ポイント(4)
この数年間、忙しくてゆっくり夢をみることなんてなかった。
… 夢をみるなんて何年ぶりだろう。
窓からは陽の光が強く入ってくる。
琉乃はベッドに寄り添いながら寝ていた。
壮馬は琉乃の髪の毛をそっと、撫でた。
「俺の看病をしていたんじゃないのか? 」
口角の上がることに少し抵抗を覚えて壮馬はベッドから起き上がった。
机の上には琉乃の書きかけの書があった。
そこにはこの数日間の琉乃が診療をした患者の診療記録が記されてあった。
「現在の診療記録か。過去の記録は… してないのか」
壮馬は再び琉乃を一瞥した。そして琉乃を抱きかかえ、ベッドに寝かした。
良い匂いに誘われて、琉乃は目覚めた。
何故自分はベッドの中にいるのだろう、と不思議に思いながら起き上がると壮馬が呆れ顔で琉乃を見下ろしていた。
「やっと起きたか、寝坊助め」
「あれ? わたし、いつの間に… 」
寝具を見渡しベッドから出るとテーブルの上には朝食が置かれてあった。
琉乃の分はいつもの朝食だったが、壮馬の分は昨日の琉乃が作ったお粥と煮物が置かれてあった。
「それ… 」
「作り置きしてくれていたんだろう? 冷蔵庫の中に入ってたぞ。ほら、顔洗って来い。待ってるから」
「… はい」
顔を洗い、リビングに戻ると壮馬が椅子に座り、琉乃を待っていた。
「食べるぞ」
「はい… 」
「いただきます」
壮馬と琉乃の声が合わさる。
琉乃は食べながら壮馬をみた。
壮馬はなにも言わず琉乃の作ったお粥を食べている。
「体調、どうなの? 」
「熱はだいぶ下がった。少し微熱があるぐらいだな。あとまだ喉が痛い」
「そう。今日、仕事は? 」
「お前の言われた通り家で事務仕事してるよ。さっき大石にもそう伝えてきた」
琉乃は冷やかしながら言う。
「美味しい? 」
「ああ、上手い」
「そんなにストレートに言われると返し方がわからないわ」
「上手いものを上手いと言ってなにが悪い? 」
「いいえ、悪くありませんわ」
琉乃と壮馬は顔を見合って笑う。
朝食が終わり、琉乃が片付けていると壮馬が風邪薬である粉薬を服用していた。
その姿をみていた琉乃に壮馬が気付く。
「なんだ? 」
琉乃はくすくす、と笑いながら片付けを続ける。
「なんでもないわ」
壮馬は顔を赤くして少し不機嫌になった。
「なんだというのだ… まったく。俺は言われた通りにしているだけだ」
厨房に皿を片付けにきた琉乃に料理人たちが迎えてくれた。
「これはこれは、琉乃先生。こちらから片付けに行くべきところを持ってきて頂きありがとうございます。こちらで受け取ります」
「ごちそうさまでした、美味しかったわ。あの、蜂蜜と檸檬ってあります? 」
「ええ、ございます」
「頂戴してもよろしいですか? 」
「もちろんでございます」
琉乃は厨房で少しとどまり、また壮馬の部屋へと戻った。