパンツから這い出て来た  作者: 相沢 真琴
第四章 World War Ⅱ(第二次世界大戦)
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合流

俺を乗っ取った悪魔は、紬と一緒に飛鳥山へ、メアの許へと向かう。

それを阻むことは、俺には出来なかった。

肉体に干渉する力が、全て奴に握られているのだ。



山へと向かう途中、彼らの会話を盗み聞いた。

ちょっとずつ、彼らのことが分かってきた。



彼らの世界は、『すまほ』という支配者に管理されている様だ。『ぐるーぷちゃっと』なる組織が作られ、皆そこからの指示に従っている。絶え間なく送られる指示に敏速に従い、その反応が少しでも遅れると、『きどくするー』と糾弾される。……怖ろしい世界だ。

また彼らにとって最大のご褒美は、『いいね』という物のようだ。それを得る為に、彼らは心血を注いでいる。……そんなに美味しい物なのだろうか?



悪魔たちは体力がないのか、山を登る速度は遅かった。

幼い紬にも置いて行かれる始末だ。


だがゆっくりゆっくりと、その魔の手はメアのもとに近づいて行く。

……いざとなったら、刺し違えてでもメアを守る。

一瞬ならば、躰の支配権を取り戻す事が出来る。

この身をよろめかせ、谷底に墜とす事ぐらいは出来る。

メアは、俺が守る! ――そう誓った。




メアたちが住む小屋が近づいてきた。

彼女と最初に会ったお地蔵様が祀られている場所に差しかかった。

俺は祈る。『俺はどうなってもいい。その代わり守ってくれ。メアを、紬を、静さんを!』と。

お地蔵様がにっこりと微笑んだ気がした。

瞬間、雷鳴が(とどろ)いた。幾筋もの稲光が走り、空を覆った。



世界が歪んだ。

俺はその混乱の渦に巻き込まれていった。



情報の濁流が押し寄せて来る。

色々な映像や音が、流れて来た。

それは未知なるものとの邂逅(かいこう)だった。




ごつごつと角張った突起が組み合わさったような、黒い正六面体。

その下に、四本の蜘蛛の脚みたいなものが生えている。

それが荒涼たる大地に向かっている。


「ヒューストン、こちら静かの基地。(わし)は舞い降りた」


ザッザッという異音と一緒に、男の声が聞こえた。

着陸した乗り物のハッチが開き、何かが出て来た。

潜水服みたいな物に身に(くる)んでいだ。

ふわりと水中を漂うみたいに飛び出す。

そして白く色彩の無い大地に足を着ける。


「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」


静かに落ち着いた口調で、男は語る。

それは、歴史的瞬間だったのだろう。


「1969年7月20日、人類は月に降り立ちました!」


アナウンサーらしき者が、興奮を抑え切れずに大声で叫ぶ。

草木も水も無い死の砂漠で、二人の男が兎みたいにぴょんぴょんと飛び跳ねていた。


ここは、月の世界なのか。

僅か20年余りで、人類は月まで辿り着いたのか。


月から見える地球は、ちっぽけな世界だった。

その中で争う者たちが、愚かしく思えた。

それは、神の視座だった。

それでも地球は、青く、美しく、輝いていた。……いとしい程に。




さらに時は流れて行く。

俺は『スマホ』なる者の正体を知った。

小さな、(てのひら)で掴めるような板。

それを駆使し、色々な情報が伝達されていた。


「フォロワー、ついに一万人超えた!」


そう嬉しそうにはしゃぐ、若者の姿があった。


そこは、おかしな世界だった。

井戸端会議が異様な拡大を遂げ、何万人もが同じ場所で、思い思いに語り合ってた。

数万人規模のしゃべくり合いだって? 非常識にも程がある。

だがそのおかしな事が、日常的に行われていた。


情報は力だ。その有無が勝敗を分ける。

もしも俺たちにスマホが有ったのなら、正しい判断を下し、この無謀な戦争を止められたかもしれない。

愚かな軍や政府や報道機関に、騙されなかったかもしれない。




俺とよく似た顔の男が現れた。

夢宮(ゆめみや) 悠真(ゆうま)』、それがその男の名だった。

横に二人の美少女を侍らせていた。

黒髪の知的な少女と、小柄な妖精みたいな少女。……例の悪魔たちだ。

彼らは仲睦まじしく暮らしていた。青春を謳歌していた。

それを見て、俺は昏い気持ちに襲われた。

妬ましかった。羨ましかった。


何故こいつ等はこんなに幸せそうなんだ。

愛情に包まれ、平和な日常を、なんで当たり前のように享受しているんだ。

それを少しはメアに与えてくれ。

悪意にさらされ、戦争に怯え、山奥でひっそりと暮らすメアに!

『今日はイワナが獲れたよ』と、小さな幸せを、至上の幸福みたいに喜ぶメアに!


なにか、すべてを壊してしまいたいような、苦しみを分かち合ってもらいたいような、どうしょうもない気持ちに襲われた。……そして無力な自分を(さげす)んだ。




彼らは矢のように進む列車に乗り、蒼森へとやって来た。

どうやら祖母の見舞いに来たようだ。

彼らは病院へと訪れる。どこか見覚えのある場所だった。

そこで俺は、驚愕の事態に直面する。


紬だ! 紬がそこにいた!

成長し、年を重ね、老いた紬がそこにいた。

幸せそうだった。子どもに孫に囲まれ、幸せそうに微笑んでいた。

――涙がでた。

よかった、紬は幸せになれたんだ。俺は神に感謝した。



だが神は、悪戯(いたずら)好きの子どもだったようだ。

俺の感謝を嘲笑(あざわら)うみたいに、突然紬が苦しみ始めた。


そして紬の顔には、神の企みを見抜いたような、やり切れない表情が浮かんでいた。

紬は治療室へと運ばれる。


「「助かってくれ!」」


俺の想いは、誰かの想いと重なった。


突然、記憶と感情の奔流が、波しぶきをあげ迫ってくる。

堰を切ったみたいになだれ込んでくる。

違う山から流れて来た二つの川が、出会い、重なり、新しい川となっていくみたいだった。

うねり、ぶつかり、崩れ、一つとなってゆく。

砕けた記憶が、絡みあってゆく。

俺はそいつであり、そいつは俺であった。



――――俺と悠真は、一つとなった。

……………そしてゲートは開かれた。

シン悠真、誕生話でした。次回から物語が進みます。


よろしければ、『ブックマーク』、星評価をお願い致します。頂ければ狂喜乱舞し、執筆の質が上がること請け合いです。是非よろしくお願い致します。

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