The truth of the truth(7)
壮馬と大石の目をみて、琉乃は覚悟を決めた。もう、聞かざるを得ない。ここまで、きてしまった― 琉乃はそう思った。
「壮馬さま、どうして民を誘拐したりしたの? なにか目的があってのことなのでしょう? 」
壮馬たちは知っているのか否か、琉乃にとってこの質問は博打だった。
「大石、あれを」
そう言って壮馬は大石に目で合図した。
「壮馬さま、しかし、あれは…… 」
「よい、俺が許す。ここまでのことを推理したんだ。琉乃にはみせなければなるまい」
「…… 承知致しました」
大石は壮馬の後ろにある窓の横の壁に手を置いた。壁に凹みが出来、そこに一冊の本があった。大石はそれを持ち、壮馬に渡し、後ろに従った。
琉乃は声を低くして壮馬に聞いた。
「どういうこと? 書物は全てなくなったと伺っていますが? 」
壮馬は小さく笑った。
「正確には、この本以外は… ということだ」
本のページを捲り、手を止めて壮馬は言う。
「これは俺の家系、つまり北山家に伝わる聖伝だ」
琉乃は眉間に皺を寄せ、左眉尻を上げた。
「北山家に伝わる聖伝? そんなものが個人の家に伝わる訳? 壮馬さま、貴方一体何者なの? 」
大石は一礼をして話に入った。
「壮馬さまはこの国の政務の主にして、天皇というお立場でございます」
右眉を上げて琉乃は声を上げた。
「天皇が国の政務の行える訳がないでしょう? この国の天皇は政治に干渉してはならないはずよ」
「前例を覆す出来事が起こってしまったのです」
「なにが起こったというの? 」
壮馬が話し始めた。
「琉乃、今はそのことは置いておくとしよう。先にこの本について話しておきたい」
「琉乃さま」
大石が琉乃を真っ直ぐとみていた。目にある線を対角線上に張り巡らせているようだった。
「琉乃さまの推理にはぐうの音もでませんでした。この聖伝は、北川家に伝わる預言の書となります」
「預言の書…? 」
「ええ。こう言えば察しがつくと思います。この書には、琉乃さまの存在にも書かれてありました」
「わたしのことが書かれてあった? ということは壮馬さまも大石さんもわたしのことを知っていたというの? 」
「最初は気付きませんでした。琉乃さまに関しては曖昧な記述でしかなかったので正直なところ、最初は半信半疑でしたのですが… 」
「なんて書いてあったのですか? 」
大石の線が揺らいだ。
「大石」
壮馬が目で話した。壮馬は直線を描いていた。大石が一礼をする。
「琉乃さま。琉乃さまに関してはこのような記述があります。
〈このような頃になると奇天烈な話術を行う女現れけり。
信じようならば真実となろう。
女の道標は破壊となるか再生となるか、信じる者の意思次第となろうか。
その力は信じることを信じ切ることが出来た者のみが知ることになろう〉」
「破壊と再生…? これ、どこかで聞いたことがあるような… 」
「梅さまです。梅さまが初めて琉乃さまと会ったときに易をたてられました。そのときに破壊と再生の相が出ている、と仰いました。半信半疑だった私たちが琉乃さまに確信を抱きました。だからこそ、壮馬さまは琉乃さまを元居た時代に帰そうとしたのです」
「… 破壊の方を信じたということね」
「違うぞ! 断じてそうではない! 」
壮馬が声を荒げた。
「壮馬さま…? 」
壮馬はそっぽを向き、頭をぐしゃぐしゃにした。気のせいだろうか、琉乃には壮馬の耳が赤くなっているように見えた。
窓の向こうに光が差し込んだ。流れるように葉が風に舞っていた。琉乃は違和感に狩られた。
「ねえ… やけに官邸内が閑静じゃない? わたしもすんなり此処に入れたわ。警備も薄くなっていたわよね? 」
「ああ、… 琉乃に言われたことで俺も気になっていたことがあってな。かくまう場所の存在を言っていただろう? 検討がつく場所がひとつだけ、ある」
「… どこ? 」
「森の奥に祠がある。そこで俺は民をさらい聖伝の通りにしていたんだ。だから今、衛兵たちを祠に向かわせているところだ」
「… 待って、ねえ、衛兵たちの防護服の着用のこと聞いている? 」
「何の事だ? 」
(… やっぱり‼ )
「壮馬さま! さらった民たちをどうしていたの? 」
「森の奥の祠にかくまい、聖伝に記された薬を作り飲ませていたんだ…。 そのあとは解放していた」
壮馬は罰が悪いように言った。琉乃は顎に手を置いた。
「壮馬さま、その聖伝、わたしに読ませてもらうことは可能かしら? 」
壮馬の隣で大石が躊躇していた。
「ああ、わかった」
壮馬は意を決して大石から聖伝を取り上げ、琉乃に渡した。
琉乃はページを捲り、急いで読んでいった。




