The Beginning of the Incident(8)
夜が更けた頃、壮馬は頭を抱えていた。
(どういう意味だったのだ…… シスコン、シスコン⁉ )
「わからん! 寝よう… 」
目を瞑り、静寂の中に身を委ねる。
壮馬が目を見開く。
「あいつの言葉が気になって寝れん‼ 」
外の空気が靄に変わる頃、白みと共に壮馬はうとうとして次第に眠りに入っていく。
それから長針と短針の追跡が変わる変わると過ぎる。
壮馬が身体を起こし、意識がはっきりとしないまま歩き出し、外へと出ていく。
靄と白みが交るその中に壮馬は吸い込まれるように歩を進めた。
足が進むうちに壮馬は意識がだんだんとはっきりとした。
気付くとそこはハーブ畑が拡がっていた。
靄と白みが辺りに舞う。
色とりどりのハーブの香りが争わないように漂う。譲歩を、知っている。
壮馬の足が止まる。
壮馬の視線の先に、黒いトープを纏った男の後ろ姿があった。
「…… 呪わしき生まれの尊い占い、者」
男が壮馬の方を振り向く、その瞬間だった。
壮馬の身体が下方に引っ張られた。思わずしゃがみ込む。
「琉乃‼ 」
「しっ! 」
男が壮馬と琉乃に近づいてくる。
琉乃は目の前にあったフェンネルの種子を手に取り、手の平で浮かばせた。
種子はハーブ色の小さな球体に包まれた。
「…… 琉乃? 」
琉乃はそれを自身の対角線上へと急速移動させ、その先にあったマツボックリと衝突させ、ぱちん、と乾いた音を鳴らした。
男はその音の行方を追う為に再び振り返り、探した。
「今のうちよ。気付かれないようにここを去りましょう」
「あ、ああ…… 」
背を低くしたまま琉乃と壮馬は移動する。
ふたりは神経を使いながらその場から離れようとした。ハーブを掻き分け、静かに動く。
壮馬の足元に小枝が落ちていた。
壮馬はそれに気付かなかった。
それを足で踏みつけてしまった。ぱき、と静寂の中に音が響いた。
男は振り向き、琉乃たちに近づいてきた。
歩幅が早く、気付かれいることがほぼ確定していた。
琉乃は立ち上がり、男の前に姿を現した。
壮馬も立ち上がり、琉乃をかばうように前に立ちはだかる。
男は歪ませた形相をし、手の平を反時計回りにまわし忌まわしき声を出しその円から黒き蝶を大量に発生させ琉乃たちに向けて放った。
琉乃は右手を時計回りにまわし左側にあるコルディリネフルティコーサの葉を描いた円に重ね男の放った蝶へと浴びせ、そのまま男にも浴びせた。
琉乃はあの言語を男に向け唱えた。
琉乃がここへといざなわれた時のあの本の言葉。この世に存在しない言葉の呪文の唱和。
身体の血が踊る。
男はもがき苦しんだ。
琉乃はバックソーンの枝を手に持ち、壮馬と琉乃の身体の周りを囲った。
天に手を向け、時計回りに円を描いたとき、琉乃と壮馬の身体はそこから消えた。
男は足掻きながら、その光景をみていた。
琉乃と壮馬は部屋にいた。壮馬の部屋、寝室だ。
「琉、琉乃…… お前、一体…… 」
「壮馬さま、モーファという花を知っている? 」
「モ、モーファ? 花? いや、知らない」
「咲いているところをみたことはある? 」
「いや、花自体を知らないから勿論、咲いているところもみたことがないけど…… 」
「そう」
「今度は俺の番だ。俺の質問に答えろ。お前一体、何者だ? 」
「ごめんね…… 」
そう言って琉乃は壮馬の頭を撫でた。
瞬間に壮馬はベッドに吸い込まれるように眠りについた。
「今はまだ、明かせない」
その朝、壮馬は目覚めた。いつものベッドの中に壮馬はいた。
「夢…… か? 」
髪を手で逆なで夢の中の出来事の整理を頭の中で行う。
袖にバックソーンの小枝が絡まっていた。
「…… 琉乃、あいつ…… 」
壮馬はベッドの枕元の壁を軽く押した。そこから小さな扉が開く。
その中から一冊の本を取り出した。
或るページを捲ると壮馬は息をつき、唾を飲み込んだ。




