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The Beginning of the Incident(9)

「琉乃先生、実は僕、結婚が決まりまして…… 」

「まあおめでとうございます、瑛輔さん。お相手はもしかして? 」

「琉乃先生に隠すことなんて出来ませんね。ええ、お察しの通り井上百合さんです」

「素敵なご報告、ありがとうございます」

「琉乃先生のお陰です。琉乃先生があの場を用意してくれたから僕たち知り合うことが出来ました」

「わたしなんて何もしてません。もとより結ばれる運命だったのではないでしょうか? 」

「いえ、そんな…… いや、そうかもしれないです」

「あら、ごちそうさまです」


 隣にいる父親である鈴木も嬉しそうにしていた。

「いやー、百合さんはいいとこの娘さんでしてね。うちなんかに嫁に来てもらえるだけでありがたいことですよ、琉乃先生」

 さらにその隣にいた鈴木の奥さんも困った顔で笑っている。

「いえね、琉乃先生。私も知性的なお嬢さんだったからどうしたもんかと思ったんですけど、この子らの熱意に負けてしまったんですよ」


 鈴木宅の後ろの牛舎から鳴き声が聴こえてきた。

 琉乃はじめ、その場にいた皆が笑った。

「瑛輔さん、牛さんたちもおめでとうって言っているわよ」

 瑛輔は頬を赤らめ照れくさそうに笑っていた。


 仮の救命救護室。数か月前の戦場の跡地に琉乃はいた。今、此処には誰も訪れない。時が記憶を消したかのように忘れ去られていた。

 それが琉乃にとっては好都合だった。

 簡易的なベッドに男がひとり、眠っていた。

 その隣で琉乃は顕微鏡を覗いていた。

 男に近づき、脈をとる。腕に斑点と異色のリングの形の跡があることに琉乃は気付いた。



「壮馬さま…… 壮馬さま! 」

 大石の呼びかけにやっとのことに気付く壮馬は仕事に集中出来ずにいた。

「あ、ああ大石。すまん、なんだ? 」

「なんだではございませんよ、ここ最近、心此処に在らずという感じではないですか。なにか気になることでも? 」

「琉乃……、あいつ…… 」

「琉乃さまがどうされたのですか? 」

「…… いや、なんでもない。大石、あいつあの黒いトープを纏った男を俺の家でみた、と言ったと言っていたな? 」

「はい、左様でございます」

「いなかった」

「え? 」

「あの時、琉乃が初めてここに訪れたとき、そのとき俺の部屋にその男はいなかったんだ。

 考えてみろ。あいつが見ていたのならその時俺も見ていた筈だろう?

 あいつ、なんでそんな嘘を言ったんだ? 」

「…… それか、嘘と分かることを前提に言ったのかもしれませんね」

「…… なんでそんなことを… 」

「…… 」



 結婚式当日。琉乃は招待されていた。

 屋外での会場は豪華ではないがそれなりに華やかに飾っている。

 招待された面々が今か今かと主役たちの登場を待っていた。

 琉乃は招待客を見回していた。

(恐らく、鈴木の血縁者が大半……)

 空に昼の星が空気のように、光った。



 鈴木の家では慌ただしくしていた。

「百合さん、支度出来たの? 」

「はい、お義母さん、出来ました。もうそろそろ会場に行かないと間に合いませんね」

「ほら、瑛輔も、支度ちゃんと出来たのかい? 」

「ああ、もう行けるよ」

「おとうさんはどこ行ったんだい? まったく、あの人はこんな日だっていうのに… 百合さん、探してきてくれないかい? 」

「はい、お義母さん」

 百合は鈴木の部屋を見て回った。

「お義父さん? もうそろそろ会場へ行く時間ですよ」

 鈴木は居なかった。

「お義父さーん! どこですか? 」

 家の中を見回ったがそれでも鈴木はいない。


 外で牛が鳴いている。

「そうか、牛に私たちのこと報告でもしているのかな」

 そう考え百合は笑った。義父もかわいいところがあるのだな、と想像していた。

 相変わらず牛が鳴いている。

「お義父さん? 」

 草草が凪ていることに百合は気付いた。その跡を追っていくと、鈴木がうつ伏せに倒れていた。

「お義父さん⁉ 」

 百合は鈴木を仰向けにした。脈を測る。

 鈴木は勢いに任せ吐血した。

 それが百合の目の中に入る。

 百合は恐怖に狩られた。

「お… 義父… さん…… 」

 背後に人影がうつる。

 百合は振り返るその途に意識を失った。


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