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ポイント(5)

 部屋では壮馬は既に仕事に取り掛かっていた。


 琉乃はテーブルに湯立ったマグカップを置いてそのまま出ようとした。


「これはなんだ? 」


「わたしに気付いてたの? 

 入ってきたとき見向きもしなかったから仕事に集中しているのかと思って、わざと声を掛けなかったのよ。

 蜂蜜檸檬よ。

 のどに良いから、仕事の傍らに飲んで。わたしも診察があるからもう行くわ」


「琉乃」


「なに? 」


「その… 昨晩は… 助かった。その、なんだ… なんというか… まだ、熱もあるし、症状もあるんだが… 」


「仕事が終わったらまた来るわ。そっちも、仕事していいけれど無理はしないようにね」


「ああ、わかった」


 琉乃は壮馬の部屋を出た。

 少し笑って、自分の家へと向かった。


 距離は数メートルしかない。


 壮馬は部屋でPCを使い文章を構成する。


 瞬間、陽が強く照ったことに気付き、窓の向こうを一瞥するとまた、強く照った。


 琉乃は部屋で昨晩まとめた診療記録をまとめ、家に保管していた。


「今日はフォローアップの患者のもとへと行かなくちゃ」


 保管してある棚に、1か月ほど前に書した紙を手に取った。


「医療の歴史… か」


 書した紙を保管棚に戻し、琉乃は診療へ出掛けて行った。

 

 森の枝々と葉の隙間から零れ落ちる陽に目をかすめた大石は、無造作に植えられた植物を見て、近くの木に記をつけた。


「ここもですか。松田くん、地図に印をつけなさい」


「はい、承知いたしました」


「保険省の事務次官もこんな仕事を請け負うのですよ。減滅しないでくださいね」


「減滅だなんて、そんな…。 国の重要な任務のひとつと捉えております」


「そうですね、重要な任務のひとつ、ですね…。 

 私がこのようなことをしている間にも琉乃さまはひとり、またひとりと救っているのでしょうね」


「大石さま、あの琉乃という女性はなんなのでしょうか? 

 私はこのような職務をしております故、矛盾を感じてしまい腹立たしい限りでございます。

 それはあの琉乃という女性に対して、そしてなによりも自分自身に対してでございます」


「松田くん、それはなによりも人間として正しい反応です。どうか自身を認め、否定せぬように」


「はい、承知いたしました」


 地図に記をつける松田を後目に大石はいぶかし気にその姿を見守る。


 松田はいかにも国に仕えるべきしてこの職務に従事しているように大石には映る。

 

 松田は愚直なほどに好青年だった。


 さて、どうしたものか― そう大石は内心に抱き、遠い空を細くみた。





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