The truth of the truth(2)
「なにをしていたの? 」
「炭を作っていたんです」
「炭を? 」
「ええ、琉乃先生から水の蒸留の大切さを教えていただいたので」
「そう、そうね。あの流行り病の時、萩原さんにも色々と力になってもらったものね。本当にありがとう」
「いえ、俺なんてなにもしてないですよ。あの時は琉乃先生がいてくれたから俺たちがいまここでこうして暮らしていられるんですよ」
「わたしの力なんて微々たるものよ。それ以上に萩原さんたちが細かなところまで配慮してくれていたから流行り病の収束を迎えることができたのよ」
「琉乃先生にそういってもらえると嬉しいです」
「炭を作るのは難しい? 」
「ええ、温度管理やら火力の調整だったり地味な仕事ならではの難しさがありますよ。まあいわゆる鍛錬ですよね」
「火力… 」
「ええ、千℃近くをみていなければなりませんからね」
萩原は流行り病の時、看護にあたっている官職の者たちの備品を調達したり、衛生的に守られた手順に沿って汚物を廃棄してくれていた。
それが間接的にあの病の拡がりを抑えていてくれていたことに琉乃は感謝しても足りないほどだった。
「そういえば琉乃先生、放牧の鈴木さんのお宅の事件、聞きましたよ」
「… そうなのよね」
萩原はまた笑った。
「ははは、琉乃先生もなんかしら関わっているんですね。忙しい方ですね」
「解らないことが多すぎて、頭が廻らないのよ」
病人の誘拐と家が荒らされた痕跡の理由を琉乃はずっと追っていた。なぜ病人をわざわざ襲ったのか。しかも鈴木一家、つまり大人が4人も一度に誘拐されたということは犯人も恐らく複数人の筈だ、と琉乃は踏んでいた。家が荒らされたことも意図的か、そうではないのかをずっと考えていた。
浮かない顔をしている琉乃に萩原は声を掛けた。
「まあ民の間では夜逃げの説をうたっている人が沢山いますよ。なんたってあのお嫁さんの家柄とでは差があり過ぎると好き勝手言っている人が大半ですけどね。それで肩身がせまくなったんじゃないかってね」
「人はそういう話が好きよね。それが全く関与していないとは確かに言えないけれど… でも、病人を誘拐するってどういうことなのかしら… 」
琉乃はぼそぼそと呟いた。
「病人? 鈴木さんのお宅は体調を崩されていたんですか? 」
琉乃は思わず考えていることを漏らしてしまった。
「あ、えーと… え、ええ。まあ」
しまった、と琉乃は思った。あまり確証のないことを不用意に言葉にすることは適切ではない。琉乃にとって萩原は信頼の置ける人物だ。しかしオカリナの不器用な音色を聞かせて、萩原は気分を害しないだろうかと不安になった。致し方ないのか、でもやっぱり、琉乃は繰り返した。
「琉乃先生、話せないことだったら無理に話さなくてもいいですよ。ただ聞けるところだったら聞きますし、話すべきだと思ったら話してください」
「うん、ありがとう… 」
琉乃は丁寧に一歩ずつ、音色を奏でてみようと思った。
家と放牧場の間の草の生えた通りにあった吐血の痕跡。荒らされた部屋。琉乃には一つの仮説があった。




